

商売として当たり前のことが、なぜ日本ではできないのか
労働時間は短ければ短いほうが良い。 商品は高く売れたほうが良い。 給料は高いに越したことはない。 そして商品は、長く持つほうが良いに決まっている。
これらはすべて、商売の世界では”当たり前の話”である。
にもかかわらず、現在の日本企業はそれらをことごとく外している。 長時間働いても大して稼げず、良いものを作っても安く売り、給料は上がらず、製品はすぐに買い替えさせられる設計。
それはつまり、商売として当たり前のことがすべてできていない国、それが日本だという現実を意味している。
では、なぜそのような構造が生まれてしまったのか? 本稿では、ドイツとの比較を通じてこの問題の本質に迫る。

データで見る「ドイツと日本の決定的な差」
日本はなぜドイツに抜かれたのか?それは単にGDPの順位の問題ではない。 問題は、労働1時間あたりにどれだけ稼げるか、そしてその稼ぎをどこに還元できているかである。
以下に、代表的な指標を簡単に比較してみよう。
| 項目 | ドイツ | 日本 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 労働生産性(2023年) | 約68.1ドル/時 | 約56.8ドル/時 | 約1.63倍の差(OECD) |
| 名目GDP(2023年) | 約4.53兆ドル | 約4.20兆ドル | ドイツが日本を逆転 |
| GDP per capita | 約53,200ドル | 約45,565ドル | 約16.7%の差 |
| 平均年収 | 約60,600ドル | 約39,700ドル | 約1.5倍の差 |
| 労働時間(月平均) | 約140時間 | 約149時間 | 日本の方が長い |
特に注目すべきは、ドイツは日本よりも少ない労働時間で、はるかに多く稼いでいるという点だ。
労働人口も国土も少ないドイツが、GDPでも日本を上回り、かつ労働生産性・収入の両面で圧倒的に上回っている。 これはつまり、商売としての効率が根本的に優れているということである。
日本企業を縛る「古い商売の呪い」
ではなぜ日本は、これほどまでに”当たり前”のことができないのか? その根底には、高度経済成長期から続く、古いビジネス信仰がある。
1. 新商品信仰
「常に新しいものを出さなければ売れない」 → 開発・営業・生産すべてに負荷をかける短命型サイクル。
2. 安売り信仰
「良いものを、より安く」 → 本来高く売れる製品ですら値下げで売り、利益率を犠牲に。
3. 買い替え信仰
「買い替えサイクルを短くすれば儲かる」 → 新商品サイクルを短くし、買い替えを促す商売設計。
こうした呪いに縛られた結果、企業は「どうすれば高く売れるか」ではなく、「どうすれば安く作れるか」しか考えなくなった。
その結果、当然ながら利益は出にくくなり、企業は人件費や教育費を”調整弁”として使うようになる。
儲からない構造が人材を切り捨てる
儲けが薄い構造では、人に投資する余裕など生まれない。
- 教育に予算が割けない
- 経験を積む前に人が辞める
- 熟練者の報酬が上がらない
- だから非正規に置き換える
結果として、企業はノウハウの蓄積ができない使い捨て型組織になる。
それは単なる人材戦略の失敗ではない。商売構造そのものが、育てることを前提としていないのだ。
努力しても報われない。成長しても昇給しない。定着してもリターンがない。 そうした職場で、人が本気を出すだろうか?
ドイツは「人に報いることができる構造」を持っている
対照的にドイツは、人材への報酬や職能教育を”当然の投資”として扱うことができている。 なぜそれが可能なのか? 答えは単純だ。ちゃんと儲けているからである。
- 同じ商品を長く売る → 営業も開発も効率的
- 高く売れる → 利益率が高く、ブランド力が継続
- 労働時間は短くても成果が出る → 賃金が上げられる
- だから人材に投資できる → 熟練が価値を生む → 再投資可能
この循環は一朝一夕にできたものではない。 だが、設計思想が「人に報いるために稼ぐ」になっていることがすべての起点なのだ。
日本企業がやるべき「構造改革」とは何か
日本企業がドイツのようになれない理由は、能力ではない。哲学と構造の問題だ。
では何を変えるべきか? 以下に列挙する。
● 商品・事業戦略の見直し
- 多品種少量・短命モデルからの脱却
- 長寿命・高単価・信頼ブランド型への転換
● 効率の定義の再設計
- 工数削減ではなく、利益率の最大化を目標とする
- 価格でなく価値で勝負する設計思想を持つ
● 人材戦略の再構築
- 教育費・報酬・時間的余裕を“コスト”ではなく”投資”として扱う
- 熟練が蓄積される組織構造(ローテーション主義の見直し)
● 経営のマインドセットの刷新
- 「売上を増やす」のではなく、「正しく稼ぐ」を指標とする
- 利益の目的は株主還元と共に、「人への還元」だと捉え直す
これらを変えなければ、日本の企業は「疲弊する努力」の輪から抜け出せない。
正しく稼ぎ、正しく報いる──それが経営の責任である
日本企業には、技術もある。商品力もある。人材のポテンシャルもある。 足りないのは、「どうやって稼ぎ、その稼ぎを誰に使うか」という設計思想だけだ。
労働時間は短くていい。 商品は高く売っていい。 給料は高いほうがいい。 商品は長く使われたほうがいい。
それらすべてを実現できる構造は、ドイツがすでに証明している。
人に報いる企業が、長く生き残る企業である。
そしてこれからの日本に必要なのは、「頑張ること」ではなく、「正しく設計し、正しく稼ぎ、正しく報いる」という、原点への回帰である。
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