

「人が辞めない会社」が良い会社とは限らない
「人が辞めない会社は良い会社だ」。よく聞く評価軸ですが、多少違和感を覚えます。なぜなら「辞めない」という現象は、必ずしも満足の証ではなく、「転職の気力すらない」「他に選択肢がない」「環境変化に対応する自信がない」といったネガティブな理由である場合、それは会社にとっても本人にとっても幸福とは言えません。
また、会社の事業や方向性の変化によって、新陳代謝が起こるのは正常な企業活動です。つまり、「人が辞めない会社=同じところに留まり続けている会社」とも言えます。
しかし一方で、熊本のイズミ車体製作所のように、極めて高い定着率を誇る会社もあります。イズミ車体では、会社全体での運動会や、誕生日プレゼントなど、昨今ではあまり聞かれない「家族的経営」を行っているとのこと。この会社では、社員の満足度は高く保たれており、その結果として定着率も高いということです。
しかし、現代ではこのような人間関係、付き合いを避けたい労働者も多いことでしょう。このやり方が「正解=良い会社」というわけではないのです。
では、どうして、イズミ車体の社員は幸せなのか?
この会社では、自社の文化に合った人材だけを選び抜き、共感できる人材だけを迎え入れる体制ができているのです。
これを、「ゾーニング(=人材の棲み分けと選定)」と呼びたいと思います。
ゾーニングとは、単なる“フィルター”ではありません。会社という枠組みに対し、どのような人材がフィットし、どのような人材とは相性が悪いかを見極めること。そして、その見極めに基づいて採用活動を設計することです。
つまり、良い会社とは「人が辞めない会社」ではなく、「自社に合う人材をきちんとゾーニングできている会社」だということです。

採用の本質は「数」ではなく「適合性」
採用とは本来、「枠に合うピースを見つける作業」です。
この枠とは、会社の事業内容であり、組織文化であり、ポジションの役割であり、将来的な構想でもあります。これらを明確に定義せずに「とりあえず人を採る」という行為は、言ってみれば“形の違うピースを無理やり押し込む”ようなものです。
■ パズルの比喩:形が合わなければ、埋まらない
1000ピースのパズルは、ただ1000ピースあればいいわけではありません。それぞれの形が違い、色が違い、配置が決まっています。その枠に合ったピースがなければ、完成には至らない。
会社も同じです。単に人を集めても意味がなく、その人が「どこにどうはまるのか」が設計されていてこそ、組織として機能するのです。
■ サッカーの比喩:11人いれば良いわけではない
サッカーも同様です。11人集めても、それが全員フォワードでは試合になりません。守備、中盤、前線、控え──役割に合った選手が揃ってこそチームは機能します。
強いチームは、必要なポジションを見極めて補強します。会社も同じく、採用は「枠の明確化」と「適合の追求」から始まるべきなのです。
少数精鋭を「目指す」姿勢こそ重要
基本的に、会社は少数精鋭を目指すべきです。
この「少数」は、絶対的な数ではありません。会社によっては2人で成立する場合もあれば、1万人必要な場合もある。
重要なのは、事業目標に対して最も合理的かつ効率的な人数で構成する姿勢を持つことです。
余剰を抱えないようにする。責任を曖昧にしないようにする。リソースの無駄を避ける──そうした意識が「精鋭化」につながります。
人が辞めるのは、正常な活動の一部である
また、どれだけ適切にゾーニングし、最適な人材を採用したとしても、人が辞めることは避けられません。
- 人間関係の不一致
- パズルの形の変化(事業転換や市場変化)
- ライフステージの変化(育児・介護・転居など)
こうした要因で人が辞めていくのは、むしろ健全な組織活動の一部です。
退職=裏切りと捉える発想は、時代遅れです。むしろ「どういう理由で人が辞め、どのような穴ができたか」を分析し、次にどうつなげるかが、組織設計の真価だと言えるでしょう。
最悪なのは「辞める前提で多めに採用すること」
ここで、日本企業にありがちな最悪のパターンを挙げておきましょう。
- とりあえず辞める前提で多めに採る
- 辞めなかった人が「余剰人員」となる
- 配置転換や転勤、降格などで“追い出し”が始まる
これでは採用も育成もすべてが無駄になりますし、何より社員に対する不誠実な扱いです。結果として、退職に伴う労働トラブルやハラスメント、または逆にリベンジ退職にもつながっていきます。
採用段階で適合性を精査していないから、「入れた後で調整する」しかなくなる。 その結果、組織内に不信が生まれ、優秀な人材から順に会社を見限っていく。
これは明らかに、組織としての構造的失敗です。
採用の本質をまとめる:理想と現実の比較表
以下に、議論の要点を整理する形で、理想と現実の採用のあり方を比較します。
| 観点 | 行うべき採用(理想) | 行われている採用(現実) |
|---|---|---|
| 採用目的 | 必要な人材を適切に確保する | 辞める前提で多めに確保する |
| 人数設計 | 事業規模・目標に応じた適正人数 | 「前年踏襲」や「慣習」に基づく一括大量採用 |
| 評価基準 | 仕事内容・スキル・価値観との適合 | 年齢・新卒かどうか・一括採用枠への収まり |
| 情報開示 | 仕事内容・条件・評価軸を明確に提示 | 実際の仕事内容やキャリア展望が曖昧 |
| 流動性の考え方 | 辞めることも自然と認識し、柔軟に補完 | 辞めなかったら「余剰人員」として処理 |
| 人材の扱い | 成長やキャリアを支援する資産 | 余れば配置転換・転勤で“追い出す”調整弁 |
| 結果 | 適材適所が実現し、健全な新陳代謝 | 不信・早期離職・ブランド毀損 |
結論:採用とは「戦略」であり「設計」である
採用とは、単なる数合わせでも、希望者の中から一番マシな人を選ぶことでもありません。
採用とは、会社というパズルの完成形に向けて、「必要な形のピース」を明確に定義し、その形に合う人材を迎えるという戦略的行為です。
ゾーニングは、その最初の一歩です。
誰でもいいわけではない。新卒だから、若いからという理由でもない。
必要なのは、「この場所にこの形の人材が必要だ」と、会社側が本気で考えること。そして、その形を求人票に明示し、対話の中で見極め、入社後も継続的にフィットし続けられるよう努力することです。
そうしてようやく、会社は「採用した意味のある組織」となり、社員もまた「選ばれて働く価値ある場」に身を置くことができるのです。
〝社員が辞めない会社〟いったい何を? この時代に社員・家族など総出で〇〇会!?(RKK熊本放送)