会社は「意識的な退職」のバリューを見直すべきだ(2025.8.27)

1. いま、働き方に何が起きているのか

「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉が話題になったのは、数年前のことです。必要最低限の仕事しかしない、燃え尽きるのではなく、距離を取って働くスタイル。

でも2020年代半ばの今、もう一歩踏み込んだキーワードが登場しています。それが「意識的な退職(Conscious Quitting)」です。
これは、“静かに不満を抱えて居残る”のではなく、自分の価値観や信念に従って職場を見切る選択を意味します。

✔「理念が合わない」 ✔「社会への影響を考えると加担したくない」 ✔「もっと成長できる場に行きたい」

そういった理由で、たとえ条件が悪くなくても、辞める人が増えている。
「黙って耐える」のではなく、「納得して離れる」時代に変わりつつあるのです。

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2. なぜ「意識的に辞める」人が増えたのか

この潮流の背景には、いくつかの明確な社会的変化があります。

価値観の明確化(特にZ世代・ミレニアル世代)

  • パンデミックを経て、「自分は何のために働くのか」を再考した人が急増。
  • 金銭・安定より、「共感できる理念」「社会的意味」が重視されるように。

情報の透明化

  • SNSや口コミサイトによって、社内の実態はほぼ隠せなくなった。
  • “言っていること”と“やっていること”が違えば、一瞬で信頼を失う時代に。

売り手市場と選択肢の多様化

  • 人手不足が加速する一方、副業・転職市場は活況。
  • 「そこにい続ける理由」がなければ、無理にとどまらない判断が主流に。

つまり──
もはや「辞める=リスク」ではなく、「辞めない=機会損失」になったのです。


3. 「会社に裏切られた」と感じる瞬間

注目すべきは、「意識的に辞める」人の中には、初めから辞めるつもりだったわけではない、という点です。
彼ら・彼女らは、最初は期待して入社したのです。希望を持って、誠実に向き合おうとしたが、仕事をしているうちにこんな違和感を覚えるようになります。

  • 「言っていた内容と、実態が全然違う」
  • 「理念には共感していたが、実際には形骸化していた」
  • 「本音と建前の乖離に気づいてしまった」

これは単なる条件面の不満ではありません。
企業の“誠実さ”が見えなかったとき、人は“信頼”を引きはがしていく。


4. 採用の“断面詐欺”に人はもう騙されない

コンビニ大手・セブンイレブンが、サンドイッチの“断面詐欺”で話題になったことを覚えている方も多いでしょう。パッケージ越しに見える具材が豪華なのに、食べてみると中央に少しあるだけ──そんな“見せ方のズレ”が、消費者の怒りを買いました。

これは採用にも、まったく同じことが言えます。求人票や採用サイトでは「自由」「裁量」「フラット」といった魅力的なワードが並んでいるのに、実際に働いてみるとまったく違う。つまり、“採用の断面詐欺”です。

日本でも、「採用の誠実性」が必要になってきました。

【よくある採用ギャップの実例】

採用メッセージ入社後の実態結果
「裁量があります」毎日が上長承認地獄不信感が募る
「柔軟な働き方」実質週5出社の空気SNSで愚痴投稿
「フラットな組織」上下関係が厳格思考停止文化

もう、カッコいいことを言うだけでは人は集まりません。


5. 辞められる会社 vs 辞めてもらえる会社

では、意識的に辞める人が増えた中で、会社はどうすればいいのか?
答えはシンプルです。

✦ 嘘をつかないこと
✦ 辞める理由を、引き止める前に聞くこと
✦ 辞めたあとも「良い会社だった」と思われること

つまり──
“辞めない人を増やす”より、“辞め方で嫌われない”ほうがよほど重要になってきたのです。


6. 「育成型クラブ」という中小企業の勝ち筋

中小企業にとって、意識的な退職は恐怖でもあるかもしれません。
せっかく育てた若手が出ていく。ノウハウが蓄積しない。人が足りない。

けれども──サッカーの「育成型クラブ」を見てください。
有望な若手を発掘し、磨き、ステップアップさせる。
その実績が評判となり、また次の若手がやってくる。

このループは、企業にも応用できるはずです。

【企業戦略としての育成型モデル】

項目従来型中小企業育成型クラブ的企業
離職損失と捉える成果の一部と捉える
育成ノウハウ隠す惜しまず開示・共有
採用長期定着前提キャリア循環前提
離職者との関係切れるアルムナイ化して協業

「辞められる」ことを恐れず、「辞めて良かったと思われる会社」であること。
それが採用ブランディングの真価となるのです。


7. “次を見据えた退職”は美徳になりうる

意識的な退職は、会社に不満があるから起きるとは限りません。
むしろ──

「この会社が嫌いなわけではない。だけど、もっと挑戦したい」

という“前向きなステップアップ”のケースも増えてきています。

【ステップアップ型の実例】

名前前職現在
南場智子マッキンゼー・パートナーDeNA創業者
藤田晋インテリジェンスサイバーエージェント創業
三木谷浩史日本興業銀行+MBA楽天グループ創業者

彼らに共通するのは、「悪いから辞めた」ではなく「自分に必要な次がある」と感じたことです。


8. まとめ:採用の誠実性が企業を育てる

時代は変わりました。
働く人は、もう“飼いならされる側”ではありません。
自分の価値観と一致しているか。 成長の手応えを感じられるか。 社会に対して恥じない仕事か。
それらを総合的に見て、「この会社で働き続ける意味があるか」を問い直すようになったのです。

だからこそ──

  • 採用時に、嘘をつかないこと。
  • 入社後に、ズレを放置しないこと。
  • 退職時に、対立しないこと。

それが企業にできる、最低限かつ最大限の誠実さです。
「辞めたい人は辞める」ではなく、「辞めてもまた語られる会社であること」。
それこそが、これからの企業価値を形づくっていくのではないでしょうか。


もう「静かに」は辞めない。Z世代の新しい働き方『意識的な退職』とは?(ライフハッカー・ジャパン