OJTという“型なき教育”が若者離職を生む構造(2025.5.30)

はじめに──「OJTで育てる」は教育なのか?

「うちはOJTで育てるから」──この言葉が、現代の職場でどれほど無責任に使われているかをご存知だろうか?企業の多くが「実践的で合理的」と考えるOJT(On-the-Job Training)。だが、その実態は「何も教えず、現場に放り込む」だけの放任であることが少なくない。

そのような“教育のすり替え”が、若者の成長機会を奪い、離職を加速させている。本稿では、OJTの形骸化がなぜ問題なのか、そして現代に必要な「育成の再設計」について、スポーツや芸術の例を交えながら論じていく。

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1. 型がなければ、育たない

■ 空手・野球・絵画に見る「型」の重要性

  • 空手:基本の型を反復して身に付けることで、応用技が活きる
  • 野球:バットの握り方、構え、投球フォームはすべて基礎がある
  • 絵画:最初は模写から入り、技術を蓄積した上で個性を出す

どの分野でも共通しているのは、「型を知ってから崩せ」という原理原則だ。自由や創造性は、型を身につけた者だけに許される特権である。

■ OJTに型がないという致命的欠陥

ところが、職場教育では「とりあえずやってみろ」「現場で覚えろ」という精神論が横行し、最初の型すら示さないまま放り出す。その結果、

  • 何を基準にして良いかが分からない
  • 失敗の原因が不明なまま怒られる
  • 成長実感が得られず、自己評価もできない

これはもはや「育成」ではない。

■ 育成は「土づくり」から始まる

職場の育成も、農業と同じく“土づくり”が要だ。何の準備もないままに新人を放り込むのは、耕していない土地に種をばら撒くようなもの。偶然芽が出ることはあっても、安定して収穫が見込める畑には育たない。

基本の型、業務知識、マナーといった基礎は、栄養豊かな土である。これが整って初めて、実践という水と光が活かされ、個の成長という“作物”が実る。育成とは、一過性の技術伝達ではなく、再現可能な成果を支える地盤づくりであるべきだ。


2. 背中を見て学べ? その言葉の誤解

■ 職人の世界の“背中”には意味がある

「背中を見て学べ」という言葉は、もともと職人の世界における伝承文化だ。だがそれは、熟練者が「見せる技術」を持っているからこそ成り立つものである。

しかし現代の職場では:

  • 見られている意識がない
  • 手順も構造も非公開
  • 暗黙知を明示化しない

このような環境で「学べ」というのは暴論でしかない。


3. Z世代批判の誤解とすり替え

■ 「指示されないと動かない」は本当か?

Z世代が「言われていないからやらない」と言われることは確かにある。だが、やるべきこと自体が見えていない、明確に設計されていない状態で「主体性がない」と切り捨てるのは、組織の怠慢である。

状態問題の本質
やるべきことが明示されている意欲や責任感の問題
やるべきことが不明・未共有教育設計・情報設計の欠如(組織の責任)

「分からなければ聞け」というのは、十分な前提知識がある人間にしか通用しない。いま求められているのは、「聞かなくても分かる」「調べれば辿り着ける」情報と構造である。


4. なぜ“設計”が必要なのか?

■ 育成設計:段階的に「できるようになる」プロセスを用意せよ

  • 初期:座学でルールや構造を学ぶ
  • 中期:基本的な型を実践で反復
  • 後期:自律的に考える力を育てる

このステップがなければ「まずやれ」は無責任に過ぎない。

■ 情報設計:属人化を排除し、知を共有財産に

  • 業務マニュアル
  • よくあるQ&A
  • チュートリアル動画

属人化を防ぎ、誰もがアクセスできる知識基盤を作ることで、タイパ(タイムパフォーマンス)の高い学習が可能になる。

■ 文化設計:質問できる空気・失敗できる安心感

  • 「こんなことも分からないのか」と言わない
  • 指導者の教育スキル研修を実施
  • チームで育てる文化を醸成

育成とは、構造と風土の両輪で成り立つ。


5. なぜ企業はOJTに固執するのか?

■ 根本的な要因

  • 教育に手間とコストをかけたくない
  • 属人的指導への甘え
  • 「自分もそうだったから」という再現不能な自己正当化

だが、これらはすでに通用しない。採用競争が激化し、人材が流動化する中、教育設計のない企業は「人を確保しても定着しない」というコスト倒れに陥る。


6. では、どうすればいいのか?

■ 実行すべきアクション一覧

  • 入社前に提供する予習コンテンツ(動画・スライド)
  • 初期研修でのビジネスマナー・労働法座学
  • 業務フローの可視化(タスク一覧・タイムライン)
  • 育成スケジュールの段階設計(週次の目標)
  • 業務知識のナレッジベース構築(検索可能な仕組み)
  • 定期的な1on1フィードバックと質問受付制度
  • 指導者向けの「教え方」トレーニング

7. 自律は“育てるもの”であって、“期待するもの”ではない

「自分で考えて動け」という言葉は、十分な土台と構造の上に初めて成り立つ。OJTだけでは、その地盤が用意されていないまま、自由と責任を押しつけているにすぎない。

仕事も同じだ。肥沃な土のない畑では、種をいくら撒いても育たない。若手が“芽を出す”には、環境が先に整っていなければならない。

  • 型=種を育てる手法
  • 座学=土の栄養
  • 情報共有=水と光

これらが揃って初めて、人は自らの根を張り、枝を広げられる。「自律型人材」は自然に育つものではなく、耕された畑でこそ育つ“作物”なのだ。


結論──育成は「設計の手間」から始まる

育成とは、偶発的に誰かがうまく育つことではない。誰が入っても、一定水準まで“できるようになる”ための道筋を整えることである。

OJTという言葉に逃げず、真に人を育てるとはどういうことか。企業・管理者がいま一度その意味を問い直すべき時が来ている。

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