中小企業はJ1チームではない|「経験者」で勝ち上がる人材戦略(2026.2.27)

序章|大企業ほどアルムナイ採用を強化している不思議

人手不足が深刻だ、採れない、集まらない——そう言われる時代に、アルムナイ採用(出戻り・再入社制度)を整備し、強化しているのは主に大企業だ。ここにまず違和感がある。

大企業は、正直なところ「大した努力をしなくても若い人が集まる」。
知名度、安定、福利厚生、そして親が安心するという社会的信用。友達に話しやすい、結婚しやすい、住宅ローンが通りやすい——理屈では説明しづらいが、拭えない“空気”が味方する。いずれも中小企業では得にくいものだ。

その”採用強者”である大企業が、アドバンテージをフルに使って、若手だけでなく経験者の採用ルートまで用意する。タレントプール、リファラル、アルムナイ。入口を複線化し、「人材を取りこぼさないシステム」を整えていく。

そもそも人が集まる会社が、さらに人を集める。それが現状だ。

一方で、本来いちばん人材獲得に苦労する中小企業こそ、経験者採用を厚くすべきなのに、現実は逆だ。
中小企業ほど若手を欲しがり、無理な若手争奪戦に参加してしまう。勝てない戦いを、同じ土俵で続ける。ここに、人手不足の“詰まり”が生まれている。

はっきり言ってしまおう。それは分不相応なのだ。
中小企業はJ1チームではない。だから戦い方を変えるべきだ。

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第1章|「若手が欲しい」は正しいが、勝てない

若手の人材が欲しい。これは中小企業に限らず、どの会社にとっても自然な欲求だ。伸びしろがある。吸収が早い。将来の中核になり得る。否定する理由はない。

問題は、ここからだ。
中小が「若手獲得」を主戦場にすると、大手企業と比較して構造的に不利な要素が多すぎるのだ。
給与の上げ合いは体力勝負になる。福利厚生は設計と運用のコストがかかる。知名度は一朝一夕で上がらない。採用広報は継続投資が必要だ。そして何より、若手側の意思決定には、”数字に出ない圧力”がある。

  • 親の安心や周囲への説明のしやすさ(=世間体)
  • 将来の転職市場での“箔”
  • 「大企業で修行した」という肩書

これらは、中小企業がどれだけ丁寧な理念を語っても、すぐには覆せないものだ。
特に社会人経験が浅い若手であればあるほど、企業名、ブランドがモノを言うのは否めない。

だから中小企業は若手を取るな、と言っているのではない。
若手獲得“だけ”を勝ち筋にするべきでは無いのだ。
若手を欲しがるほど、より強い大企業も若手を欲しがり、結局、同じ人材を同じ市場で取り合う。勝敗は資本力とブランドで決まりやすい。中小は疲弊し、採用は運任せになる。
これが「中小は人手不足になりやすい」最大の理由だ。


第2章|日本の労働市場は対流していない

本来、成熟した労働市場には「対流」がある。
上のカテゴリで経験した人材が、別の現場へ流れ、技術と知見を広げる。若手は上流で育ち、経験者が中流・下流を強くする。
そうやって労働市場全体、ひいては国内経済が底上げされる。

しかし日本の現実は、対流が起きていない。むしろ“渋滞”している。

  • 大企業:若手も経験者も囲い込む(入口を複線化)
  • 中小:若手争奪戦に参戦する(同じ土俵へ)
  • 中高年:市場で評価が割れ、滞留する(40歳限界説)
  • 技能・ノウハウ:企業内で閉じ、拡散しない

この状態では、ニーズがバッティングしてしまう。どこも「同じ層」を欲しがっているからだ。
結果として、あちらこちらで衝突が起き、労働人材の流れが止まる。

人手不足とは、単なる総量不足ではない。合理的な人材の流れを構築できていないことが、慢性不足を生んでいるのだ。
さらに悪いのは、対流が止まると技能や知見が拡散しないことだ。大企業で磨かれた実務ノウハウが、社会の末端まで浸透しない。すると中小の生産性が上がらない。生産性が上がらないから賃金も上がらない。賃金が上がらないから若手が来ない——結果的に、悪循環が固定化してしまう。


第3章|Jリーグの人材対流モデル

この詰まりを解く比喩として、プロスポーツの構造が役に立つ。プロスポーツの世界は成果主義が明白であり、選手もチームも、そして観客もそのことを理解していて、わかり易い。

たとえばJリーグでは、J1でデビューした選手が、請われれば海外へ渡り、30歳前後で日本に戻り、J1やJ2でプレーし、30代半ばにはJ3や地域リーグに所属する、といったキャリアも少なくない。
キャリアの中ほどが高くなる、名付けるなら「山型キャリア」だ。
カテゴリが下がれば待遇が変わる場合も多い。それでも、選手は「仕事をする場」として受け入れることがある。

重要なのは、カテゴリダウンが「終わり」ではないという文化だ。役割が変わり、相場が変わる。だが価値がゼロになるわけではない。むしろ、ここで強烈な効果が生まれる。

トップで培われた技術・戦術理解が、下位カテゴリへ浸透するのだ。

経験者は試合を落ち着かせる。判断を速くする。試合中のみならず、練習の質を上げる、若手の成長速度を上げるなど、実に副次的効果が多い。結果、チーム全体が底上げされ、時には上位リーグ昇格を実現する。
こうして日本のサッカーは、Jリーグ創設から約30年で強くなってきた。

■ キャリア段階別対比

キャリア段階プロサッカー選手(典型年齢)ビジネスマン(典型年齢)
① 育成・基礎形成期18〜23歳
下部組織〜トップ帯同
身体能力の伸長、基礎戦術の習得
22〜28歳
新卒〜若手実務担当
基礎スキル、業界理解、実行力の獲得
② 台頭・市場評価上昇期24〜29歳
主力定着、代表・海外移籍も
市場価値ピークに向かう
29〜35歳
専門性の確立、プロジェクト中核
成果の再現性を獲得
③ 円熟・統合力ピーク期30〜34歳
判断力で勝負、役割変化
カテゴリ移動が始まるケース
36〜49歳
統合力・交渉力・育成力が成熟
事業責任・マネジメントの中核
④ 再分配・知見拡散期35〜38歳
J2/J3・地域リーグへ
精神的支柱、若手の成長加速
50〜60代前半
顧問・高度専門職・育成役
暗黙知の形式知化、意思決定の安定化
⑤ 引退・転身期38歳以降
引退→指導者・育成・解説
60代以降
セカンドキャリア、社外顧問、地域還元

これと同じことが、労働市場で起きるべきなのだ。上流から下流までの全体底上げに、人材移動は必須だ。
但し、違いはある。スポーツは体力ピークが若い。だから、若い時の待遇条件が高くなりやすい。キャリア晩年には落ち着いてくるケースがほとんどだ。
しかしビジネスは逆で、年齢と共に経験と知見が武器になる領域も多い。だから単純に「年齢が上がる=安く使う」で設計してしまうと、対流は起きにくくなる。その結果、人材は流動せず、技術・知見も拡散しなくなってしまう。


第4章|40歳限界説は市場の欠陥

「経験者を歓迎する」という建前は、確かに広がっている。だが同時に、「40を過ぎると再就職は難しい」という空気も残っている。黒字企業による、中高年を対象とした早期退職募集のニュースも絶えないのが実情だ。

このような”40歳限界説”が根強い最大の理由は、個人ではなく市場設計にある。

  • 年齢と賃金が強く連動する(年功カーブ)
  • 役職ポスト前提で処遇が決まる(ポスト不足が詰まりを生む)
  • 職務が曖昧で、専門性が可視化されにくい(ジョブの弱さ)
  • 社内ローテーションで“市場型スキル”が薄まる(汎用化の罠)

こうして企業が作ってきた仕組みの結果として、「高コストだが役割が曖昧な人材」が量産されてきたのだ。現在では採用側もその扱いに困り、結果として「年齢で足切り」という乱暴な結論に流れがちとなっている。

しかし、実際には40歳という年齢だけで、十把一絡げに「使えない」と断ずるべきでは無いのだ。
もちろん、成長が止まった人材もいるだろう。経験を活かせない人材もいる。
だが、確かに価値ある経験や知見、ノウハウや人脈を持った人材も多数いる。それは加齢を経たからこそ、獲得したものであり、若さやパワーで補えるものでは無い。
それもまた価値であり、経済の成長計画に組み込むべきである。


第5章|中小は「J3戦略」を取れ

中小が採るべき戦略は明確だ。それは、J1チームの真似をやめることだ。言い換えるなら——J3戦略を取れ。

J3戦略とは、若手を捨てることではない。若手争奪戦を主戦場にせず、経験者の力でチームの勝率を上げることだ。
中小は資本が限られ、失敗余力が小さい。教育投資にも上限がある。だからこそ、経験者が効く。
経験者がもたらす価値は、派手ではない。しかし確率、精度を上げる。

  • 優先順位をつける(やらないことを決める)
  • 顧客対応を安定させる(信用を落とさない)
  • トラブル時に詰まない(修羅場耐性)
  • 若手の育成速度を上げる(教え方がうまい)
  • 仕事を仕組みに変える(属人性を削る)

以上のようなことを、積み上げてきた経験から低リスク高確度で選択できるのが、経験者なのだ。中小企業としては、自社のためにそれを使わない手は無い。

但し、ここで重要な一線がある。カテゴリダウン=搾取では決してない。
中小が経験者を活かすとは、「安く買い叩く」ことではない。むしろ逆だ。

適正な労働条件で“折り合う点”を見つける。

スポーツでも、カテゴリが変われば年俸相場が変わる。しかし“ゼロ扱い”はしない。役割に応じて契約を組み替える。
ビジネスも同じで、役割・成果・責任を明確にし、報酬と働き方を再設計する必要がある。

中小が目指すべきは虚飾ではなく実利だ。ブランドではなく勝率だ。
若手が活躍している、という見栄えではなく、現場が強くなる設計なのだ。


第6章|人材対流が経済成長を生む

人材対流が回り始めると、個々の会社の採用が楽になるのはもちろんだが、果実はそれだけではない。
日本国内の経済全体が変わってくる。

  • 大企業は「育成装置」になる(若手の基礎訓練)
  • 中小は「実装装置」になる(現場で成果に変える)
  • 地域・周辺企業は「定着装置」になる(技能が根づく)

トップの知見が社会の末端へ広がり、中小の生産性が上がる。生産性が上がれば賃金が上がる。賃金が上がれば人が来る。人が来ればさらに改善が回る。
つまり、対流は経済成長のエンジンになる。

逆に言えば、今の日本は対流を止めたまま、同じ層を奪い合っている。だから人手不足が解消しないし、人材流動に伴う技能移転が起きない。その結果的に成長が鈍くなっている。
人材不足は、努力不足というより構造不足なのだ。


終章|中小はJ1ではない、リーグを勝ち上がれ

中小企業がまず受け入れるべき現実はシンプルだ。
中小企業はJ1チームではない。まずは、それを認めることだ。
J1の戦い方を模倣しても、勝てない。勝てない戦争を続ければ、疲弊するだけだ。

だから、上位を目指す企業なりの戦い方を変える。
若手争奪戦を主戦場にしない。経験者を迎え入れ、チーム全体を底上げする。適正条件で折り合い、役割を再設計し、勝率を上げる。その積み重ねが、昇格=成長を生む。

人材による会社の強化とは、スター獲得ではない。
チーム全体の基準値を引き上げることなのだ。

中小企業が実利を選び、経験を活かし、人材対流の受け皿になる。そこから日本の労働市場はプロになる。
詰まりはほどけ、技術は国内経済の隅々まで行き渡る。そうして日本全体が強くなる。

最後に繰り返しになるが、中小企業はJ1チームではない。
だからこそ、正しいやり方を選択して、成長していく必要があるのだ。

元記事:広がる「アルムナイ採用」 これが人不足解消の決め手か? 成功する「出戻り社員」の迎え方とは?(Yahooエキスパートトピ