組織の中で“正しく目立つ人”を選別して、上手に使って評価しろ(2025.10.10)

序章:「目立つこと」が損になる組織

日本では古くから「出る杭は打たれる」と言われてきた。欧米にも類似の表現がある。「トールポピー症候群」──背が高く目立つポピーの花は刈り取られる、という慣用表現だ。いずれも共通しているのは、“目立つこと”が疎まれやすいということだ。

だが本来、目立つことそのものに罪はない。むしろ、組織の中で成果や価値を発揮し、自然と目立ってしまう人材こそ、本来最も評価されるべき存在である。問題は、「なぜ目立っているのか」「何で目立っているのか」という点だ。

ところが実際には、日本企業の多くはこの「目立つこと」の意味を取り違え、価値ある人材の芽を摘んでしまっている。本稿では、「目立つ人」の正体を可視化し、見抜くべき視点と、組織としての評価思想を掘り下げていく。

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第1章:「目立つ人」の分類と見落としの構造

企業における人材は、実力の有無と自己主張の有無によって、おおまかに4タイプに分類できる。

■人材の4象限マトリクス

実力・成果あり実力・成果なし
控えめ①謙虚な実力者③控えめな凡人
自己主張強め②自信ある実力者④口だけで目立つ人

このうち、②「自信ある実力者」と④「口だけで目立つ人」の2タイプが”目立つ人”とされやすい。だが、表面上は似て見えるこの2つのタイプは、組織への貢献度という観点ではまったく正反対の存在である。

  •  自信ある実力者:成果を発信し、周囲を動かす力を持つ。自己中心的な面を持ちながらも、組織に貢献するタイプ。
  •  口だけで目立つ人:実力も成果もなく、発言や演出で上司に取り入る。組織に害をもたらす。

にもかかわらず、多くの上司はこの両者の違いを見抜けず、時に後者を重用し、前者を排除するという判断ミスを犯す。ここに、日本企業における「人材の取り違え」が起こる根本原因がある。


第2章:なぜ“口だけで目立つ人”が評価され、“自信ある実力者”が去るのか

企業における評価は、本来「成果」「貢献」「誠実さ」に基づいて行われるべきである。しかし現実には、次のような“評価の歪み”が存在している。

  • 上司を否定しない人物が好まれる
  • 自分を持ち上げてくれる部下が安心感を与える
  • 見た目・話し方・印象での評価が先行する

これにより、“口だけで目立つ人”のような“上司に気に入られる力”を武器とする人材が過大評価され、“自信ある実力者”のような“正しいことを正しく言う”人材が煙たがられてしまう構造ができあがる。

“口だけで目立つ人”はさらに、自分と同じタイプを引き上げることで“イエスマンの連鎖”を生み出し、組織の劣化が静かに進行していく。ここに気づけなければ、企業はやがて“自信ある実力者”をすべて失うことになる。


第3章:“口だけで目立つ人”を見抜くための7つの視点

この章では、“目立つ人”とされる存在の中でも特に危険な“口だけで目立つ人”をどう見抜くかに焦点を当てる。

上司の前でだけ振る舞いが良い、発言だけは立派だが実行力がない、他人の手柄を横取りする──こうした人物が“実力者風”に見えて評価されてしまうのが、このタイプの典型だ。組織の中でこのタイプを見抜けるかどうかが、健全な組織運営の要になる。

以下の7つの視点は、そうした見抜きの指標となる。

■“口だけで目立つ人”を見抜く7つの視点

① 「成果」と「言葉」の整合性を確認する

“口だけで目立つ”タイプは常に“語り”が先行する。
「やります」「考えてます」「仕組み化します」と発言しますが、実行の痕跡が乏しい。
対して”自信ある実力者”タイプは、結果を淡々と報告する傾向がある。

✔ チェックポイント:

  • 発言と報告書・実績資料が一致しているか
  • 「やった証拠」より「やる宣言」が多くないか

② 他人の功績を“自分の成果”に置き換えていないか

“口だけで目立つ”タイプは、自分の存在感を保つために「功績の乗っ取り」を行う傾向がある。
報告時に「私が」「私のチームが」と言い換える傾向が強く、
功労者の名前を出さない・功績を自分のストーリーに吸収する。

✔ チェックポイント:

  • 他者の名前・貢献をどれだけ言及しているか
  • 成果の語り方が「自分中心」になっていないか

③ 失敗を語らない

“口だけで目立つ”タイプは、失敗や課題の話を避ける。
自己保身のため、あらゆる状況を「うまくいっているように見せる」ことを優先。
逆に”自信ある実力者”タイプは、課題や改善策を具体的に話せる。

✔ チェックポイント:

  • 「うまくいかなかったこと」を自発的に話せるか
  • 失敗を他責にしていないか

④ 批判よりも迎合を選ぶ

“口だけで目立つ”タイプは、上司に対して“異論を出さない”ことで居心地を確保する。
建設的な提案をせず、「そうですね」「おっしゃる通りです」で終わる。
これは一見「協調的」に見えて、実は組織を腐らせる沈黙である。

✔ チェックポイント:

  • 会議で上司に対する意見・提案がゼロではないか
  • 常に多数派・権力側に付いていないか

⑤ “問題の本質”ではなく“印象の演出”に熱心

“口だけで目立つ”タイプは、根本的な課題よりも「どう見えるか」に意識を向ける。
プレゼン資料は華やかでも中身が薄い、数字が伴わないなど。
彼らの努力は、結果を出すためではなく「結果を出しているように見せるため」に使われる。

✔ チェックポイント:

  • 成果説明が「抽象的な形容詞」中心になっていないか(例:「スピーディーに対応」「柔軟に調整」など)
  • 困難な場面で“見せ場”を作りたがらないか

⑥ 「誰を動かしたか」ではなく「誰に見せたか」で動く

“口だけで目立つ”タイプの行動原理は「影響力」ではなく「印象操作」である。
彼らは上司の前では完璧に振る舞うが、部下や現場では指示が曖昧、責任回避が多い。
上司のいない場での評判が悪いのが典型。

✔ チェックポイント:

  • “現場での信頼”と“上層部での評価”に乖離がないか
  • 「上司ウケ」は良いが「部下ウケ」は悪くないか

⑦ 数字と事実で話さない

“口だけで目立つ”タイプは曖昧な形容と印象論が多く、具体的な数字やエビデンスに弱い。
逆に”自信ある実力者”タイプは、定量的な裏付けを持って説明する傾向がある。

✔ チェックポイント:

  • 「どのくらい」「どんな効果があったか」を具体的に言えるか
  • データを語らずに「感覚」で済ませていないか

これらの観察項目を持たない上司が評価を誤り、有能な人材を潰してしまう。つまり「見る力のない上司」は、組織にとって極めて深刻なリスクであるということだ。

“口だけで目立つ”タイプの特徴を一言で言えば、「誠実さよりも演出を選ぶ人」である。
彼らの危険性は、組織の“成果”を汚すことではなく、「誠実な努力が報われない文化」を作ってしまうことにある。
その文化に嫌気が指し、有能な人材が離脱するようになると、組織の終わりが始まることになる。


第4章:「評価する力」を評価する──組織文化としての改革へ

“口だけで目立つ人”が増殖する組織では、“評価制度”だけでは修正できない。問題は評価の仕組みではなく、評価に対する組織の思想と哲学にある。

正しく誠実な人物を評価できない組織が、長期的に成果を出せるはずがない。だからこそ必要なのは、「見る力」を上司に求めるだけでなく、その“見る力”自体を上司の評価項目に組み込むことだ。

■企業がとるべき改革アプローチ

  • 上司が「誰を評価し、なぜそう評価したか」の視点を定期レビューに反映させる
  • 「上司を気持ちよくさせる人材」を重用していないかを、さらに上位層が点検する
  • 「評価する側の視点」に基準を設け、人物眼がない管理職は昇進させない
  • 評価の価値観を経営陣が明文化し、「こういう人材を評価する」と社内で共有する

評価とは“成績表”ではなく、“価値観の表明”である。その価値観が歪んでいれば、出世する人物も歪み、組織の文化も劣化する。

■誠実さを評価するという哲学

“自信ある実力者”が報われ、“口だけで目立つ人”が淘汰される組織にするためには、経営層の哲学的判断が不可欠だ。
誰を褒め、誰を登用するか。
そこに組織の未来は集約される。


結論:「目立つこと」こそ、正しく見抜かれなければならない

目立つことは罪ではない。罪なのは、その中身を見ようとしない評価者であり、“口だけで目立つ人”の虚像に安心してしまう上司であり、“自信ある実力者”を“扱いにくい”と遠ざけてしまう組織そのものである。

優秀な人材を潰し、演出だけの人物を出世させる組織に未来はない。
そして、この評価の思想を明文化し、実行できるかどうか──その覚悟と制度設計の責任は、最終的に経営陣にある。組織の評価のシステムを定義づけているのは経営陣だからだ。組織の下流の評価は、上流からの連鎖の結果に過ぎない。
だからこそ、今こそ問うべきなのは、「誰が正しく見抜いているか」ではなく、「その評価の目が、上から見えているかどうか」である。


職場で目立つと叩かれる「トールポピー症候群」、それでも挑戦を続けキャリアを築く方法(Forbes JAPAN