

ジョブ型移行の現実と日本企業の課題
日本企業は、年功序列・終身雇用から ジョブ型雇用 への移行を模索している。しかし、過去に導入された 成果主義の失敗 を考えると、ジョブ型が本来の形で機能するかどうかは不透明だ。
ジョブ型の理想は、「職種ごとに給与が設定され、希少性や重要性に応じて報酬が決まる」というものだ。これにより、労働者は自分のスキルを活かした職種を選び、その価値に見合った給与を得ることができる。一方で企業も、「国際基準に基づいた適正な給与」を提供することが求められるため、 不当に安い給与の設定が難しくなる。これは、労働者にとっての大きなメリットとなる。
しかし、日本の企業文化において、ジョブ型が完全に機能するとは考えにくい。特に以下の 3つの課題 が大きな壁となる。
1. 成果主義の失敗から学ぶべきこと
過去に日本企業が取り入れた 成果主義 は、結果として労働環境の悪化を招いた。
成果主義の問題点
- 評価基準が不透明だった
→ 「成果を出した」と認められる基準が曖昧で、上司の裁量次第で評価が決まるケースが多かった。 - 短期的な成果ばかりが重視された
→ 長期的な成長よりも、即座に結果を出すことが求められ、無理なノルマ設定や不正が発生。 - リスクだけが労働者に押し付けられた
→ 企業は成果に応じた昇給を約束せず、むしろ「成果が出なければ減給・解雇」といった圧力をかけた。
このように、日本では 「欧米の悪い部分だけを切り取った成果主義」 を導入してしまい、結果として労働者のモチベーション低下を招いた。ジョブ型がこの二の舞にならないためには、企業が給与の基準や評価制度を透明化しなければならない。
2. ジョブ型を機能させるための3つの条件
ジョブ型が労働者にとって本当に有利な制度となるためには、 以下の3つの要素が不可欠 だ。
① 企業が国際基準を無視しない環境づくり(適正な相場の情報公開)
🔹 解決策
- 政府主導で「職種別賃金データベース」を公開
→ 日本の労働市場の透明性を高め、企業が市場相場を無視した給与設定をできないようにする。 - 求人サイトと連携し、職種ごとの賃金データを統合
→ Indeed、LinkedIn、ビズリーチなどの情報を基に、リアルタイムの給与相場を可視化。 - 上場企業に「職種別給与の開示」を義務化
→ 「給与の相場」を明示することで、企業が労働者に適正な報酬を支払うプレッシャーをかける。
② 労働者側の交渉力向上(転職市場の活性化)
ジョブ型が本来の意味を持つためには、「今の会社が適正な評価をしないなら、より良い職場へ移る」という 労働者の選択肢 が必要。
🔹 解決策
- 転職回数が評価に影響しない仕組みを作る
→ 日本では転職が「ネガティブ」に捉えられがちだが、海外では「スキル向上の証明」として評価される。これを日本にも定着させる。 - 政府がリスキリング支援を拡充
→ 転職しやすくするため、新しい職種に適応できるスキルを学ぶ機会を提供(例:職業訓練校の無料化、企業の研修費補助)。 - 企業に「離職率データ」の開示を義務付け
→ ブラック企業を見える化し、労働者が正しい判断をできるようにする。
③ 評価の透明性確保(ジョブディスクリプションの明確化)
ジョブ型では「どんな仕事をするのか(ジョブディスクリプション)」が明確であることが前提。しかし、日本企業は「なんでも屋」文化が強く、評価基準が曖昧になりやすい。
🔹 解決策
- 企業にジョブディスクリプション(JD)の開示を義務付け
→ どの職種が何をするのかを明確にし、労働者が適正な評価を受けられるようにする。 - 評価基準の定量化と第三者機関の監査
→ 例えば、昇進の際に「社内評価+外部評価(業界標準テストなど)」を導入し、不透明な評価を防ぐ。 - 社内異動の透明性向上
→ 「採用時の職種と関係のない部署に異動させる」ことを制限し、労働者が専門性を活かせる環境を作る。
3. 日本は完全なジョブ型にはならない
ここまでジョブ型のメリットと課題を述べてきたが、日本が完全にジョブ型へ移行するとは考えにくい。
その理由は、
- 管理職の大半が年功序列で昇進してきたため、ジョブ型評価の適正な運用が難しい
- 日本の労働組合が年功型の仕組みを前提にしているため、反発が予想される
- リスキリングや転職市場の整備が十分でないため、労働者が自由に職種を変えられない
結果として、日本の企業は 「ジョブ型と年功型のミックス」 へと進む可能性が高い。
結論:ジョブ型が機能するかは運用次第
ジョブ型が本来の形で機能すれば、「職種の市場価値に応じた適正な給与」が確保され、労働者の交渉力も向上する。しかし、企業が「ジョブ型の名を借りた賃金抑制」を目論む場合、労働者にとっては改悪となる。
ジョブ型を本当に機能させるには、
✅ 職種ごとの市場価値を可視化 し、企業の恣意的な給与決定を防ぐ
✅ 転職市場を活性化 し、労働者が自由に職種を選べる環境を作る
✅ 評価の透明性を確保 し、ジョブ型の名を借りたコスト削減策を防ぐ
これらの条件が整うかどうかが、日本の雇用環境を左右する鍵となるだろう。
「日本型雇用」はいよいよ変われるか…「ジョブ型で全部解決」とはいかない根深い構造(坂本 貴志) | 現代新書 | 講談社