ハラスメントが会社を潰す~見逃された“社内リスク”が経営を破壊する時代(2025.5.14)

はじめに:事件は企業内部で起きている

2024年、札幌市の建設企業「花井組」で発覚した社長による暴行事件は、この話題を語る上で辛酷な実例となった。社長が社員寮で日常的に暴行を繰り返していたことが防犯カメラの映像で明らかになり、札幌市は同社に与えていたSDGs認証を含む5つの登録・証明を一括して取り消した。

この事件は、単に「違法な暴力行為」が問題なのではない。企業が対外的に「社会的責任」や「持続可能性」を掲げながら、内部では全く逆の組織運営をしていたこと、つまり“外ヅラだけ整えた偽りの経営”が可視化されたという点に、本質的な危機がある。

しかも、これは氷山の一角にすぎない。実際にはここまで可視化される前段階で、表面化していない無数の「未発火の火種」が全国の職場に点在している。日本の企業社会は、組織の建て付けそのものが、問題の発覚を遅らせる構造になっていると言っても過言ではない。

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可視化されるハラスメント──スマホとSNSが生んだ「透明化社会」

従来の日本企業では、上司の暴言や精神的圧力は「指導」「しつけ」「文化」などとされ、黙認されてきた。しかし今や、スマートフォンによる録音・録画、SNSでの即時発信によって、その“見逃し”は通用しなくなった。

これにより、従来であれば「表に出なかった話」が、容易に世間の目にさらされるようになった。社員の不満が匿名のまま発信され、音声や映像といった“客観証拠”と結びつけば、企業側は言い逃れができない。実際、多くの企業が「SNSでバズるまで無反応」であり、外部の反応を受けてようやく動き出すという後手の姿勢が続いている。

  • 一度の暴露で企業名が拡散
  • 炎上によって取引先や顧客が離れる
  • SDGsやESGなどの認証が取り消される
  • 求職者が敬遠し、採用難に直結

つまり、ハラスメントは「社内の問題」ではなく「市場価値を毀損する現実的リスク」なのだ。


米国に見る「ハラスメントは経営リスク」の象徴例

Activision Blizzardの事例

  • 女性社員への長年の差別やセクハラが内部告発で明るみに
  • カリフォルニア州から提訴され、2023年に5,400万ドルで和解
  • CEO辞任、ブランド毀損、組織改革へ

全米女子サッカーリーグ(NWSL)の事例

  • 複数チームでの指導者によるパワハラ・性虐待が露呈
  • 500万ドルの和解と制度改革へ

マクドナルドの構造的問題

  • 元CEOの不適切関係が発覚し、1億ドル以上の報酬返還
  • 全米15都市でハラスメント抗議デモ
  • フランチャイズ店舗での性被害も複数訴訟に

これらはいずれも、単なる個人の逸脱ではなく、組織の体質が問われた事例である。特にマクドナルドのような世界的ブランドであっても、内部統制の不備は社会からの信頼を失う致命的な要因になる。国や業界を問わず、現代では「中で何が起きているか」に世界が注目しているのだ。


日本企業も例外ではない──「静かな爆弾」を抱える組織構造

厚労省の調査では、7割以上の労働者が何らかのハラスメントを経験しているという。軽度なケースが多いとはいえ、その中には組織崩壊につながる“潜在リスク”が数多く含まれる。

日本の企業数は約400万社。その7割が何らかのハラスメント問題を抱えていると仮定すれば、あくまで単純計算だが、280万社が“知らずに爆弾を抱えている”ことになる。

しかも、その多くが「自覚なきまま」にリスクを積み上げている点に、深刻な構造問題がある。

  • 「うちは昔からこうだから」
  • 「個人の問題だろう」
  • 「辞めたければ辞めればいい」

こうした言葉が社内で飛び交っている間は、企業は気づかぬうちに崩壊のカウントダウンを進めている。


クリーン経営こそが選ばれる条件になる

若年層の就職志向は確実に変化している。

  • 「年収が高い」より「安心して働ける」
  • 「有名企業」より「尊重される職場」

これは単なる理想論ではなく、現実の採用活動において「ホワイト企業であること」が競争力そのものになっている証左である。

企業の社会的評価は、採用市場・取引先・消費者の三方面から同時に見られており、「一度の炎上で全方位的に信頼を失う」ことも今や常識だ。逆に言えば、クリーンな企業であることは、三方面すべてから選ばれる条件となる


ハラスメント対策は「倫理」ではなく「戦略」である

現代の経営者は、ハラスメントを“教育”や“職場文化”として片づける時代錯誤から脱しなければならない。それは倫理や法令遵守の話にとどまらず、明確な「企業戦略」なのである。

たとえば「部下の教育のつもりだった」「指導の一環だと思っていた」といった言い訳が、組織全体の信用を失墜させる時代である。管理者一人の言動が、企業全体の存続に直結するという現実に目を向ける必要がある。

実践すべき5つの対策

  1. 社内ガイドラインと処分ルールの明文化
  2. 第三者による相談窓口の設置(外部委託含む)
  3. 管理職へのハラスメント研修の義務化
  4. 定期的な社内アンケートと匿名通報制度
  5. フランチャイズ・子会社へのリスク教育と統制

これらは“やっている感”では意味がない。実効性があり、社員が安心して使える仕組みになっているかどうかこそが問われる。


結論:人を守れない企業は、社会からも守られない

これからの時代、「クリーンな企業」であることは差別化ではなく“最低条件”となる。健全な企業文化を育てられる組織だけが、人材からも顧客からも選ばれ、社会に残る。その逆に、「人を粗末に扱う企業」は、やがて人からも見放され、静かに市場から退場していく。

ハラスメントは、会社を内部から殺す。その兆候は、必ず現れている。その事実に「気づけるかどうか」が、次世代の経営者にとって最大の分岐点である。


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