一人の不祥事が企業価値を損ねる|マネージャー適格性と人事の役割(2025.9.5)

一人の不祥事で会社は傷つく

2025年9月、サントリーホールディングスの前会長・新浪剛史氏が「CBD(カンナビジオール)サプリメント」の入手を巡り警察の捜査を受け、辞任に至ったことは記憶に新しい。本人は「法を犯していない」と釈明したが、社会はそれを受け入れなかった。
大麻由来成分の残留リスクがある海外製サプリの摂取という“軽率な行動”が、結果として企業ブランドに大きな影響を与えた。サントリーは「不祥事」と明言はしなかったが、迅速な辞任という判断を取ったのは、ブランド価値を守るための最低限の判断だったと言える。

ここで問われるのは、「なぜたった一人の行動が、会社全体を揺るがすのか?」ということだ。
今回のケースは業務とは無関係だが、これが労働トラブルやハラスメント問題であっても同様である。

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「誰を登用するか」は会社の価値観そのもの

組織における登用とは、その人物に会社の“顔”としての役割を与える行為だ。特にマネージャー職以上の人材登用は、対内的にも対外的にも大きな意味を持つ。
世間が見ているのは、「その人が何をしたか」ではなく、

「なぜその人がそのポジションにいたのか」

という構造の部分だ。

たとえば、部長職にあった人物がハラスメント行為を行えば、単に「一社員の問題」では済まない。「そんな人物を登用していた」という事実が、会社全体の意識の低さとして批判される。
つまり、登用とは評価であると同時に、企業が社会に発信するメッセージなのだ。


「違法ではない」は何の免罪符にもならない

新浪氏は会見で「法を犯していない」「違法性の認識はなかった」と語った。だが、それがどうした、というのが世間の反応である。
現代社会において企業やリーダーに求められているのは、「法に触れていないか」ではなく「信頼に足るか」である。信頼というのは、法令よりもずっと広く、繊細な領域にある。
そして今回、彼が“プロ経営者”であったことが、さらに重く作用する。

■ プロ経営者という立場の責任

特徴内容
積み上げゼロ社内文化や信頼関係がない状態からのスタート
高報酬・高期待成果と意思決定のスピードが求められる
免罪符なし「知らなかった」「プレッシャーがあった」は通用しない

企業はプロ経営者に「成果と責任をワンセットで期待」しており、
社会もまた「それだけ報酬をもらっているなら当然だろう」と見る。

「違法ではない」や「ストレスがあった」というのは、もはや通用しない時代なのだ。


マネージャー適格性とは何か

不祥事をきっかけに問われるべきは、その人がそもそも「マネージャーにふさわしかったかどうか」である。
「成果を出せばマネージャーにしてよい」──それはもう古い考え方だ。

マネージャー適格性には、以下のような要素が求められる。

■ マネージャー適格性の5要素

  1. リスク評価力:どのリスクは取るべきで、どのリスクは回避すべきかを見極める
  2. 行動の透明性:自分の行動が他者にどう見えるかを常に意識する
  3. 共感力と倫理感:チームや会社の信頼構造を損なわない
  4. 自己管理力:感情・ストレス・誘惑に打ち克つ冷静さ
  5. 再現性ある成果:属人的でなく、組織として波及する形で成果を出せる

特に今回のような「業務外の軽率な行為」は、“不要なリスク”を取った結果であり、
リーダーとしての適格性を疑われても仕方がない。


良いマネージャーは、失敗を知っている

リスクを避けすぎれば、成果は生まれない。逆に、むやみにリスクを取れば、不祥事が起きる。
優れたマネージャーとは、このバランスを見極めながら、必要なリスクだけを選び、成果を出す人間である。
そして、そういうマネージャーは「失敗」の価値を理解している

  • 自らの経験として
  • 周囲の挑戦を見てきた中で

その経験があるからこそ、部下のチャレンジを許容できる

部下が挑戦したときに生まれる「エラー」や「ミス」に対し、
それを“叱る”のではなく、“学びに変える”という態度が取れる。


心理的安全性は、マネージャーにも必要だ

心理的安全性というと、「部下が自由に意見を言える環境」と捉えがちだが、
実はマネージャー側にも心理的安全性は必要不可欠である。

  • 「ミスしたら終わり」という空気
  • 「弱さを見せられない」上司像
  • 「誰にも相談できない」孤独感

これらが積み重なると、マネージャーは過剰に防衛的になり、
時には攻撃的になり、時には精神的に追い詰められてしまう。

だからこそ、マネージャーも「相談できる」「間違えても再起できる」空気が必要なのだ。

それが、結果的に部下にも伝播し、
組織全体の心理的安全性の土台となる。


プレッシャーを軽減するのは「許される文化」

マネージャーにとってのプレッシャーとは、
「成果を出さねばならない」だけでなく、
「失敗してはならない」「ミスを認めてはならない」という抑圧的な空気である。

そこに「誰も助けてくれない」「自分だけが責められる」といった孤独感が加わると、
誤った判断や不祥事のトリガーになる。

許容できる文化、支え合える体制。
それは、マネージャーのメンタルヘルスだけでなく、組織の意思決定の質そのものを変える。


挑戦できる組織が、未来をつくる

心理的安全性のある職場には、挑戦が生まれる
失敗しても許される空気があるからこそ、人は新しいことに取り組める。
そしてそれは、イノベーションや持続的な成長につながる

逆に言えば──
「不祥事が怖いから」「ミスが許されないから」と挑戦を止めれば、
企業はゆるやかに“何も起きない会社”になっていく。


人事こそ、経営の分水嶺である

結局のところ、今回の問題で企業に問われたのは、
「なぜこの人物に権限を与えたのか?」という一点に尽きる。

人事は“評価”であると同時に、“組織の哲学”である。

・「成果さえ出せばよい」
・「外部から来たエリートだから」
・「部下が従うなら問題ない」

──そうした“短絡的な人事観”が、企業の未来を壊す。


✅ 結論:人を見る力こそ、経営力である

  • どんな人物に権限を与えるのか
  • 誰を登用し、誰を外すのか
  • どのような価値観を持った人間をマネージャーとするのか

それはすべて、企業が社会に向けて発する「私たちはこういう会社です」というメッセージにほかならない。
だからこそ、人事の力が必要なのだ。「役職が一枠空いたから、コネクションから適当に一人あてがっておこう」などと適当に決めて良いものでは断じてない。

そしてその判断が誤れば──
企業は、一人のミスで揺らぐ。

だからこそ、
「マネージャー適格性」を問うことは、未来への投資であり、信頼への設計図なのである。


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