

【はじめに】「AI社長」は、ただの相談役か?
「社長に気軽に相談できるAIを作りました」──そんなフレーズで報じられたのが、2025年7月に発表された三井住友フィナンシャルグループの「AI-CEO」だ。実在の社長・中島達氏の発言を学習したAIモデルが、行員3万人に対し“社長らしい”経営目線のアドバイスを提供する。
一見すると、これは「業務のサポート」や「気軽な相談相手」としてのAIに見える。しかし本質は違う。これはまさに──
社長の思想を全社に“自動配信”する支配装置であり、意思決定構造そのものの自動化・階層削減の始まりなのである。
突飛な発想だろうか?非現実的だろうか?
しかし、どれだけの人が、その可能性を否定できるのだろう?

第1章:社長の意思が全社員に直接届く時代
従来の組織構造はこうだった:
| 役割 | 主な機能 |
|---|---|
| 社長 | 方針・理念・最終意思決定 |
| 役員 | 方針の補佐・戦略判断 |
| 管理職 | 現場との調整・進捗管理 |
| 一般社員 | 実行と現場業務 |
このピラミッド構造を支えていたのは、情報の伝達と解釈である。
しかし、AI社長が登場するとどうなるか?
- 社長の考え方・判断傾向はAIにより24時間365日配信可能
- 誰もが直接、社長の脳内シミュレーターにアクセスできる
- 企画も相談も、経営目線での回答がその場で得られる
つまり──
“トップの意思”を仲介なく、全社員が即座に共有できる。
このとき、「ただ伝達・管理するだけの中間層」は明確に不要になる。
第2章:AIが“中間”を完全に吸収する構造
中間層の主要機能は以下の通りである:
- 調整
- 承認
- 報告
- 稟議
- 教育・指導
- 評価
これらの機能の大半は、すでにAI・自動化によって吸収可能だ。
| 機能 | 代替技術例 |
| 調整 | 自動ワークフロー、カレンダーAPI、チャットボット |
| 承認 | 稟議AI、意思決定支援ロジック |
| 報告 | 自動レポート生成、KPIダッシュボード |
| 評価 | 貢献度スコアリング、ログ解析 |
これらの代替が進めば、中間管理職は“業務の中継者”としての機能を失う。
もはや、必要なのは管理ではなく、「状況に意味を与える存在」だけである。
第3章:AI社長は「過去の成功」をなぞる存在にすぎない
ここで重要なのは、AI社長の限界である。
AI社長は優れた再現装置である。だがそれは、過去の意思・発言・判断に基づいた「最適な模倣者」でしかない。
社会や市場が静的な状況にあるなら、それでも十分かもしれない。
しかし現実は常に動いている──
- 市場ニーズの変化
- 技術革新
- 世代交代
- 競合の奇襲的戦略
こうした“前例のない変化”に対して、過去ベースのAI社長は原理的に対応できない。
ゆえに、その隙間を埋める存在が必要になる。つまり、未来の不確実性に意味を与える「人間の意思」である。
第4章:マーケットはAIではなく「人間」でできている
AIが戦略を立て、判断し、指示を出せるとしても、 その結果を受け取るのは──依然として**「人間」**である。
- 商品を買うのは人間
- サービスを使うのも人間
- ブランドに共感するのも人間
つまり、人間の感情・価値観・欲望に接続できなければ、AIによる最適化は“独りよがりの効率化”にすぎない。
この視点から見ても、マーケットに“意味”を通すためには、人間がAIの判断に「文脈」を与え続ける必要がある。
第5章:思考する人間だけが、AI時代に必要とされる
すでにAIによって、
- 書類作成
- レポート分析
- スケジュール調整
- メール返信
といった業務は広範囲に自動化されている。
この時代において、「考えることを放棄しない人間」こそが最大の差異であり、価値である。
彼らは、AIの提案に対して:
- なぜ今これなのか?
- 本当に今これでいいのか?
- この提案に人間的な説得力はあるのか?
という問いを立てることができる。つまり、AIに意味を与える存在。
それは管理者でも指揮官でもない。 “思考者”というまったく新しい中間存在である。
【まとめ】役職ではなく「意思」を持つ人間だけが残る
AI社長が導入され、管理業務がすべて自動化される未来。
その中で明らかになるのは、中間管理職も役員も「管理するだけなら不要」であるという事実。
これからの組織は、次の三層構造になる:
- トップ:思想・意思の源泉(創業者またはAI化)
- 中間:意味を問い、AIと対話し、判断を再設計する人間
- ボトム:AIに指示された作業を実行する人・自動化された業務群
この中で、人間として価値を持ち続けるには──
「考えることをやめない」こと。
思考をやめない人間だけが、AI時代に価値を示し続けられるのだ。
「AI社長」、気軽に相談を トップ目線で助言 三井住友FG(時事通信)