見込み採用の限界と日本企業の人事力──若さ信仰が競争力を削ぐ構造的問題(2025.5.12)

若者の“戦闘力”に差がある社会──その現実に向き合う

欧米と日本の若者には、明確な「戦闘力格差」がある。この戦闘力とは、単なる体力や気力ではなく、社会に出る段階でのスキル・実績・自律性を意味する。欧米の若者は、就職の時点で“ファイター”として扱われる。競争に勝ち抜いた者だけが職を得る厳しい世界で、彼らは年齢を問わず能力で評価される。そのため、学生時代からインターンや職業訓練で武装し、成果で自分を証明するという覚悟が備わっている。

一方で日本の若者は、「若さ」自体が価値とみなされる。競争や実力主義の洗礼を受けることなく、「ポテンシャル」という曖昧な期待値で受け入れられる。“戦わずに社会に出られる”構造が、若者から自ら仕掛ける胆力を奪い、枠内最適化に長けた人材ばかりを育ててしまう。

この構造の積み重ねこそが、若年層の戦闘力不足を招き、国全体の競争力を削いでいる。

その戦闘力格差は、

  • 入社後のキャッチアップ速度
  • 課題への対処能力
  • キャリアの自律設計力
  • イノベーション創出力

として露骨に差として表れる。若者が競争を経ずに社会に出てきたため、“自ら仕掛ける胆力”よりも、“与えられた枠内で最適化する力”が日本では育ってきた。欧米の大学生は、社会に出る前から「個として評価される場」に立たされる。それがそのまま国家としての労働力の質の差へと直結している。

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なぜ「見込み採用」はここまで根付いたのか

日本の「見込み採用」文化は、戦後の労働力不足や高度経済成長期のなかで形成されたものである。

  • 集団就職列車のように、未経験の若者を大量に採用し、一から育てる必要があった
  • 終身雇用を前提に、長期的に回収できれば良いという経済モデルが通用していた
  • 労働者も「会社に忠誠を尽くせば安定が得られる」という期待で応じていた

こうした歴史的背景の中で、「若者=素直=育てやすい=長く働く」という方程式が企業に染み付き、結果として「若者であればそれだけで価値がある」という文化が制度と化した。

しかし、現代はまったく異なる。

  • 労働力不足ではなく、構造的ミスマッチ
  • 長期雇用が崩壊し、転職・離職が一般化
  • 技術革新と業務変化のスピードが増し、即戦力が求められる
  • 若者の離職率は高く、もはや「育てたら報われる」は幻想

にもかかわらず、「若ければ育つ」「若さは可能性」といった情緒的価値観だけが残存し、採用基準が年齢属性に歪められている。


人事を甘く考えすぎている

「人事を甘く考えすぎている」という日本的構造こそが、現在の採用の停滞と組織の弱体化を生み出している中核にある。

本来、人事とは「経営戦略そのもの」である。

  • どんな人を採るか
  • どのように育てるか
  • 誰をどこに配置するか

──これらは企業の未来を決定する意思決定の連続であり、「人材戦略は経営戦略」と言われる所以でもある。

しかし日本では、

  • 新卒採用の現場を「顔採用」や「学歴フィルター」で回す
  • OB訪問やリクルーター制度で“内輪感”を強める
  • 中途採用は“現場に丸投げ”、人事は「調整役」

といった構造が根付いており、人事はプロフェッショナルな判断よりも“社内文化の門番”になってしまっている。これは、組織の生産性にとって致命的である。


欧米のHRは経営の中核である

欧米の人事部門(HR)は、次のような高度な役割を担う:

  • 経営陣に直結した意思決定機関
  • 企業価値向上のための戦略的人材配置の中核
  • データと評価に基づくタレントマネジメントの実行者

「誰を昇進させるか」「誰を報酬で報いるか」「誰を再教育させるか」──その判断の積み重ねが企業の競争力を左右する。

対して日本は、

  • 「人事はコスト部門」という誤解が未だに根深く
  • 採用担当に優秀な人材が集まらない
  • 結果、人事は“若さの代理人”として機能してしまっている

これは、戦略的人材調達ではなく、単なる年齢によるリスク回避に堕している状態である。


“全世代が未来に不安を抱えている社会”の構造

若者を競争に晒さずに育てる社会では、年を取ると「コスト高・成果が曖昧」として切り捨てられる構造ができる。つまり:

  • 若い時は“未熟でも期待される”
  • 年齢を重ねると“成果が見えない=無価値”とみなされる

その結果、社会は次第に「年齢を問わず、誰も安心して生きられない」状態となる。全世代が未来に不安を抱える社会──これこそが今の日本である。


真の人事力を取り戻すために

日本企業に必要なのは、「今、何が必要か」を明確に定義し、それに合致した人材を外部から採用する力である。つまり、

  • ポジションベースの採用設計
  • 職務記述書(ジョブディスクリプション)の徹底
  • スキル・成果ベースの評価と報酬体系
  • 若さ信仰からの脱却と、中高年の再評価

である。そして何よりも、経営者自身が人材戦略に深く関与することが求められる。


まとめ:見込みの幻想から、実力の現実へ

「若者だから採る」「若ければ伸びる」という前提は、すでに時代遅れである。採用とは、企業の未来に必要な“部品”を明確に設計し、それに合致する“機能”を持った人を選ぶ行為だ。

競争を経てきた“ファイター”たちを採用し、成果と責任で報いる。それが企業の成長を支え、社会の安定を生む唯一の道である。

若さではなく、実力で選ばれる社会へ──それが、真の人事力であり、日本再生の礎である。


「シニアのキャリア危機」「新卒歓迎」は日本特有のジレンマなのか…新卒未経験者など容易に職になどありつけない欧州若年層のシビアな現実 | 集英社オンライン | ニュースを本気で噛み砕け