

「人手不足倒産」の本質は、経営の無計画さにある
「人手不足倒産」とは、表面的には“人が辞めたから倒産した”という話に見える。
しかし、実態はまったく違う。
本質は、“人が辞めざるを得ない経営を続けてきた”ことにある。
人が辞めるのは結果であり、根本原因は経営戦略そのものにあるのだ。
とりわけ中小企業に多いのが、仕事があることに安心し、無計画に受注を増やすことで現場のキャパシティを超えてしまうケースだ。
「売上を伸ばせば資金繰りも改善する」という安易な発想で、業務量や人員体制を精査せず、目の前の案件をとにかく取り込む。
だが、そもそも現状の人員で対応できるのか?
必要なスキルは揃っているのか?
採用や育成は間に合っているのか?
これらを無視した受注は、現場の負荷を爆発的に増やし、優秀な人材から先に離れていく原因となる。
そもそも、人材は無限のリソースではない。
現場に余力があるのか、誰がキーパーソンなのか、どのスキルが足りていないのか――
これを正確に把握した上で、計画的に採用・育成を行い、そこではじめて適正な受注量が決まる。
人事と受注を切り離した属人的な経営は、いずれ破綻を招くのだ。
◆ なぜ人手不足が起こるのか
経営側の計画性の欠如は、次のような行動につながりやすい。
- 適正な業務量の見極めをしない
- 必要な人材・スキルの把握を怠る
- 採用を「誰でもよい」と考える
- 経営層が「人はコスト」としか見ない
- 収益構造の見直しをせず、利益を人材に還元できない
- 長期的な人材戦略より、短期の売上や資金繰りを優先する
このような状態では、現場は疲弊し、人は辞めていく。
賃金や待遇だけでなく、「この会社に未来があるのか」「ここで働き続けて成長できるのか」といった視点で、人は職場を選ぶ。
今は労働市場が売り手市場である以上、優秀な人材は他社に流れ、採用市場で競争力を失った企業は負のスパイラルに陥る。
◆ 実際に成果を挙げている企業は違う
他方で、人材を経営の中心に据えた企業は、安定して人材を確保し、成長を続けている。
以下の企業はその代表例だ。
- サイバーエージェント
若手人材の抜擢と育成を戦略の中心に据え、20代で事業責任者になる例も珍しくない。
個人の成長がそのまま企業の事業拡大に直結するモデルを作っている。 - ファーストリテイリング(ユニクロ)
店舗運営に経営感覚を導入し、現場ごとに収益性を高める仕組みを作っている。
ユニクロ大学など教育投資にも余念がない。 - オムロン
ダイバーシティ推進や健康経営を積極的に実施し、多様な人材の活躍と働きがいを両立。
現場の力が企業の競争力そのものになっている。 - 味の素
ウェルビーイング経営を掲げ、社員の健康と生活の質を向上させる取り組みを進めている。
それが生産性向上に結びつき、企業価値を押し上げている。
こうした企業は、「人はコスト」ではなく「人こそ資本」という思想を徹底している。
人材が辞めるリスクを経営課題として真正面から捉え、そのための手当てを惜しまない。
その結果が、収益力の向上と競争力の維持につながっている。
◆ まとめ
人手不足倒産は、単に労働力が確保できなかった結果ではない。
経営者が自社の現況を把握せず、必要な人数・スキルを見極めないまま場当たり的な受注を繰り返し、現場を崩壊させたことによる必然の結末である。
そして、収益構造を見直す努力を怠り、「無い袖は振れない」と嘆く企業は、これからも淘汰され続けるだろう。
「ヒトを軸にした経営」ができるかどうか。
それが、これからの企業が生き残るための最大の分かれ道となる。
ASCII.jp:「無い袖は振れない」中小企業の淘汰進む “従業員退職型”倒産は過去最多に