

ジョブ型人事とは何か──本来の思想と日本的誤解
本来、ジョブ型人事とは「職務に応じた報酬」「専門性に基づく評価」「労働市場との接続」を基盤とする雇用システムです。欧米では、社員は自らのスキルと業績で評価され、不満があれば転職や副業で自己の市場価値を試す文化が根付いています。ここでは、あくまで”個”が主体であり、組織はキャリアの舞台に過ぎません。
しかし日本では、「組織の中で生き残ること」を前提にした議論が多く見られます。今回取り上げたJBpressの記事もその典型であり、制度自体よりも「どう評価されるか」「どう出世するか」に主眼が置かれていました。これではジョブ型の本質が見失われてしまいます。

減点主義としてのジョブ型──管理職が“罰ゲーム”になる構造
本来ジョブ型における管理職とは、能力や成果が評価され、適切な報酬を受け取りつつ組織を導く存在です。欧米ではマネージャー職はひとつの専門職として確立しており、その責任の重さに見合ったインセンティブが用意されます。
ところが日本では、管理職手当は数万円程度。責任と業務量は増える一方、労基法上の管理監督者とされることで残業代や休日手当の対象外となり、実質的には待遇が悪化するケースも多々あります。しかも評価は減点方式で、成果よりも失敗やミスが注目され、できたことよりも“できなかったこと”に光が当たる。このような環境で、優秀な人材ほど管理職を忌避するようになるのは当然です。
「組織依存」から脱却できない日本企業の構造的問題
日本企業の多くは、依然として“メンバーシップ型”の構造をベースにしています。
- 新卒一括採用と終身雇用
- 年功序列に基づく給与体系
- 職務を明確にしないローテーション文化
これらが、ジョブディスクリプションに基づく役割分担や責任設計と大きく乖離しており、制度を導入しても運用が追いついていないのが現状です。その結果、ジョブ型は「都合のいい人材の選別」「給与引き下げの口実」として機能してしまいがちです。
本来のジョブ型は“加点主義”であるべき
ジョブ型の本質は「できること」にフォーカスし、それに見合う報酬を与える加点主義です。評価されることでモチベーションが上がり、より高い成果を生み出し、その成果が商品・サービスの付加価値となって市場を活性化させます。
この構造が回り出すことで、
- 報酬要求のインフレ
- 商品・サービスの競争力向上
- 消費の拡大と経済成長
といった“インフレスパイラル”が形成され、経済の正の循環が始まるのです。
なぜ日本では「加点型」にならないのか?
- 評価制度が未整備で、“何を評価するのか”が曖昧
- 会社の内部で完結する閉じた人事評価
- キャリアの自己決定を前提としない文化
- 転職に対するネガティブな意識と市場の未成熟
結果として、「評価されても報われない」「転職すれば損をする」という印象が根強く、個人がジョブ型の利点を活かせない構造になっています。
過渡期に必要なのは「胆力」である
ジョブ型の真価を引き出すには、制度整備以上に企業と個人の“胆力”が問われるフェーズにあります。すぐに成果が出るわけではなく、むしろ初期段階では制度不備・人材流動の混乱・不公平感が噴出するでしょう。
しかし、それを乗り越えなければ真の改革は生まれません。企業も個人も、「この過渡期をどう受け止め、どう乗り越えるか」によって、今後の競争力が決まるのです。
変化を拒む企業は“選ばれない”企業へ
働き手は敏感です。制度だけでなく、企業の姿勢を見ているのです。ジョブ型導入を口実に「給与を下げる」「管理職に責任を押しつける」といった動きは、SNSや口コミであっという間に共有されます。
- 「時代遅れの会社」
- 「変わる気のない企業」
- 「働きがいのない職場」
こうしたレッテルは、採用にもブランド価値にも長期的なダメージを与えます。単なる人事制度の話ではなく、経営戦略・企業価値の根幹に関わる問題なのです。
選ばれる企業になるために必要な視点
ジョブ型を本気で機能させるためには、以下のような姿勢が求められます:
- 評価の基準とプロセスを透明化すること
- 職務定義(ジョブディスクリプション)を明文化し、随時更新すること
- マネジメント職に報酬と裁量の両面でインセンティブを与えること
- 労働市場との接続を前提とした制度設計にすること
これらを怠れば、見かけ倒しの「制度だけジョブ型」がますます信用を失います。
まとめ:今こそ「制度ではなく、姿勢」が問われている
日本企業がジョブ型を本気で機能させるためには、制度導入の有無ではなく、変革に向き合う胆力と誠実さがあるかが問われます。働き手の目は厳しく、企業ブランドの価値は簡単に揺らぎます。
ジョブ型人事とは「個を尊重する社会」への挑戦であり、企業にとっては「選ばれる存在」へと進化できるかどうかの試金石です。
変化を恐れるか、変化に挑むか。いま、日本の企業に求められているのは、その覚悟です。