

一人の不祥事で会社は傷つく
2025年9月、サントリーホールディングスの前会長・新浪剛史氏が「CBD(カンナビジオール)サプリメント」の入手を巡り警察の捜査を受け、辞任に至ったことは記憶に新しい。本人は「法を犯していない」と釈明したが、社会はそれを受け入れなかった。
大麻由来成分の残留リスクがある海外製サプリの摂取という“軽率な行動”が、結果として企業ブランドに大きな影響を与えた。サントリーは「不祥事」と明言はしなかったが、迅速な辞任という判断を取ったのは、ブランド価値を守るための最低限の判断だったと言える。
ここで問われるのは、「なぜたった一人の行動が、会社全体を揺るがすのか?」ということだ。
今回のケースは業務とは無関係だが、これが労働トラブルやハラスメント問題であっても同様である。

「誰を登用するか」は会社の価値観そのもの
組織における登用とは、その人物に会社の“顔”としての役割を与える行為だ。特にマネージャー職以上の人材登用は、対内的にも対外的にも大きな意味を持つ。
世間が見ているのは、「その人が何をしたか」ではなく、
「なぜその人がそのポジションにいたのか」
という構造の部分だ。
たとえば、部長職にあった人物がハラスメント行為を行えば、単に「一社員の問題」では済まない。「そんな人物を登用していた」という事実が、会社全体の意識の低さとして批判される。
つまり、登用とは評価であると同時に、企業が社会に発信するメッセージなのだ。
「違法ではない」は何の免罪符にもならない
新浪氏は会見で「法を犯していない」「違法性の認識はなかった」と語った。だが、それがどうした、というのが世間の反応である。
現代社会において企業やリーダーに求められているのは、「法に触れていないか」ではなく「信頼に足るか」である。信頼というのは、法令よりもずっと広く、繊細な領域にある。
そして今回、彼が“プロ経営者”であったことが、さらに重く作用する。
■ プロ経営者という立場の責任
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 積み上げゼロ | 社内文化や信頼関係がない状態からのスタート |
| 高報酬・高期待 | 成果と意思決定のスピードが求められる |
| 免罪符なし | 「知らなかった」「プレッシャーがあった」は通用しない |
企業はプロ経営者に「成果と責任をワンセットで期待」しており、
社会もまた「それだけ報酬をもらっているなら当然だろう」と見る。
「違法ではない」や「ストレスがあった」というのは、もはや通用しない時代なのだ。
マネージャー適格性とは何か
不祥事をきっかけに問われるべきは、その人がそもそも「マネージャーにふさわしかったかどうか」である。
「成果を出せばマネージャーにしてよい」──それはもう古い考え方だ。
マネージャー適格性には、以下のような要素が求められる。
■ マネージャー適格性の5要素
- リスク評価力:どのリスクは取るべきで、どのリスクは回避すべきかを見極める
- 行動の透明性:自分の行動が他者にどう見えるかを常に意識する
- 共感力と倫理感:チームや会社の信頼構造を損なわない
- 自己管理力:感情・ストレス・誘惑に打ち克つ冷静さ
- 再現性ある成果:属人的でなく、組織として波及する形で成果を出せる
特に今回のような「業務外の軽率な行為」は、“不要なリスク”を取った結果であり、
リーダーとしての適格性を疑われても仕方がない。
良いマネージャーは、失敗を知っている
リスクを避けすぎれば、成果は生まれない。逆に、むやみにリスクを取れば、不祥事が起きる。
優れたマネージャーとは、このバランスを見極めながら、必要なリスクだけを選び、成果を出す人間である。
そして、そういうマネージャーは「失敗」の価値を理解している。
- 自らの経験として
- 周囲の挑戦を見てきた中で
その経験があるからこそ、部下のチャレンジを許容できる。
部下が挑戦したときに生まれる「エラー」や「ミス」に対し、
それを“叱る”のではなく、“学びに変える”という態度が取れる。
心理的安全性は、マネージャーにも必要だ
心理的安全性というと、「部下が自由に意見を言える環境」と捉えがちだが、
実はマネージャー側にも心理的安全性は必要不可欠である。
- 「ミスしたら終わり」という空気
- 「弱さを見せられない」上司像
- 「誰にも相談できない」孤独感
これらが積み重なると、マネージャーは過剰に防衛的になり、
時には攻撃的になり、時には精神的に追い詰められてしまう。
だからこそ、マネージャーも「相談できる」「間違えても再起できる」空気が必要なのだ。
それが、結果的に部下にも伝播し、
組織全体の心理的安全性の土台となる。
プレッシャーを軽減するのは「許される文化」
マネージャーにとってのプレッシャーとは、
「成果を出さねばならない」だけでなく、
「失敗してはならない」「ミスを認めてはならない」という抑圧的な空気である。
そこに「誰も助けてくれない」「自分だけが責められる」といった孤独感が加わると、
誤った判断や不祥事のトリガーになる。
許容できる文化、支え合える体制。
それは、マネージャーのメンタルヘルスだけでなく、組織の意思決定の質そのものを変える。
挑戦できる組織が、未来をつくる
心理的安全性のある職場には、挑戦が生まれる。
失敗しても許される空気があるからこそ、人は新しいことに取り組める。
そしてそれは、イノベーションや持続的な成長につながる。
逆に言えば──
「不祥事が怖いから」「ミスが許されないから」と挑戦を止めれば、
企業はゆるやかに“何も起きない会社”になっていく。
人事こそ、経営の分水嶺である
結局のところ、今回の問題で企業に問われたのは、
「なぜこの人物に権限を与えたのか?」という一点に尽きる。
人事は“評価”であると同時に、“組織の哲学”である。
・「成果さえ出せばよい」
・「外部から来たエリートだから」
・「部下が従うなら問題ない」
──そうした“短絡的な人事観”が、企業の未来を壊す。
✅ 結論:人を見る力こそ、経営力である
- どんな人物に権限を与えるのか
- 誰を登用し、誰を外すのか
- どのような価値観を持った人間をマネージャーとするのか
それはすべて、企業が社会に向けて発する「私たちはこういう会社です」というメッセージにほかならない。
だからこそ、人事の力が必要なのだ。「役職が一枠空いたから、コネクションから適当に一人あてがっておこう」などと適当に決めて良いものでは断じてない。
そしてその判断が誤れば──
企業は、一人のミスで揺らぐ。
だからこそ、
「マネージャー適格性」を問うことは、未来への投資であり、信頼への設計図なのである。
新浪剛史・元サントリーHD会長「法を犯しておらず潔白」主張も、海外サプリに潜む危険性【危機管理の専門家が解説】(ダイヤモンド・オンライン)