70~80歳まで「働くことが当たり前」の社会で重要なのは

「70歳、80歳まで働く社会」が“当然”になることはない(2025.3.14)

「70歳、80歳まで働く社会」が“当然”になることはない

近年、「人生100年時代」という言葉とともに、「70歳、80歳まで働くのが当たり前になる」という論調が目立つようになりました。働き方改革や高齢者雇用の推進、さらには社会保障制度の限界を背景に、こうした議論が出てくるのは当然とも言えます。しかし、果たしてそれは現実に即しているのでしょうか?

結論から言えば、「70歳、80歳まで働くことが当然の社会」は実現しないと考えます。なぜなら、経済合理性が存在しないからです。今回は、その理由を論理的に整理し、あわせて現実的な社会設計の必要性について考えたいと思います。


◆「働く意思」だけでは仕事は成立しない

まず前提として、「働く」という行為は、労働者の意思だけでは成り立たないということを確認する必要があります。雇用は、企業(使用者)と労働者の双方のニーズが合致してはじめて成立します。

  • 「働きたい」という労働者側の希望
  • 「雇いたい」という企業側のニーズ

この両輪が揃わなければ、雇用は生まれません。どれほど「社会の役に立ちたい」「働き続けたい」と思っても、企業が求めていなければ、その仕事は存在しないのです。


◆高齢労働者の「経済合理性」とは何か?

では、企業側が高齢労働者を雇用するメリットはどこにあるのでしょうか。答えはシンプルで、生産性とコストのバランスです。

✅ 高齢労働者のメリット

  • 豊富な経験と知識
  • 高度な専門性(場合による)
  • コミュニケーション力、対人関係能力

✅ 高齢労働者のデメリット

  • 体力の低下
  • 認知力・判断力の低下
  • 新しい技術への適応力の鈍化
  • 労災や健康リスクの増大(企業側の保険負担やリスク管理コストが増す)

50代くらいまでは、経験や技能がこれらのリスクをある程度カバーできるケースもあります。しかし、70代・80代では「生産性」が明らかに低下し、その分を補うだけのメリットが企業側に生まれるケースは稀です。

つまり、加齢によるパフォーマンス低下は、生物として避けられない現実であり、どれだけ「社会のため」「やりがい」があろうとも、企業は合理性を優先せざるを得ないのです。


◆「AI・ロボティクス」が救世主になるか?

一部では、AIやロボティクスが高齢者の労働を補完し、70代・80代でも働ける時代が来るという見方があります。確かに、テクノロジーがサポートし、

  • 重労働を機械が担う
  • 判断をAIがサポートする
    といったシステムが整えば、可能性は広がるでしょう。

しかし、これは技術的・資本的な余力のある企業や、ごく限られた職種での話です。大多数の業種・企業で、70代・80代の労働力が「戦力」になるとは考えにくいのが現実です。


◆「70歳・80歳まで働く社会」を前提にしてはならない

重要なのは、70代・80代まで働くことを「当然」とする社会設計は間違っているということです。

  • 体力・認知力は確実に衰える
  • 生産性の低下は避けられない
  • 企業はコストとリスクを重視する

これが経済の原則であり、
「誰でもいつまでも働ける社会」=「いつまでも働かなければならない社会」になっては、本末転倒です。


◆現実的な社会設計とは何か?

では、どのような社会を目指すべきか。結論は、「現役世代のうちにしっかり稼げる仕組み」を作ることです。そして、老後は年金や貯蓄で穏やかに暮らせる社会インフラの整備が必要不可欠です。


◆現役世代(特に50代)を強化する具体策

✅ 1. 50代・60代向けの再就職・転職支援を国家プロジェクトに

  • 再教育だけでは不十分。再就職先を「作る」ことが国家の責任。
  • 企業側への雇用インセンティブ(法人税減税、社会保険料軽減など)が不可欠。

✅ 2. 50代・60代の起業を支援するファンドとセーフティネット

  • 地域密着型ビジネス、ニッチ市場への参入を支援。
  • 起業の失敗による生活困窮を防ぐ仕組みを作る。

✅ 3. 年金制度の柔軟化と部分的受給モデル

  • 週2〜3日程度の就労と年金の両立を制度化。
  • 無理なく「短時間労働」と「年金」のハイブリッドを実現。

◆国の過去の失敗と責任

現在の社会保障の問題は、政府の無計画な年金運営と先送りの政治の結果です。

  • 年金財源の目減り
  • 社会保険料の値上げ
  • 医療費の自己負担増
  • 年金受給開始年齢の引き上げ
    これらは、すべて国の政策の誤りに端を発しており、その尻ぬぐいを国民に押し付けています。

「高齢になっても働き続けろ」というメッセージは、実は国の責任逃れとも言えるのです。


◆まとめ:「70歳・80歳まで働く社会」は理想でも目標でもない

  • 人間は必ず衰える
  • 企業は雇用に経済合理性を求める
  • 無理に働かせる社会は、むしろ生産性を低下させる

だからこそ、
👉 現役世代(特に50代まで)の収入基盤を強化し
👉 老後は無理なく暮らせる社会インフラを整えること
これが日本社会の持続的発展には不可欠です。

「いつまでも働ける社会」ではなく、
「働かなくても安心できる社会」を作ることこそ、
真の解決策ではないでしょうか。

70〜80歳まで「働くことが当たり前」の社会で重要なのは「価値観の転換」だった(坂本 貴志) | 現代新書 | 講談社

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