

はじめに──「上司は部下以上に学ぶべきである」
かつての職場では、部下や新人が「学ぶ側」、上司や管理職は「教える側」として振る舞うのが当然とされていた。しかし現代の組織において、この構図は大きく崩れている。むしろ、最も学び続けなければならないのは、上司自身であるという認識が求められている。
その理由は単純明快だ。変化のスピードが速すぎるからである。
- 技術の進化(例:AI、チャットツール、クラウド管理)
- 働き方の変化(例:リモートワーク、副業解禁)
- 社会の価値観変化(例:多様性、ジェンダー、心理的安全性)
- 法制度の変化(例:労基法、ハラスメント防止指針)
こうしたすべてに対応するには、現場で直接マネジメントを担う上司が常に学び、アップデートし続ける必要がある。

「成功体験」は進化を阻害する最大の敵
多くの上司は、過去の成功体験を礎に昇進してきた。実績があり、評価されてきたからこそ、今の立場にあるのは事実だ。
だが問題は、その成功体験が「普遍的な正解」だと誤認されやすいことにある。
「自分はこうして結果を出してきた」という自信は、裏返せば他のやり方を拒絶するバイアスにもなり得る。
成功体験を持つこと自体は誇るべきことだが、それに固執し始めた瞬間、人はアップデートを止める。現代の環境では、それが致命的な足かせになる。
「選択肢の拡張」こそ学びの目的
学びとは、単なる知識の増加ではない。選択肢を増やすことであり、時代や相手に応じて最適な手段を選べるようになることだ。
たとえば、以下のような選択が求められる場面がある:
| 項目 | 過去型 | 現代型 |
|---|---|---|
| 業務連絡 | 電話・口頭 | チャット・タスク管理 |
| 指導方法 | 一括教育・叱責 | 対話・個別対応 |
| 管理方法 | 常時監視・同行 | 成果管理・信頼ベース |
重要なのは、現代型を盲目的に肯定することではない。過去型も状況によっては有効であり、使い分けるためにこそ、学ぶ必要がある。
スポーツの世界に見る「アップデートの本質」
上司に学びが求められる理由を、スポーツの世界に例えるとより鮮明になる。たとえばサッカーの進化は非常に象徴的だ。
かつてのサッカーは「走れ、蹴れ、競り勝て」の根性論が支配していた。システムよりも個人の根性や経験が評価され、監督もそれをベースに戦略を組み立てていた。
しかし現代のサッカーは違う。ポジショナルプレーを中心に、選手の動きは緻密に設計され、スパイクに搭載されたセンサーから走行距離やスプリント数、位置データまで取得されて戦術に反映される。データと戦術の融合、テクノロジーと戦略の連動こそが、現在の勝敗を決める要素になっている。
かつての「勝ち方」は、今では通用しない。
これは、ビジネスの世界でも同じである。かつては対面主義、電話重視、根性論のマネジメントで成果が出せた時代もあった。だが今は、リモートワークやクラウドツール、心理的安全性や多様性への理解が求められる時代。にもかかわらず、「自分はこうしてきた」と旧来のやり方に固執する上司は、まさに現代のフットボールに“昭和戦術”で挑むようなものである。
勝ち続けたいなら、監督(上司)こそが最新の知識と戦術に最も敏感でなければならない。
自分を“疑える”上司こそ、信頼される
過去のやり方を続けることは悪ではない。ただしそれは、他の選択肢を知り、検証したうえで残された「選ばれた方法」であるべきである。
- 他のやり方を「知らない」から使わないのか
- 他のやり方を「知った上で」使わないと判断したのか
この違いは、部下からの信頼に直結する。
上司の「学び」の具体的な対象領域
上司に求められる学びの範囲は、非常に広い。以下にその一部を整理する:
- マネジメント論:1on1、エンゲージメント理論、心理的安全性など
- ITツール:Slack、Notion、ChatGPT、Zoomなどの業務活用
- 労務知識:労働法、育児・介護関連法、残業規制、同一労働同一賃金
- 社会情勢:世代間ギャップ、多様性、SNS文化など
- 経営的視点:人的資本経営、SDGs、コンプライアンス対応
これらはすべて、部下やチームを活かすために必要な視点と手段である。
「上司=最も学んでいる人」になるべき時代
昔は、上司は「最も経験のある人」「最も偉い人」だった。今は違う。
上司とは、最も柔軟で、最も学び続けている人であるべきである。
上司自身が「知ろうとする姿勢」「変化を受け入れる姿勢」を示すことで、部下たちは安心し、信頼し、自分も成長しようとする。逆に、変わらない上司のもとでは、誰も新しい挑戦をしなくなる。
結論:変わらないためには、変わり続けよ
上司として、自分のスタイルに誇りを持つことは大切だ。しかしその誇りは、「学んだうえで選び取ったもの」であってこそ意味を持つ。
変わらない正しさを貫くには、変わり続ける努力が不可欠である。
上司こそが最も学び、最も変化に敏感でなければならない──。 それが、令和の組織を前に進めるために求められる、真のリーダー像である。