

序章|台湾にあって日本にないもの──“目的のある組織”
元記事にあるように、台湾の職場文化を語るとき、日本との大きな違いとして「会議の短さ」がある。
資料の読み合わせはない。情報はすでに手元にあるからだ。
議論し、決め、動く。決まったらすぐに終了する。
会議とは“意思決定の場”であり、それ以外の目的は存在しない。
採用も同じだ。
新卒一括採用も、同期文化も、年齢のしがらみもない。
企業は「どの役割が必要か」を起点にし、その役割に適合する能力を持つ人を採用する。
年齢も、雰囲気も、空気も、ほとんど判断に影響しない。
台湾の組織は、目的 → 最適な手段(人材・プロセス)という順番で動く。
だから速い。だから迷わない。
会議は短く、採用はまっすぐで、仕事は前に進む。
一方で日本は、採用も会議も“妙に遠回り”をする。
- 採用は「能力があっても、なんとなく不安だから」落とす
- 会議は「今日はここまで。では、各自持ち帰って次回」となる
- 評価は「若い / まだ早い / 和を乱さない」のような“空気の指標”が決める
目的が曖昧なまま、手段やプロセスだけが独り歩きしている。
そのひとつひとつの差は小さくても、全体として積み上がれば事業スピードの差は歴然である。
「台湾のほうが公平だ」「日本は遅い」と語られる背景には、能力でも気質でもなく、構造の違いがある。
では、その構造の違いとは何か。
台湾は「目的」を最重視している。
日本は「目的」を軽視している。
そしてこの“目的に対する態度”の違いが、採用、会議、評価、文化、スピード──
組織のすべての動きに影響を与えている。
本稿では、まず台湾の組織運営がなぜ速いのかを構造的に見ていく。
そして次に、日本企業がなぜ目的を失ったのかを明らかにする。
最後に、企業が“目的を取り戻す”ための実務的な人事設計について論じていく。

第1章|台湾は“目的 → 最適な手段”で組織が動いている
台湾の組織が速い理由は、仕組みではなく「順番」にある。
何かを決めるとき、採用するとき、動き出すとき。すべてにおいて、まず“目的”が最初に置かれる。
- 何のためにこの会議があるのか
- なぜこのポジションを採用するのか
- この人材がどの役割を担うのか
この順番が揃っていれば、意思決定は迷わない。
議論は進む。採用にもブレがない。だから、速い。
台湾の企業では、新卒採用という枠組みは存在しない。採用の軸は「その人がこの役割に必要な能力を持っているかどうか」。
年齢や経歴、学歴よりも、今この事業にとって必要かどうかで判断される。
会議も同様だ。台湾では、議論をして意見を出し、方向性を決めたら、即実行に移す。
資料の読み上げはない。発言しないことがマイナス評価になることすらある。「その場で決めて、終わる」から会議は短くて済む。
このように、
目的 → 最適な手段(人材・プロセス)
という構造が明確に共有されている社会では、無駄が生まれにくい。
■ 比較:台湾と日本の組織運営
| 観点 | 台湾 | 日本 |
|---|---|---|
| 採用 | 役割に必要な能力で選ぶ | 空気・雰囲気・印象で選ぶ |
| 会議 | 意思決定が目的、短時間 | 共有と納得が目的、長時間 |
| 評価 | 成果・責任・貢献度 | 年齢・社歴・同調性 |
| 意思決定 | その場で決める | 持ち帰って次回へ |
この違いが積み重なれば、当然ながら事業スピードに差が出る。
第2章|なぜ日本企業は“目的”を見失ったのか
日本の多くの組織は「目的が曖昧」なまま業務を行っている。もちろん、当期の売り上げ目標などは設定されるだろう。しかし、もっと企業が事業を成長させるには、「何の方向に向かっているのか」という方向づけが必要だ。
最大の要因は、かつて日本全体に共有されていた“国家的目的”の消失にある。
戦後の復興期──
企業も国民も「経済的に立ち上がること」が明確な目的だった。
高度経済成長期──
モノを作れば売れる。人を採れば育つ。
目的を細かく言語化しなくても、右肩上がりの成長がすべてを正当化してくれた。
バブル崩壊以降──
目的は消えた。だが、組織と手段だけが生き残った。
会議、報連相、終身雇用、新卒一括採用、研修、飲み会、上座下座……。
こうして日本は「目的よりも形式を守る文化」になった。
第3章|目的を失った組織が“空気採用”に陥るまで
目的がない採用は、必然的に「雰囲気」で判断されるようになる。
日本の採用現場でよく聞く言葉がある。
- 「素直そう」
- 「うちの社風に合いそう」
- 「なんとなく不安」
いずれも、目的や役割に基づいた評価ではない。空気を乱さない人材が重宝され、異を唱える人材は「扱いづらい」とされる。
会議も同じである。
本来は意思決定の場であるはずが、共有と確認と調整の場になり、結論が出ることは稀。
だから「持ち帰って、次回」ばかりが繰り返される。
日本特有の”ムラ文化”の名残もあるだろう。集団でまとまり、突出することを良しとしない、および失敗を過度に恐れる、だから、会議でも全体の合意形成を求める。自分たちの組織にフィット”させやすい”新卒を一括で採用する。
そうして出来上がるのは、“従順なだけで動かない組織”だ。
しかし、仕事の本質は太古の昔から変わらない。狩りの上手いハンターが評価されるべきだ。
その方法や、または役目は様々だが、結果として狩りが上手いことが重要で、それが最重要基準としてあるべきだ。そこに「若い」や「長年」の付属語は関係ない。
第4章|目的が曖昧な会社 vs 目的が明確な会社(比較表)
| 項目 | 目的が曖昧な会社 | 目的が明確な会社 |
|---|---|---|
| 組織の向き先 | 内向き(空気・同調) | 外向き(成果・顧客) |
| 採用 | 印象・雰囲気・若さ | 役割・責任・スキル |
| 会議 | 納得の共有 / 結論出ず | 意見 → 決定 → 行動 |
| 評価 | 在籍年数・忠誠度 | 成果・貢献・遂行度 |
| 文化 | 儀礼・沈黙・気遣い | 自律・発言・行動 |
| スピード | 遅い(決まらない) | 速い(すぐ決まる) |
この差が、外から見れば「台湾のほうが進んでいる」と感じさせる正体であり、実際に事業スピードの差として表出している。
目的が明確であるからこそ、やることもその手段も明確となり、最短距離を選択できるのだ。
第5章|目的を取り戻す人事──7つの設計視点
では、どうすれば目的を取り戻せるのか?
キーワードは目的 → 最適な手段(人材・プロセス)の順序を再構築することにある。
■ 何を意識すべきか(設計ポイント表)
| 観点 | 意識すべきポイント | なぜ重要か |
|---|---|---|
| 事業の目的 | 言語化し、社内共有する | 判断軸が統一され、採用と評価が連動する |
| 提供価値 | 一文で説明できる状態に | 他社との差別化・判断の基軸になる |
| 役割定義 | 責任単位で定義する | 採用と評価の基準を明確化できる |
| 採用基準 | 空気・印象から脱却 | 再現性のある判断が可能になる |
| 評価基準 | 成果 × 貢献 × 責任 | 感情や社内力学に流されなくなる |
| 会議目的 | 「何を決めるか」を明示 | 時間と行動が結びつくようになる |
| 言語化文化 | 「なんとなく」を排除する | 組織の再現性と持続性が高まる |
これらは単なる制度設計ではなく、組織文化の再設計である。
終章|目的が明確になれば、行動も明確になる。
目的を見失ったままでは、組織も人も動けない。
役割が曖昧なままでは、成果は出ない。
空気で判断していれば、優秀な人材から先に離れていく。
企業が“最適な行動をする”ために必要なのは、目的を取り戻すことである。組織全体で共有できていることである。
その目的を、全員が言葉で語れたとき、採用は変わる。会議も変わる。組織も動き出す。行動が変わるのだ。
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