管理職の任命責任と降格の仕組み——「部下の離職は給料のせい」と言い訳する上司たち(2025.3.4)

管理職の任命責任と降格の仕組み——「部下の離職は給料のせい」と言い訳する上司たち

「部下が辞めるのは給料が低いから」と語る管理職は少なくない。しかし、厚生労働省の「令和4年雇用動向調査結果の概況」によると、離職理由の上位には「労働条件の悪さ」や「職場の人間関係の不和」が挙げられており、「給料が原因」とする上司の言い分は単なる言い訳に過ぎない。つまり、部下の離職を本質的に防ぐためには、管理職の適性を問うことが不可欠である。

しかし、多くの日本企業では、適性のない管理職が温存される構造的な問題が存在する。一度管理職に昇進すると、よほどの問題を起こさない限り降格されないのが一般的であり、「部下の離職が続いている」「チームの生産性が低下している」などの明確な問題があっても、責任を問われることは少ない。こうした現状が、組織の硬直化を招き、結果として企業の競争力を削いでいる。

では、日本の労働法制において、適性のない管理職を降格させることは可能なのか? 企業側がしばしば「日本の労働法では降格が困難」と主張することがあるが、実際には、適切な制度設計を行えば管理職の降格は合法的に実施可能である。その根拠として、1998年のソニー事件が挙げられる。


ソニー事件に見る降格の適法性

1998年のソニー事件では、就業規則に明確な降格基準が定められ、公正な評価制度が運用されていたため、降格が適法と判断された。この判例は、企業が適切な手続きを踏むことで管理職の降格が法的に許容されることを示している

逆に、降格が違法とされた過去の裁判例では、

  • 降格の基準が不明確だった
  • 経営者の恣意的な判断による降格だった
  • 降格に伴う給与の減額が大幅すぎた

といったケースがある。つまり、降格を適法に行うためには、事前に明確な基準を設定し、公正な評価制度を運用することが不可欠である。


降格制度導入のために必要な条件

管理職の適性評価と降格を適法に運用するためには、以下の制度設計が求められる。

① 降格基準を就業規則に明記

企業が恣意的に管理職を降格することを防ぐため、降格の基準を明確にし、就業規則に記載することが必要である。例えば、以下のような客観的指標を設定できる。

  • 部下の定着率(部下の離職率が一定以上であれば、管理職としての適性を再評価)
  • ハラスメント・パワハラ行為の有無(問題行動が認められた場合、管理職から外れる)
  • チームの業績評価(一定期間にわたって成果が出せない場合、再配置を検討)

こうした基準を数値化し、定期的に評価することで、降格の恣意性を排除できる。


② 降格に伴う給与減額を極端にしない

降格を不利益変更と見なされないためには、給与の減額が極端にならないようにする必要がある。具体的には、

  • 降格後も基本給は維持し、管理職手当のみ廃止
  • 給与減額は段階的に実施する

こうした工夫により、「降格=給与半減=事実上の解雇」となることを防ぐことができる。


③ 降格後の適切な配置を確保

降格が「管理職を外すだけ」では、社員のモチベーションを低下させ、企業の信頼を損なう。そこで、降格後のキャリアパスを明確にすることが求められる。

  • 「専門職」への転換(技術・企画業務に集中させる)
  • 「研修・人材育成担当」への異動(次世代の育成を担当)
  • 「プロジェクトマネージャー」など限定的な管理職ポジションへの再配置

降格=キャリアの終焉ではなく、「適材適所」への配置転換というポジティブな意味合いを持たせることが重要である。


慎重な制度設計が求められる理由

ここで注意すべきは、この仕組みが企業にとって都合の良い年配者解雇システムとして悪用される危険性である。企業が「管理職の適性評価」を名目に年齢による選別を始めれば、年功序列が崩れた後の受け皿もないまま、大量の年配者が放り出される可能性が高い。

そのため、企業が降格制度を導入する際には、以下のポイントに留意すべきである。

年齢に関係なく、客観的な評価基準を設定(定着率・業績・チームの健全性)
降格後も「使い捨て」ではなく、適切な職務への再配置を確保
「降格=解雇」にならないためのキャリアパスを企業内に設計

これらの対策を取らずに、単に「降格制度を導入するだけ」では、企業側の都合の良いリストラツールとして機能し、社会全体の問題へと発展する可能性が高い。


結論:企業の暴走を防ぎながら、管理職の適性評価を制度化すべき

管理職が「給料のせい」と言い訳し、離職を止められない現状は放置できない。
適性のない管理職は降格する仕組みが必要だが、それは公正な基準に基づくべき。
ソニー事件でも、適切な制度設計があれば降格は合法と判断されている。
しかし、企業の暴走を防ぐために、「年齢による排除」とならない制度設計が不可欠である。

日本企業が硬直した組織運営から脱却し、競争力を維持するには、「管理職は適性がなければ降格する」仕組みが必要である。しかし、それが暴走しないための歯止めもまた不可欠なのだ。

企業が短絡的な「若手優遇・年配者排除」に走るのではなく、公正な評価と持続可能な雇用制度を両立する改革こそが、日本の未来を左右する鍵となる。

離職の原因トップ3「給料が理由」は意外と少ない 「部下が離職は給料のせい」と言う上司の真意 | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン

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