退職が続く会社の“本当の問題”|辞め方の質が組織の未来を決める(2025.5.15)

「退職者が続く」という現象の裏にあるもの

企業の人事担当やマネジメント層にとって、「退職者が続く」というのは大きな懸念材料だろう。
組織運営にとっても、業務継続にとっても、チームのモチベーション維持にとっても、少なからぬ影響がある。
だが、その退職がすべて“悪”なのかと言えば、答えは否である。

退職が続くこと“すべて”が悪ではない。
問題は、どんな退職が続いているかである。

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退職の背景には「置いていかれた感覚」がある

2025年4月に発表されたパーソルキャリア「Job総研」の調査では、「知り合いの退職で『自分はこのままでいいのか』と悩んだことがある」と答えた人が74.0%にのぼった。

この数字の意味は重い。
つまり、7割以上の人が「他人の退職によって、自分の環境に疑問を持った」ということなのだ。

これは偶然ではない。むしろ、「辞めたくなる環境」がそこかしこに存在しているという社会構造の現れだ。

特に、「置いていかれているように感じた」という回答が示唆的である。これは、「不満が明確にあるわけではないが、今のままで良いとは思えていない」という曖昧な違和感を反映している。未言語化の不満や焦燥感が、他人の退職によって炙り出されるのだ。


退職者には2種類ある:ステップアップ型と後ろ向き型

退職という行動の中には、大きく2つのベクトルが存在する。

● ステップアップ型退職

  • キャリアアップや起業、転職市場での挑戦を目指す
  • 新たな環境で自分の力を試したい
  • 現職に満足していても、あえて出る決断をする

● やむを得ない後ろ向き退職

  • ハラスメントや評価への不信、上司との摩擦
  • 成長実感の欠如や、待遇への諦め
  • 変わらない職場環境に絶望して去る

この2つは、同じ「退職」であっても、その意味はまるで違う。
前者は組織の力を示すが、後者は組織の限界を暴く。


ステップアップ型退職が「企業の育成力」を証明する

若いうちにキャリアアップや挑戦を望むのは自然なことだ。
その欲求を支え、背中を押す環境がある会社であれば、むしろ人材が辞めていくことは育成の成功を意味する

たとえば、リクルートをはじめ、サイバーエージェントやメルカリ、野村総合研究所(NRI)、ゴールドマン・サックス日本法人などは、一定の期間で人材が辞めていく傾向があるが、それが「負の結果」ではなく「成長の証」として受け止められている

それぞれの企業には以下のような特徴がある:

  • サイバーエージェント:若手に早くから裁量を与え、育成と放任のバランスをとる文化がある。出身者はマーケティングやメディアなど多方面で活躍しており、「早期に実力をつけられる企業」として認知されている。
  • メルカリ:自律した人材が育ちやすい。短期間で転職する人も少なくないが、転職市場では「メルカリ出身」というだけで高評価される土壌があり、人材の成長サイクルが機能している。
  • 野村総合研究所(NRI):コンサルファームとしての実務経験や修羅場での鍛錬を通じて、プロジェクトマネジメント能力が磨かれる。外資系企業や起業へとキャリアを展開する人材も多く、いわば“経営人材の登竜門”とも言える存在。
  • ゴールドマン・サックス日本法人:厳しい成果主義と実力主義により、短期間で金融スキルとマネジメント能力を体得できる。退職後もプライベートエクイティファンド、起業、MBA進学など多様なキャリアに進む人が多い。

このような企業に共通しているのは、**「辞めたあとに伸びる人材が多い」=「その会社で学べることが多い」**という評価が成り立っている点である。

つまり、「辞めること」自体が、その企業の育成力・実践環境・ブランドの証明になっている。

そして何より重要なのは、こうした会社では「退職しても成功するし、会社も成功し続ける」という循環ができていることである。

その理由は明確だ:

  • 育成サイクルが回っており、次の人材が育つ
  • 退職が組織の価値を下げるどころか、逆に“出身者ブランド”としてプラスに作用する
  • 退職者とのネットワークが維持され、将来的な協業やシナジーの種になる

つまり、「人材の流動性」を前提とした経営がなされており、退職を止めるのではなく、“活かす”発想に転換されているのだ。


問題は「後ろ向きな退職」が続く会社

一方で、最も危険なのは「やむを得ない後ろ向き退職」が静かに連鎖する組織である。

以下のような特徴を持つ会社に多く見られる:

  • 上司のハラスメントが放置されている
  • 評価や昇進が不透明で恣意的
  • 意見を言っても無視される、あるいは報復される
  • 成長機会がなく、毎日がルーチン
  • 「辞めても何も変わらない」という諦めが広がっている

こうした職場では、誰かが辞めるたびに空気が重くなる
そして、次の退職者がまた現れる。
それは人の問題ではなく、“土壌”の問題だ。


「上司が原因」=「会社の責任」である

「上司と合わなかったから辞めた」──この言い訳はよく聞くが、その“上司”を選び、育て、管理しているのは会社である。

上司の資質は“組織文化の反映”であり、その放置は“組織の選択”である。

  • 管理職に対する評価が形式的
  • 部下の退職が起きても責任が問われない
  • 改善提案が握りつぶされる構造がある

このような会社では、後ろ向きな退職が止まらない。そしてそれは、「企業が問題を直視していない」という危険なサインだ。


「退職が続く」現象の本質は、“組織の自己評価”

退職は個人の決断であると同時に、職場環境への“フィードバック”でもある。
とくに、同じ理由で複数人が辞めているのであれば、それは個人の問題ではない。組織が何らかの機能不全を起こしている証左である。

経営者や人事が注目すべきは、「なぜ辞めたか」「何を訴えていたか」「なぜ止められなかったか」だ。


まとめ:会社は“前向きな退職”を増やす努力を

退職が悪ではない時代において、企業に求められるのは“辞めさせないこと”ではなく、“良い辞め方ができる仕組みを持つこと”である。

前向きな退職が増える会社は、常に人を育て、送り出し、また迎え入れる力がある。
後ろ向きな退職が連鎖する会社は、育てることも、守ることも、変えることもできていない。

「何人辞めたか」ではなく、「どう辞めたか」こそが、企業の価値を決める。

知り合いの退職で「自分はこのままでいいのか」悩んだ経験「ある」74.0% パーソルキャリア「Job総研」調査: J-CAST 会社ウォッチ