

はじめに:「釣り方を教えるリーダー」が組織を支える
「魚を与えるのではなく、釣り方を教えよ」──この言葉は、リーダーシップの本質をよく表している。
リーダーとは、現場のすべてに口を出して自分がこなす人ではなく、部下が仕事を遂行できるように環境と指針を整え、必要なときに采配を下す存在だ。自らが“釣りに出る”のではなく、部下が自力で“釣れる”ように導くことこそ、リーダーの本分である。
今回はこの比喩を軸に、なぜ優れたリーダーほど“暇そうに見える”のか、そしてなぜそれが正解なのかを考えていく。

プレイヤーとリーダーはまったく別の職務である
現場で手を動かす「プレイヤー」と、組織の成果に責任を持つ「リーダー」は、まったく異なる役割を担っている。にもかかわらず、管理職がプレイヤー業務に埋もれてしまう現象は後を絶たない。
だが本来、リーダーは「チーム全体が魚を釣れているか」を確認し、必要なときに助言や判断を与える立場にいるべきだ。自らが率先して魚を釣っていては、全体を見渡すことも、責任を取ることもできなくなる。
| プレイヤーとリーダーの違い |
|---|
| 目的:目の前の業務を遂行(プレイヤー) / チーム全体の成果を最大化(リーダー) |
| 行動:自分が動く(プレイヤー) / 人を動かす(リーダー) |
| 視野:タスク単位の視野(プレイヤー) / 部内全体への目配り(リーダー) |
| 責任:成果の一部を担う(プレイヤー) / 成果全体に責任を持つ(リーダー) |
リーダーがプレイヤー業務に埋もれてしまえば、部下の動きが見えなくなり、采配のタイミングも逸する。それはリーダー機能の停止と同義だ。
「リーダーが忙しい」は、業務設計・組織設計の失敗である
「いま忙しいから後にして」──このひと言は、部下の行動を止める最もシンプルなブレーキである。
だがそもそも、リーダーが“いま忙しい”状態に陥っている時点で、業務として、そして組織としては失格だ。リーダーが自らの仕事に手一杯ということは、「他者の問いに答える」「部下の動きを見て判断する」という本来の任務を放棄していることに等しい。リーダーをそのような状態に追い込んでいる組織にも問題がある。
忙しさは仕方のないものではない。リーダー自身が設計し、任せ、整理しきれていないことの結果にすぎない。余裕があることは甘えではなく、「構えて待つための仕事」なのである。
余裕のないリーダーが生むのは、沈黙と硬直である
焦っているリーダーの周囲では、人が静かになる。
なぜなら、部下は「話しかけていい空気ではない」と判断し、報告や相談のタイミングを逸するからだ。
言葉を荒げずとも、態度や雰囲気が職場の空気を支配する。そして、「話しかけづらい上司」のもとでは、小さな報告が滞り、判断の遅れが積み重なり、ミスや不安が連鎖していく。
つまり、余裕のない上司の下では、部下の判断は鈍り、チーム全体が“止まる”。
優れたリーダーは、「何もしない」のではない
では、“暇そうに見える”リーダーは、本当に何もしていないのか? 答えは否だ。
彼らは常に全体を見ている。
- 誰が今止まっているか
- 誰が詰まりかけているか
- 判断が必要な地点はどこか
- 顧客の声がどこに溜まりつつあるか
こうした「兆し」は、構えて見ていなければ拾えない。釣り場を見守る人がいなければ、誰かが竿を折っても、網が破れても、誰も気づかない。
リーダーとは、“余裕”を持って構えているからこそ、「いざというとき」に最短で動ける存在である。
但し、“いかにも暇そうな”リーダーも問題である。チームの指揮を下げかねない。優れたリーダーは、“暇そう”ではなく“余裕”があるように見せるのだ。余裕のある状況、困ったときには頼れる状況が、部下の仕事の潤滑油ともなる。結果、釣果が挙がるようになるのだ。
リーダーが動くべきタイミングとは?
もちろん、リーダーが動かざるを得ない場面はある。
- 対顧客で炎上寸前の場面に出くわしたとき
- 部下の権限を超えた判断が必要になったとき
- 緊急の穴を一時的に埋める必要が生じたとき
こうした場面では、リーダーが“出る”ことは責任の一端である。ただし、それはあくまで“例外的な采配”であって、“常に動いている”のとは根本的に違う。
部下が順調に釣れている間は、リーダーが手を出すべきではない。これは「成長機会を奪わない」と同時に、「釣れているならそのままでよい」という純粋な合理判断でもある。
結論:優れたリーダーは、釣らない
リーダーの使命は、自ら魚を釣ることではない。
- 皆が釣れるように整備すること
- 状況を見守り、采配すること
- 問題が起きたときに即応し、責任を取ること
これらを行うためには、“余裕がある状態”が必要なのだ。
釣りに出ているリーダーには、自分の背後で誰が詰まっているか見えない。
だが、岸から見ているリーダーには、全員の姿が見える。
優れたリーダーは、「余裕がある」ことで、組織の全体を支えているのである。
【バカ上司】会社の空気を悪くする「無言のリーダーシップ」の特徴・ワースト1(ダイヤモンド・オンライン)