昇進を拒む時代、企業の新たな役割とは(2025.2.25)

はじめに ― 昇進は本当に「成功」なのか?

かつて、昇進は社会人にとって成功の証でした。より高い役職、増える責任、それに伴う給与の上昇──それらは成長の象徴であり、社会的評価も高まりました。しかし、現代ではその構図が崩れつつあります。多くの労働者が、「昇進を拒む」という選択を取っているのです。

その背景には、単なる怠惰や責任回避ではない、極めて合理的で戦略的な思考があります。この記事では、そうした現代のキャリア観の変化を紐解きつつ、企業に求められる本質的な役割と制度設計のあり方について詳しく考察します。

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なぜ昇進を拒む人が増えているのか?

● 報酬に見合わない責任

現代の管理職は、仕事量・精神的負荷・人間関係調整などの「目に見えない労力」を多く抱えながらも、それに見合う報酬が得られないケースが少なくありません。
特に日本企業では、名ばかり管理職に昇進することで残業代がつかなくなり、「時給換算では昇進しない方が得」という現象も起きています。

● ワークライフバランスの悪化

多くのミレニアル世代やZ世代にとって、「自分の時間を確保すること」は非常に重要な価値観です。昇進によって業務時間が不規則になったり、家庭や趣味とのバランスが崩れたりすることを嫌う層が増えています。

● 精神的負担と燃え尽き症候群

管理職になると、成果責任・部下育成・組織調整といった精神的負担が急増します。近年はメンタルヘルスへの意識も高まっており、昇進が「キャリアの進展」ではなく「健康リスク」と感じられる場合も少なくありません。


昇進を拒む社員は本当に「意欲がない」のか?

「責任を負いたくない人が増えた」という批判的な声もありますが、実際はそうではありません。現代の労働者は、より冷静かつ戦略的にキャリアを設計しています。

ポイントは、「責任を避けたい」ではなく、「報酬に見合わない責任を負いたくない」というスタンスです。

彼らの多くは、企業内での昇進よりも、市場価値を高めてよりよい待遇の外部ポジションに移るという選択を重視しています。これは決して逃避ではなく、むしろ合理性のある行動と言えるでしょう。


見えてきた3つのキャリア志向

現代の社員は、一枚岩ではありません。以下のように、それぞれ異なる目的や価値観に沿ってキャリアを選択しています。

① アスリート型:高報酬と挑戦を求める層

  • 成果を上げることで正当に報酬を得たい
  • 社内昇進よりも転職によるキャリアアップを重視
  • 自身を高く評価してくれる環境を選びたい

② ワークライフバランス型:生活の調和を優先する層

  • 過剰な責任や労働時間を避けたい
  • 収入よりも「自分らしい生き方」を重視
  • 無理のない範囲で仕事をしたい

③ 専門職志向型:マネジメントではなく技術で勝負したい層

  • 管理職よりも専門性の深化を優先
  • 成果で評価されたいが、人事権や部下管理には興味がない
  • 専門スキルで報われる評価制度を望んでいる

画一的な昇進モデルはもう限界

これまでの日本企業では、「昇進=昇給=成功」という一本道のキャリアモデルが主流でした。しかし、上記のように価値観が多様化した現在、その一律モデルは限界を迎えています。

昇進しない=能力が低い/やる気がないという考え方は、すでに時代遅れです。

むしろ、こうした偏った考え方こそが人材の流出や組織の停滞を招いているのです。


これからの企業に求められる対応策

✅ 1. 報酬体系の見直し

  • 役職に関係なく成果・スキルで報いる制度
  • 昇進しなくても年収が上がる専門職パスの整備
  • 管理職には明確な裁量と責任に見合った報酬を設定

✅ 2. 柔軟なキャリアパスの提供

  • アスリート型には高リスク・高リターンのポジション
  • バランス型には負荷の軽いマネジメント支援職
  • 専門型には技術的に挑戦できるプロジェクトベースの業務

✅ 3. 評価制度の刷新

  • 昇進しない人も社内でスポットライトを浴びる仕組み
  • プロジェクトリーダー制やピアレビュー制度など、多様な貢献を評価
  • 能力や成果に対する報酬と地位の切り離し

✅ 4. シンプルな制度設計

制度が複雑すぎると社員は理解できず、選択肢が形骸化します。企業は「誰が見ても分かる」シンプルなルールを設けるべきです。

例:

  • キャリアタイプ別モデルを明示(職種別ガイドライン)
  • 年に1回の自己選択キャリア面談制度の導入
  • 役割や給与レンジの明文化

企業が「選ばれる存在」になるために

これからの時代、企業がすべきことは「社員を変えること」ではなく、「社員に選ばれること」です。働き手の意識が成熟し、個別最適を追求する今、企業の側にも変革が求められています。

社員が「この会社で働き続けたい」と思える環境を整えられるか。これは、単なる人事部門の課題ではなく、企業全体の持続可能性に関わる経営課題です。


まとめ ― 昇進を拒むのは“逃げ”ではなく“選択”

昇進を拒む人が増えているという事実は、意欲の低下ではなく、個々のキャリアに対する自律的な意思決定が進んでいる証拠です。

企業は、この新たな時代の人材観を理解し、多様なキャリアパスを用意しなければなりません。社員を型にはめるのではなく、それぞれの志向に応じて力を発揮できる場を整えることこそが、これからの経営の本質になるでしょう。

昇進を選ばない社員にも、挑戦の機会と正当な評価を与え、彼らの意志を尊重すること。それができる企業こそが、これからの時代において信頼され、選ばれ続ける組織となるのです。


「昇進を断る」従業員が増加中、その影響と会社が取るべき対策 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)