

就職氷河期世代は日本社会の緩衝材ではない──時代のツケを押し付けられた世代への再評価と救済を
就職氷河期世代に対する退職金課税の見直し議論は、日本政府がこの世代にあらゆる時代の歪みと負担を集約させている構図を、改めて浮き彫りにしている。バブル崩壊直後の採用抑制、リーマンショックによる起業機会の喪失、年功序列の崩壊による昇給の停滞、年金支給開始年齢の繰り下げ、さらに今回の退職金課税強化。
しかし、これは単なる経済情勢の悪化による副産物ではなく、政府と社会が意図的に氷河期世代を「犠牲世代」として扱い、制度破綻のしわ寄せを集中させている結果ではないかという疑念を抱かざるを得ない。
日本社会は、高度経済成長期やバブル時代の設計思想で作られた制度を、いまだに引きずっている。しかし、少子高齢化と人口減少が加速する現代において、それらの制度は既に機能不全に陥っている。年金制度や医療・介護制度は、かつての「若者が多数、年寄りは少数」という前提のもとに設計されていたが、今では完全に逆転している。結果的に、この構造的な問題の「帳尻合わせ」として、就職氷河期世代が格好のターゲットにされているのではないか。
氷河期世代が負わされた具体的な不利益は以下のとおりである。
1. 雇用機会の喪失と低賃金
- バブル崩壊後、企業は大幅に新卒採用を抑制。
- 希望する正規雇用に就けず、非正規・フリーターに追いやられた者も多数。
- 更に、終身雇用や年功序列の崩壊で、昇進や昇給の機会は奪われた。
- 現在もなお、他世代と比較して賃金水準は低いまま据え置かれている。
2. 起業・独立への壁
- 一方で、起業しようにも、リーマンショックで金融機関の貸し渋りが発生。
- 無担保・無保証での融資はほぼ閉ざされ、チャンスを掴むことが極めて難しかった。
3. 社会保障制度の負担増
- 年金支給開始年齢の繰り下げによる老後の不安。
- 高齢世代の医療・介護費用の増加を現役世代として支え続けている。
- ところが、氷河期世代の老後には、年金や医療・介護制度そのものが持続不可能になるリスク。
4. 資産形成機会の欠如
- また、生涯賃金が低いため、貯蓄や投資に回せる余裕がなく、資産形成が進まない。
- 株高や不動産価格の上昇といった恩恵をほとんど享受できていない。
5. 退職金課税強化の議論
- 最後の頼みの綱となる退職金まで、課税強化の対象にされようとしている。
- 長年積み重ねてきた労働への報酬さえも、制度の穴埋めに利用される状況。
なお、政府は、2019年から「就職氷河期世代活躍支援プラン」を打ち出したが、実態は限定的かつ場当たり的であり、問題の本質を解決するには程遠い。ハローワークの専用窓口や企業への雇用助成金は整備されたものの、対象が限定されており、多くの氷河期世代はその枠組みの外に置かれている。
本来、政府が行うべきは次のとおりだ。
1.公式な認定と事実の開示
- 氷河期世代が歴史的に最も厳しい労働市場環境に直面し、構造的に不利益を被ってきた事実を公式に認める。
- 自己責任論から脱却し、社会全体がこの問題を正しく理解できるよう、データと実態を広く共有する。
2.実質的な経済再建策
- 氷河期世代向けの起業・創業支援を強化し、無担保・無保証・無金利の融資枠を設ける。
- 親世代からの相続や贈与について、税制優遇を拡充し、資産移転を促進する。
- 年金への特別加算や、退職金への優遇税制を導入し、将来の不安を軽減する。
3.企業への雇用インセンティブ
- 氷河期世代の中途採用を行った企業に対して、法人税や雇用保険料の減免措置を行う。
- 大企業を中心に「社会的責任(CSR)」として氷河期世代採用の枠を設けることを奨励する。
結論
日本社会は今、氷河期世代を「調整弁」として扱う延命策を続けるのか、それともこの世代に正当な機会と補償を与え、国全体の持続可能性を高める道を選ぶのか、岐路に立たされている。政府は、もう時間稼ぎの政策ではなく、世代間の公平性を真剣に見直し、具体的な救済策に着手する責務があると言えるだろう。
「氷河期世代の人生なんだと思ってる」…退職金課税の見直しの影響は? | 国内 | ABEMA TIMES | アベマタイムズ