大谷翔平の育児参加から考える:日本の職場が“人生の時間”を尊重できる社会になるために(2025.4.21)

大谷翔平選手の「父親リスト入り」が問いかけたもの

2025年4月、大谷翔平選手が第一子誕生に際し、メジャーリーグの父親リスト制度を活用し、試合を一時離脱。その後すぐに戦列に復帰するという一連の出来事は、単なる美談として受け取るだけではもったいないほど、私たち日本社会に深い問いを投げかけてくれました。

  • 1000億円の契約を持つスター選手であっても「父になる時間」を優先できる
  • チームは代替選手を用意し、復帰までを支えた
  • 復帰後も変わらぬ期待を背負い、自然に打席に立った

この行動の裏には、「人間としての人生の時間を尊重する」という文化的背景があります。そして私たちはこの姿を、単なる“海の向こうの素敵な話”で終わらせてよいのでしょうか。

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日本企業では「父になる」ことがなぜ難しいのか

日本の会社員にとって、出産立ち合いや育児休業は依然として高いハードルです。

■ よくある言い訳と実態

  • 「うちの仕事は代替がきかない」
  • 「急に休まれても回らない」
  • 「本人がいないと支障が出る」

しかし、それは本当に「不可欠な存在だから」なのでしょうか?
実際には、**「休むことを許せない」**という文化や空気感の方が障壁になっているケースが大半です。


育児参加が許される環境は企業の“投資”である

企業の経営層や管理職にとって、出産や育児休業をどう見るかは重要な判断材料です。

多くの日本企業は、「コストをかけて採用・育成した人材が、休業するのは損」と考えてしまう傾向があります。ですが、この考え方には大きな誤解があります。

■ 本来の“投資”的発想とは

  • 投資とは、将来のリターンを期待して一時的に資源を投下する行為
  • 一時の離脱があっても、長期的に高いモチベーションと生産性を生むならむしろプラス
  • 「人生の大切な時間を奪われなかった」という経験は、企業への忠誠心と帰属意識を高める

つまり、「休ませること」はリスクではなく、信頼形成のチャンスなのです。


返報性の原則──人は大切にされると、返したくなる

心理学には「返報性の原則」という有名な法則があります。

“人は、自分を大切にしてくれた相手に対して、恩返しをしたくなる”

職場でもこれは同じです。

  • 「大切な時間を過ごすことを会社が後押ししてくれた」
    →「その恩を返したい」
  • 「気持ちよく戻ってこられた」
    →「もっと頑張りたい」

こうしたポジティブな循環が、組織の力を底上げします。


一方で、許されない空気がどう作用するか

反対に、「家庭より仕事が優先」「休みを取るのは甘え」という空気がある職場では、以下のような悪循環が生まれます。

  • 人生の大切な瞬間を犠牲にすることを求められる
  • 優秀な人材ほど、価値観の違いを感じて離職を検討する
  • 新たな採用・育成には時間とコストがかかる

これは、明らかに“悪手”です。
今、制度があっても「使えない職場」こそが、最もコストを払っているのです。


「人生ごと支える会社」に人は集まる

優れた企業は、人を「コスト」ではなく「資産」として見ています。
そして資産とは、手をかけて守る価値があるものです。

■ 企業の“覚悟”が人を育てる

  • 育児や介護といった「人生の局面」に理解がある
  • 戻ってきたときに、リスタートできる雰囲気がある
  • 家族の変化や環境の違いを受け入れる柔軟性がある

こうした組織風土が、人材の定着率を高め、採用競争力を持ち、パフォーマンスを最大化するのです。


「戻ってこられる職場」は、何よりの経営戦略

経営者が問うべきは、「この職場は、人生を大切にできる場所か?」ということです。

  • 育児だけでなく、病気、介護、看取り…人生には誰しも、仕事以外に重要な時間がある
  • それらを奪う職場か、支える職場
  • 答えは、人の残り方・働き方・成果に必ず表れてきます

アメリカと日本の文化の違い──「働き方」よりも「生き方」の発想

大谷選手のように、スター選手が休みを取ることに対して誰も否定しないアメリカの社会。
そこには、「個人の生き方」が最優先される文化があります。

  • 仕事は人生の一部であって、すべてではない
  • 誰かが休んでも、回る仕組みを用意するのが組織の責任
  • その一方で、復帰後にきっちり成果を出すことがプロフェッショナル

このバランス感覚は、日本企業が今後取り戻すべき姿でもあります。


実践に向けて──企業・管理職がまず始めるべきこと

大きな改革をいきなり求める必要はありません。
まずは以下のような小さな変化から始めることが可能です。

■ 具体的に取り組めること

  • 育児休業や介護休暇を「申請しやすい空気」をつくる
  • 「戻ってきやすい職場づくり」に管理職が主導で取り組む
  • 制度利用者を“特別扱い”せず、自然に受け入れる文化を育てる
  • 評価制度を“成果+配慮”で設計し、長期的視点を持つ

最後に──大谷翔平の行動は“日本社会への問い”である

今回の大谷選手の選択は、たしかに感動的で、尊いものでした。
けれど、それを「さすがアメリカ」「大谷だからできる」としてしまうなら、日本は何も変わりません。

これは、私たちの足元の話です。

  • 自分の会社で、同じことが起きたらどうするか?
  • 自分の部下が、同じ理由で数日休みたいと言ったらどう対応するか?
  • 自分自身が、人生の大切な時間を迎える時、会社はどう支えてくれるか?

一人ひとりが、この出来事を“自分ごと”として捉えること
そして、「人が安心して人生を歩める職場」を当たり前にすること

これが、日本の企業文化がもう一歩進化するために、今、私たちができることなのではないでしょうか。

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