

採用がAIに侵食されている──その問題は技術ではなく「姿勢」にある
近年、AIを活用した採用手法が急速に広がっている。エントリーシートの自動スクリーニング、録画面接のAI評価、さらには自然言語処理による性格分析など、AIによる選考技術は日進月歩で進化している。
一見、採用が合理化され、候補者とのミスマッチが減るかのように見える。しかし、本当に問題なのはAIそのものではない。もっと深刻なのは、日本企業が採用という“人を見る営み”を、責任ごとAIに委ね始めていることだ。
この背景にあるのは、技術活用の巧拙ではなく、採用業務に対する根本的な価値観の違いである。特に欧米との比較から、日本型採用の危うさが浮き彫りになる。

欧米におけるAI採用──道具としての位置づけ
欧米でもAIは採用業務に活用されている。特に大企業では、以下のようなAI支援ツールが一般的になっている。
欧米型AI活用の具体例
- 履歴書のスクリーニング支援
- 候補者とのチャットボット対話による一次対応
- ジョブスキルとのマッチングスコア提示
- 面接準備のための候補者情報整理
しかし、これらのAI活用はあくまで補助的役割にとどまる。最終的な判断や対面での面接には、職務理解と人間的な目利きを兼ね備えた人事スペシャリストが深く関与している。
欧米型AI活用の特徴
| 項目 | 欧米型採用 |
|---|---|
| 導入目的 | 効率化と公平性の補助 |
| 判断者 | 人事スペシャリスト(人間) |
| AIの役割 | 情報整理・下準備 |
| 説明責任 | 面接官が明確に持つ |
AIは“使う側の人間”が責任を持つ前提で設計されている。これは単なる技術運用の話ではなく、明確な「人間中心思想」に立脚したマネジメント文化である。
日本企業に蔓延する“責任放棄型AI依存”
一方、日本におけるAI採用の導入は、まるで別の方向を向いている。
- 「誰でも採用業務ができるようにするため」
- 「工数削減のため」
- 「若手社員にも任せやすいように」
こうした動機でAIを導入する企業が多い。その結果、採用業務が“誰でもできるルーチン業務”へと矮小化されている。
日本型AI活用の危険な特徴
| 項目 | 日本型採用 |
| 導入目的 | 業務軽量化・属人性排除 |
| 判断者 | AI(またはスコアに従う若手) |
| AIの役割 | 選考そのもの |
| 説明責任 | 曖昧・属人的 |
つまり、AIを“補助”ではなく“主導”として使う構造が形成されている。
これは、「人間の判断がAIより劣る」という問題ではない。 「人間が責任を取りたくないから、AIに決めさせている」という構造的な怠慢である。
「最後は人が判断するから大丈夫」という幻想
日本でもよく聞かれるのが、「AIは使っているが、最終判断は人がしているから安心だ」という声である。
だが、現実にはこうだ:
- 面接官がジョブディスクリプションを深く理解していない
- 面接に至る前の段階で、AIによって多くの候補者がふるい落とされている
- 最終面接も、実際は“印象”と“雰囲気”で決まっている
つまり、最初から見るべき人をAIで排除し、最後は“なんとなく良さそうな人”を選んでいるに過ぎないのだ。
この構造では、「最後は人が見ているから安心」どころか、AIと曖昧な印象評価の合わせ技で、採用の本質を見失っている。
採用は最も“汗をかくべき仕事”である
そもそも、採用とは企業の未来を決める最重要業務である。だからこそ:
- 職務と候補者のマッチングを、時間をかけて見極めるべき
- 人を“見る力”を持つ者が、責任を持って判断すべき
- AIはあくまで判断材料の整理役にとどめるべき
それを怠り、「AIがそう判定したから」と言って済ませることは、未来に対する責任をAIに押しつけているのと同じである。
「AIを使う」のではない。「AIに頼る構造」が問題なのだ
AIは優れた道具である。しかし、どんな道具も“使い方”次第で毒にもなる。
問題は、「使っていること」ではない。 問題なのは、「使っているつもりで、実は任せてしまっていること」なのだ。
採用におけるAI活用に必要なのは、以下の3点である:
- 明確な職務定義(ジョブディスクリプション)
- 人間の意思決定者と責任の所在
- AIの位置づけを“補助”に限定する運用設計
これらが揃ってはじめて、AIは真に採用を支えるツールとなる。
終わりに──技術よりも、“人を選ぶ覚悟”を問え
AI採用の進展は止まらない。 だが、その便利さに流され、責任を放棄したとき、企業は「人を見る目」を失う。
日本企業が本当に問うべきは、「AIをどう使うか」ではない。 「採用という責任を、誰が持つのか」という、人間の覚悟の問題である。
そしてその答えがないまま、「AIで採用してます」と胸を張る企業に、未来を語る資格はない。
採用とは、未来への投資である。ならばその投資判断は、人間が責任を持って行うべきだ。
AIは、責任を取らない。責任を取れる人間だけが、AIを使う資格があるのだ。
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