録音されたら困る面接は「応募者を騙そう」という企業姿勢である(2025.6.6)

録音されたら困る面接に未来はない──就活録音問題と企業の矛盾を読み解く

就職活動における面接録音の是非をめぐる議論が、いま大きな注目を集めています。とりわけ、就活生向けに面接音声を共有できるサービス「Voice Career」の登場は、企業の人事担当者の間に波紋を広げています。

面接を録音し、それを共有することは「非常識」「信頼関係を壊す行為」と見る企業も少なくありません。しかし、果たしてそれは本当に“非常識”なのでしょうか? むしろ今、問われているのは、「録音されると困るような面接をしている企業側の姿勢」ではないでしょうか。

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録音を嫌がる人事──本当の理由は「言質を取られたくない」

企業が録音に過敏になる理由は明白です。それは、面接の場で発言したことが記録として残ることで、後から責任を問われるリスクが生じるからです。

よくある“録音されると困る発言”の例

  • 「残業はそんなに多くないですよ(実際は月60時間)」
  • 「女性の活躍を応援しています(でも管理職ゼロ)」
  • 「うちはフラットな組織です(でもトップダウンで有名)」

これまでの就活では、面接で言われた言葉はあくまで“口約束”。応募者が何か矛盾に気づいても、「そんなことは言っていない」「誤解だ」と企業が言い逃れる余地がありました。しかし、録音という手段がその逃げ道を塞ぎ始めたのです。


応募者からすれば「当然のニーズ」

録音は企業を攻撃するための道具ではありません。多くの学生にとって、それは判断材料をきちんと保存しておくための防衛手段に過ぎません。

就活は、人生を左右する大きな意思決定です。求人票は形として残っていますが、面接の内容は記憶頼りになることが多く、見返せない・証明できないことがしばしばあります。

応募者の視点での録音の目的

  • 企業の説明内容をあとから整理・再確認したい
  • 家族や知人に相談する際の参考にしたい
  • 「言った/言わない」のトラブルを未然に防ぎたい

これらは決して利己的な行為ではなく、むしろ誠実に検討したいからこその行動です。


「自分が録音するのはOK、されるのはNG」──企業のダブルスタンダード

もっとも皮肉なのは、企業自身が問い合わせ窓口などで「この通話は録音しています」と堂々と宣言していることです。

企業が録音を行う場面

  • カスタマー対応(クレーム対策)
  • 顧客との契約確認
  • 社内トラブルの証拠保存

これらはすべて、「何が言われたか」を記録することで、自社を守る行為です。

にもかかわらず、立場が逆になると「録音は常識外れ」と切り捨てる──この態度には明らかな矛盾があります。


「面接は非公開が前提」ではなく、「いつでも公開できる内容であるべき」

企業が「面接は非公開が前提」と主張するのは、自らの発言内容に自信がない裏返しです。

本来、面接とは以下のような姿勢で行われるべきです:

  • 応募者のプライバシーを除けば、どこに出しても恥ずかしくない内容
  • 労働条件やキャリアパスに誤解を生まない説明
  • 選考で落ちても「納得感」が得られる誠実な応対

録音を前提にしても問題のない面接こそが、企業にとっての信用の証になる時代です。


「口コミ社会」で可視化される企業の実態

近年は、食べログ・Googleレビュー・SNSなどを通じて、あらゆる企業活動が“評価対象”になっています。

  • レストランの接客
  • ECサイトの梱包や返信対応
  • 医療機関の受付や説明

それに比べれば、「面接」という職業人生を左右する場面が評価や共有の対象になるのはむしろ当然の流れです。

Voice Careerのようなサービスに違和感を持つ人もいるかもしれません。しかしそれは、就活版・口コミサイトが登場したに過ぎません。時代の変化であり、不可逆です。


表で見る:企業の主張と実態の矛盾

企業の主張(建前)現実との矛盾・反論
録音は信頼を損なう自分たちは問い合わせを録音している
面接の内容は非公開が前提本来どこに出しても恥ずかしくない内容であるべき
録音は非常識就活生にとっては合理的な自衛手段
録音を共有するのは問題すでに社会全体が口コミ社会に突入している
面接の発言は誤解されやすいだからこそ録音で正確に残すことに意味がある

録音文化は「信頼の敵」ではなく「信頼の鏡」

録音が広がる社会において、企業が取るべき姿勢は単純です。

「録音されても困らない面接を行うこと」こそが、信頼獲得の第一歩である。

面接は信頼の構築の場である以上、それが“記録に残る”ということを前提にしても揺るがない誠実さを持たねばなりません。


最終的な落としどころ──共にルールを設計する時代へ

とはいえ、録音文化はまだ新しいものであり、混乱も生まれやすいのは事実です。そのためには、極端な「録音禁止」でも「完全自由化」でもない、共通の設計とモラル共有が必要です。

今後の課題と提案

  • 企業は録音されても問題のない説明力・誠実さを鍛える
  • 就活生側も、録音の不正利用や不必要な晒し行為は慎む
  • 録音に関するルールを明示し、「録音OKだが共有は禁止」などのガイドラインを設ける
  • 音声内容を企業にフィードバックすることで、採用改善につなげる

こうした“新しい文化設計”に企業と応募者が共に関与することが、信頼される採用の第一歩となります。


結論:録音を恐れるのではなく、録音に耐えうる面接を

就職活動は情報戦でも心理戦でもありません。信頼の構築です。録音は、その信頼が真実かどうかを問う“鏡”にすぎません。

録音されるのが嫌なら、録音されても困らない姿勢に変えるしかない。それは、企業にとっても学生にとっても、未来に向けた成長の機会なのです。

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