合理的で無い馬鹿げた“年齢至上主義”で日本の生産性が死んでいく(2025.12.19)

■ 序章|日本の生産性が上がらない理由は“制度”ではなく“価値観”にある

日本ほど「努力しているのに報われない国」は珍しい。勤勉で、長時間働き、責任感も強い。それでも生産性はG7最下位、賃金は30年間上がらず、世界的な競争力も低下し続けている。
では、なぜこれほどまでに成果が出ないのか。

日本の国内世論は「制度が悪い」と語りがちだ。
働き方改革が不十分、DXが遅い、設備投資が少ない──確かにそれらも要因ではある。しかし、それだけで説明できるほど問題は浅くない。

日本の生産性を決定的に弱らせている“病巣”は、もっと静かに、もっと深く社会の底に沈んでいる。
それが “年齢至上主義”という価値観の呪縛 だ。
年齢がすべてを支配する。昇進も、キャリアも、再就職の可能性も、待遇の良し悪しも年齢で決まり、経験や成果は後回し。この価値観が、日本を「経験を捨てる国」へと変えてしまった。

米GALLUPは、日本のエンゲージメント率(従業員がどれだけ仕事に前向きで、会社に貢献したいと感じているか)が 6%(世界最下位クラス) と報告している。
100人中94人が前向きに働いていない国で、生産性が高まるはずがない。
このコラムでは、日本・ドイツ・米国の比較から、この“年齢信仰の国”が生産性を落としていく構造を読み解いていく。

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■ 第1章|日本を支配する「年齢至上主義」という呪い

年齢がその人の価値を決める──日本はこの考えを疑うことなく受け入れている稀有な国だ。
若い社員には「伸びしろ」、中高年には「コスト」。そんな雑な価値観が採用・評価・配置・退職のすべてに影響を及ぼす。

●なぜ日本だけが“年齢で人を測る社会”になったのか

戦後の年功序列・終身雇用の遺産が肥大化し、気づけば日本は「若い=価値」「年を取る=役目を終える」という宗教のような価値観を持つ社会になった。この価値観こそが、生産性を破壊する最大の要因である。

● 役職定年という“経験の強制破棄”

55歳で一律にポストを外す制度は、能力や成果ではなく、年齢を基準に役職を奪う。
これは組織にとって、熟練者の暗黙知・判断力・技術的経験を大量に捨てる行為と同義だ。
企業は規模を問わず「継承不足」を嘆く。しかし、その原因を自ら作っていることに気づいていない。

● 早期退職募集のターゲットは“経験の塊”

給与が高く、組織を支えてきた中高年層ほど早期退職の対象にされる。
経験豊富な人材の排出は、組織の生産性を確実に蝕んでいく。

● 再就職市場では“年齢で能力が無効化”される

どれだけ実績があっても、45歳、50歳というだけで門前払い。
労働市場全体で“年齢信仰”が共有されているため、救いの企業がほぼ存在しない。

● 年齢信仰は全世代の活力を奪う

この価値観は中高年だけでなく、若者にも絶望を植え付ける。若い労働者にとって、今の中高年の姿は、20年後の自分たちの姿そのものだ。特に優秀な人たち、思慮深い人たちほどそのことに思い至るだろう。
「自分もいずれ捨てられる」という未来予測が、エンゲージメントを根こそぎ奪っていく。自分たちが数十年かけて頑張って切り開いたその果実は、新たな世代が収穫して、そのころには自分たちは捨てられるのだから。
結果として、短期成果、近視眼的な仕事の取り組み方となる。


■ 第2章|年齢至上主義がもたらす“全世代エンゲージメント崩壊”

エンゲージメント(従業員がどれだけ仕事に前向きで、会社に貢献したいと感じているか)は生産性の心臓だ。
生産性とは今期どれだけ利益を上げられるか、というだけの話ではない。これから数年、あるいは十年後、二十年後、五十年後に成長した会社の姿を描く行為だ。それまでの会社の成長を夢見る、そのために、サスティナブルに、どれだけ働けるかということだ。
GALLUPによれば、日本のエンゲージメント率は 6%。これはもはや“組織の集団的心停止”といっても過言ではない。

▼ エンゲージメント率(=前向きに働く人の割合)

エンゲージメント率Actively Disengaged
(仕事に不満を抱き、積極的にネガティブ行動を取る)
コメント
日本6%24%世界最低クラス。
ストレス・バーンアウト最悪。
米国約33%約18%世界トップ級。
マネージャーが強く、生産性に直結。
ドイツ約17%約20%欧州平均以上。
経験活用・WLBが支え。

日本のエンゲージメントが低い理由は単純だ。「この会社で年齢を重ねると報われない」という未来を、全世代が知っているからだ。日本人は怠けているのではない。会社における未来が見えないのだ。
更には、Actively Disengaged(仕事に不満を抱き、積極的にネガティブ行動を取る)も米国やドイツと比較して高い。もはや「頑張らない」だけでは無く「積極的に足を引っ張ろう」としているのだ。これでは生産性が向上しないのも無理はない。
その理由が、全世代にわたる以下のような労働者意識だ。

● 若手:自分の未来を会社に重ねられない

若手は上司の姿を見て、自分の将来を推測する。

  • 中高年が役職剥奪
  • 早期退職のターゲット
  • 再就職市場では年齢差別
    これらを見て「自分の未来は明るくない」と判断し、早々にエンゲージを手放す。

● 中堅:責任だけが増え、待遇は変わらない

テレワーク管理、ハラスメント対策、部下育成、リスク管理……
「管理職=罰ゲーム」と揶揄されるのも当然だ。
更には、会社に不要とされる年齢が差し迫りつつある。いまから何を頑張ったところで、年齢で一律に切り捨てられるタイミングがそこまで来ているのだ。

● 中高年:経験無視の扱いに心が折れる

最も会社に貢献した世代が、年齢だけで“不要扱い”される社会。積み上げられた経験も知識も価値が無いと見做される。これ以上に士気を削ぐ仕組みは他にない。
そして、その扱いを若い人たちは見ている。初任給が高く設定されていても、いずれは自分たちもそのような扱いをされることを認識しているのだ。

このように、全世代でエンゲージが低い国が、高付加価値を生み出せるわけがない。
日本の労働者はどの世代も、いくら努力をして経験を積んでノウハウを蓄積しても、いずれ捨てられる、それらが無駄になることを知っている。いずれ倒産することがわかっている株を購入するようなものだ。
日本企業は「努力しているのに成果が出ない」のではなく、努力を成果につなげる土台を自ら壊しているのだ。企業の罪は重い。


■ 第3章|“経験の破棄”こそ日本の生産性を奪う最大の構造的欠陥

多くの労働者たちが積み上げてきた”経験”とは、長い時間と失敗と試行錯誤が折り重なった“複利資産”であり、我が国の労働者の英知が結晶化した、一時的な金銭に換えられない国家の資源だ
ところが日本では、この資産が制度と慣習によって破壊され続けている。

● 経験が蓄積しない3つの理由

  1. 役職定年で経験者を組織から外す
  2. 早期退職で経験者を市場へ流す
  3. 労働市場で年齢差別が横行し、経験に価値がつかない

経験が評価されない社会では、人は学ばない。
そして、経験が蓄積しなければ技術も成長せず、付加価値も上がらない。

● 日本企業は“経験の自殺”をしている

技術者・管理職が55歳で大量に役職を外されるために、企業は経験の連続性を維持できない。
結果、生産性は毎年リセットされるような状態になっている。

● 経験軽視は経済全体を貧しくする

経験が複利で蓄積するドイツや米国が生産性で上回るのは当然だ。経験軽視は、日本経済が「いつまで働いても貧しい」理由でもある。
それでも何とか回っているのは、日本人の真面目で勤勉な責任感で、”業務の引継ぎ”という名の元にマイスターにも相当するノウハウを後続へ申し送りしているからだ。結局、日本企業の傲慢さを、辞めざるを得ない生真面目な中高年労働者が吸収していることになる。


■ 第4章|ドイツ:経験を“国家が価値化”する国の圧倒的合理性

ドイツの製造業は競争力・輸出品質・技術深度で世界トップクラス。ドイツは「量より質」の製造業大国だ。
なぜドイツの製造業は世界最強クラスなのか。その答えは明確である。
経験を国家が保証し、制度として活かしているからだ。

● マイスター制度:経験の資格化・市場化

  • 技能を国家資格として可視化
  • 経験がそのまま経済価値に変わる
  • 開業権・指導権など“経験の社会的権利”が付与される

● デュアルシステム:経験継承の仕組み

若手はマイスターから体系的に学び、経験が途切れない。
日本の「属人的指導」「見て盗め」とは根本的に異なる。技術の引継ぎが体系的に行われる環境があり、またマイスター制度によりその引継ぎ自体に価値を付加されることが保証されている。

● Mittelstand(中小企業)が強い

IfM Bonnの調査:中小企業の約70-80%が“経験重視採用”
年齢より経験を評価するため、50代60代が普通に戦力だ。経験のスライドが行われることで、大企業と中小企業の差が埋まり、中小企業が輸出額の40%超を担うことを可能とする。「隠れたチャンピオン」(ニッチ市場世界シェア1位企業)が多数。
2025年GDP寄与率約55%で、中高年労働力を活用しきるモデルが確立されている。

● 経験を捨てる国と活かす国の差が生産性の差

  • ドイツの製造業生産性:日本の1.5倍
  • 高付加価値商品の連続的開発
  • 賃金も労働時間も日本より良い

生産性の差は労働者の能力差ではない。経験という資源を活かすか捨てるかの違いにすぎないのだ。
ドイツは経験という国家資源を生かし切る。日本はその経験を無価値、古いと判断し、”若返り”という美名の元に積極的に廃棄する。
そこから生まれた結果の差は歴然である。


■ 第5章|米国:成果主義と年齢差別禁止がもたらす“合理的人材市場”

米国もまた、中高年が働く需要がある。では米国はなぜ中高年が活躍し続けるのか。
日本とは対照的で、米国では“経験豊富な人材”が最も高く評価される。

● ADEA:年齢差別の法的禁止

40歳以上への年齢差別を禁止する法律により、年齢で足切りする行為そのものが違法。
法律で守られることにより、中高年労働者のエンゲージメントが向上。
日本の雇用対策法も人材募集時の年齢制限を禁止しているが、例外が多く実効性が低い。

● 40代・50代が最も価値を持つ労働市場

  • 多くの企業が中高年を奪い合う
  • 経験を前提に賃金が上がる
  • 転職市場が活発で、機会は年齢で閉じない

また、2025年のMichael Page調査で、日本企業は中高年を「コスト高」と見なすが、米国は「イノベーション源」と積極採用を推進している。

● マネージャーエンゲージメントが組織全体を引き上げる

GALLUPによれば、組織のエンゲージメントの70%は上司で決まる。
米国では管理職のエンゲージメントが高く、チーム全体の成果を押し上げている。
日本では「管理職は罰ゲーム」とも言われており、エンゲージメントは低い。

長年働いてきて蓄積された経験が市場で価値を持ち、年齢が評価の妨げにならない社会では、その経験がスライドして労働市場全体に行きわたる。大企業のみならず、中小企業も経験、ノウハウの恩恵を享受することが可能となる。
結果的に国全体の生産性が高くなるのは当然だ。


■ 第6章|日・独・米の構造比較:生産性の差は価値観の差

● 3カ国を並べると、日本の“異常さ”が鮮明になる

制度でも文化でもなく、労働者年齢に対しての価値観が生産性を決めている。
そのことが以下の表では明確に浮き彫りになっている。


■ 〈比較表〉日・独・米の価値観と生産性の構造

項目日本ドイツ米国
経験の扱い年齢で切り捨て国家資格で価値化市場で最も高く評価
中高年の扱い不用品化・役職剥奪高熟練人材として尊重即戦力として奪い合い
採用の軸若さ重視経験重視能力・成果重視
エンゲージメント6%(世界最下位)17%前後約30%
働き方長時間労働・同調圧力17時退社・休暇取得率高い成果が出れば自由
技術継承断絶しやすいデュアル制度で継承市場で最適配置
生産性低い高い(日本の1.5倍)さらに高い
賃金停滞安定的に上昇成果に比例し上昇

●この比較から見える“日本だけが抱える欠陥”

① 経験を捨てる国は、生産性が上がらない

日独米の決定的な差は “経験の扱い” にある。
経験を活かす国(独・米)は生産性が高く、経験を捨てる国(日本)が圧倒的に低い。

② エンゲージメントは“年齢の扱い”によって決まる

日本の6%という低さは偶然ではない。
中高年が報われない国では、若者も報われない未来を予測し、全世代で意欲が下がる。その結果、会社への貢献意欲=エンゲージメントがドイツの1/3、米国の1/5となっている。

③ 技術継承の仕組みが弱い国は高付加価値を生み出せない

ドイツのように制度的に継承が仕組み化されていない限り、日本のように属人的に経験を切り捨てる国は成長しない。
労働者個人の責任感頼みは企業の甘えであり、限界がある。

以上のことから、日本とドイツ、米国の生産性格差は必然である。
その原因として、年齢に対する価値観の違いが生産性の違いを生んでいることは、上記に示した通りだ。

明確に言おう。日本は、労働者年齢に対する価値観が非合理的だから低生産性から抜け出せないのだ。


■ 最終章|馬鹿げた年齢信仰を捨てなければ日本の生産性は永遠に上がらない

日本の年齢至上主義は社会の深層にこびりついている。
役職定年、早期退職、再就職の年齢差別──そのすべてが“経験という国家資源” を毎年捨てている。

経験は積み上がれば高付加価値を生み、高付加価値は賃金と競争力を押し上げ、それが国家の生産性を高める。
しかし日本は、その逆を続けている。盲目的に若さを重視し、経験を軽視し、年齢だけを理由に人を捨てる社会は停滞する。
これは、年功序列や終身雇用を美化しているのではない。むしろ、裏付けのない年功序列や終身雇用は悪とも言える。

必要なのは、
“年齢ではなく経験や能力で社会を設計する”という価値観の転換 である。

日本に不足しているのは制度ではない。
テクノロジーでもない。
国民の努力でもない。
それらは我が国にはすでにある。

欠けているのは、
合理性のある価値観 だ。盲目的で、右に倣えの年齢信仰こそ、日本の企業全体が捨てるべき思想なのだ。
合理的な価値観を取り戻さない限り、日本の生産性は永遠に上がらない。


【従業員エンゲージメント】日本は世界最下位、米国は第2位、意外な第1位は? | 戦略のデザイン | ダイヤモンド・オンライン