上司とは誰よりも学び続ける役職である(2025.6.9)

はじめに──「上司は部下以上に学ぶべきである」

かつての職場では、部下や新人が「学ぶ側」、上司や管理職は「教える側」として振る舞うのが当然とされていた。しかし現代の組織において、この構図は大きく崩れている。むしろ、最も学び続けなければならないのは、上司自身であるという認識が求められている。

その理由は単純明快だ。変化のスピードが速すぎるからである。

  • 技術の進化(例:AI、チャットツール、クラウド管理)
  • 働き方の変化(例:リモートワーク、副業解禁)
  • 社会の価値観変化(例:多様性、ジェンダー、心理的安全性)
  • 法制度の変化(例:労基法、ハラスメント防止指針)

こうしたすべてに対応するには、現場で直接マネジメントを担う上司が常に学び、アップデートし続ける必要がある。

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「成功体験」は進化を阻害する最大の敵

多くの上司は、過去の成功体験を礎に昇進してきた。実績があり、評価されてきたからこそ、今の立場にあるのは事実だ。

だが問題は、その成功体験が「普遍的な正解」だと誤認されやすいことにある。

「自分はこうして結果を出してきた」という自信は、裏返せば他のやり方を拒絶するバイアスにもなり得る。

成功体験を持つこと自体は誇るべきことだが、それに固執し始めた瞬間、人はアップデートを止める。現代の環境では、それが致命的な足かせになる。


「選択肢の拡張」こそ学びの目的

学びとは、単なる知識の増加ではない。選択肢を増やすことであり、時代や相手に応じて最適な手段を選べるようになることだ。

たとえば、以下のような選択が求められる場面がある:

項目過去型現代型
業務連絡電話・口頭チャット・タスク管理
指導方法一括教育・叱責対話・個別対応
管理方法常時監視・同行成果管理・信頼ベース

重要なのは、現代型を盲目的に肯定することではない。過去型も状況によっては有効であり、使い分けるためにこそ、学ぶ必要がある。


スポーツの世界に見る「アップデートの本質」

上司に学びが求められる理由を、スポーツの世界に例えるとより鮮明になる。たとえばサッカーの進化は非常に象徴的だ。

かつてのサッカーは「走れ、蹴れ、競り勝て」の根性論が支配していた。システムよりも個人の根性や経験が評価され、監督もそれをベースに戦略を組み立てていた。

しかし現代のサッカーは違う。ポジショナルプレーを中心に、選手の動きは緻密に設計され、スパイクに搭載されたセンサーから走行距離やスプリント数、位置データまで取得されて戦術に反映される。データと戦術の融合、テクノロジーと戦略の連動こそが、現在の勝敗を決める要素になっている。

かつての「勝ち方」は、今では通用しない。

これは、ビジネスの世界でも同じである。かつては対面主義、電話重視、根性論のマネジメントで成果が出せた時代もあった。だが今は、リモートワークやクラウドツール、心理的安全性や多様性への理解が求められる時代。にもかかわらず、「自分はこうしてきた」と旧来のやり方に固執する上司は、まさに現代のフットボールに“昭和戦術”で挑むようなものである。

勝ち続けたいなら、監督(上司)こそが最新の知識と戦術に最も敏感でなければならない。


自分を“疑える”上司こそ、信頼される

過去のやり方を続けることは悪ではない。ただしそれは、他の選択肢を知り、検証したうえで残された「選ばれた方法」であるべきである。

  • 他のやり方を「知らない」から使わないのか
  • 他のやり方を「知った上で」使わないと判断したのか

この違いは、部下からの信頼に直結する。


上司の「学び」の具体的な対象領域

上司に求められる学びの範囲は、非常に広い。以下にその一部を整理する:

  • マネジメント論:1on1、エンゲージメント理論、心理的安全性など
  • ITツール:Slack、Notion、ChatGPT、Zoomなどの業務活用
  • 労務知識:労働法、育児・介護関連法、残業規制、同一労働同一賃金
  • 社会情勢:世代間ギャップ、多様性、SNS文化など
  • 経営的視点:人的資本経営、SDGs、コンプライアンス対応

これらはすべて、部下やチームを活かすために必要な視点と手段である。


「上司=最も学んでいる人」になるべき時代

昔は、上司は「最も経験のある人」「最も偉い人」だった。今は違う。

上司とは、最も柔軟で、最も学び続けている人であるべきである。

上司自身が「知ろうとする姿勢」「変化を受け入れる姿勢」を示すことで、部下たちは安心し、信頼し、自分も成長しようとする。逆に、変わらない上司のもとでは、誰も新しい挑戦をしなくなる。


結論:変わらないためには、変わり続けよ

上司として、自分のスタイルに誇りを持つことは大切だ。しかしその誇りは、「学んだうえで選び取ったもの」であってこそ意味を持つ。

変わらない正しさを貫くには、変わり続ける努力が不可欠である。

上司こそが最も学び、最も変化に敏感でなければならない──。 それが、令和の組織を前に進めるために求められる、真のリーダー像である。

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