優秀なプレーヤーがマネジメント強者ではない理由(2025.11.5)

第1章|なぜ「優秀な人ほど管理職で失敗する」のか

日本企業では、長年にわたり「仕事ができる人=管理職に昇格させるべき」という構造が繰り返されてきた。これは実力主義のように見えて、実際には極めてリスクの高い人事配置である。

なぜなら、マネジメントとはまったく別の職能だからだ。

個人として成果を出す力(プレイヤーとしての戦闘力)と、チーム全体を束ね、成果の総量を最大化する力(マネージャーとしての統率力)は、まったく異なる資質を必要とする。

プレイヤー型人材が失敗する理由は、次のように整理できる:

項目プレイヤー型マネージャー型
成果の出し方自分がやる人にやらせて育てる
重視するもの精度・速度再現性・成長曲線
仕事の本質完成させること完成できる組織をつくること
使う資源自分チーム全員

この違いを無視し、「成果を出してきたから」という理由だけで管理職に据えると、組織は破綻する。
マネジメントとは“別の仕事”である──この前提を再確認しなければならない。

講座バナー

第2章|4象限マトリクスで見るマネジメント適性

ここでマネジメント適性を整理するために、以下の4象限マトリクスを提示する:

部下を許容できる部下を許容できない
仕事ができる① 還元型マネージャー(理想型)③ 単独強者型マネージャー(短期成果型)
仕事ができない② チームビルダー型マネージャー(持続可能型)④ 不適任マネージャー(配置ミス)

このマトリクスで重要なのは、「仕事ができるかどうか」ではなく、「部下を許容できるかどうか」が評価軸である点だ。
特に②チームビルダー型と③単独強者型は優劣の問題ではなく、価値観と役割の違いである。③単独強者型は高い成果を一気に出す爆発力があるが、再現性や持続性に乏しく、④不適任型は組織全体を壊すリスクが高い。

各象限の詳細は以下の通り:

■ 各象限の特徴と組織への影響

① 還元型マネージャー(理想型)

  • 自分の成功プロセスを言語化できる
  • 他者の成長速度の差を理解できる
  • 自分の「型」を土台に、チームの型を発展させられる → 再現性のある強い組織をつくる

これは、最も希少で、最も価値が高い。

② チームビルダー型マネージャー(持続可能型)

  • 弱さを知っているから、他者の弱さに寄り添える
  • 「できない」ことを認められるから、チームを信用できる
  • 補完構造・相互サポート設計が育つ → 持続可能で安定したチームをつくる

これは、“人間の器”を基盤にしたリーダーシップであり、組織が長く機能するために不可欠な存在。

③ 単独強者型マネージャー(短期成果型)

  • 自己流の最適解が強すぎる
  • “できない人”を切り捨てる方向へ向かいやすい
  • カリスマ・軍隊型・体育会的マネジメント → 脱落者等犠牲が出るが、適性があれば伸び率は飛躍的に高い

オフェンス力は爆発するが、脱落者も生む。

④ 不適任マネージャー(配置ミス)

  • 低スキル × 低包容力 → 組織が壊れる
  • 指示は曖昧、怒りだけ明確、責任は転嫁 → マネージャーとして存在させてはいけない

これは“役職の事故”であり、人事業務の怠慢である。


第3章|マネジメントの本質は成果の最大化である

マネージャーの仕事は「チームの総成果を最大化すること」であり、「自分の成果」ではない。
いくら自分が成果を出しても、チームが弱体化していれば意味がない。そこが個人として「できる人」というだけではマネージャー適正が無いことの一番の理由である。

強いチームとは、次のような性質を持つ:

  • 成果の再現性がある
  • 成果の持続性がある
  • メンバーが成長する

この3つを成立させるためには、「強さの分配」が不可欠である。
強さの分配は、持続的な成果を生むための“最も成功確率の高いアプローチ”であり、チームとして成果を挙げることを目的とした戦略的合理性である。


第4章|②チームビルダー型の“弱点”は、マネジメントのストロングポイントになる

② チームビルダー型マネージャーは、①還元型や③単独強者型タイプと比較して、プレイヤーとしてのパフォーマンスは高くない。
しかし、その“できなかった経験”が強みになる。

  • 迷いや行き詰まりを察知できる
  • 他者に無理をさせない構造を作る
  • 補完・分担の設計ができる

② チームビルダー型は、チームに目を配り、各々のストロングポイントと弱点を確認し、チームを構成し、弱点については自分の経験から、または他の部下の能力を頼り、チームを構成する。
チームを「同じことを皆でやる場」ではなく、「異なる強みを補完しあうシステム」として設計できる。
自分の「プレーヤー能力」だけに頼らず、部下の「プレーヤー能力」に頼る。これは、マネジメントにおける極めて高度なスキルである。


第5章|③ 単独強者型マネージャーの“鋭い力”と扱い方

③ 単独強者型マネージャーは、圧倒的な突破力を持つ。指示は明確で早く、成果も出る。
だが問題は、「脱落者」が生まれる点にある。組織として円滑な運営はしにくい。

  • 自分の型を強制し、ゆとりはない
  • 合わない人を排除する
  • 標準化や再現性しかない

②のチームビルダー型と、明確な甲乙をつけるのは難しい。局面において毒にもなり、または強力なカンフル剤にもなる。
この型は、全員に適用することはできない。
正しい扱い方は「武器として使う」ことである。

  • 短期プロジェクトの先陣
  • 難易度の高い改革の突破口
  • チーム全体の基準値引き上げ

つまり、本来この単独強者型はマネージャーには向いていない。「推進力」として、チーム内または組織内に正しく配置すべきである。
ただし、局面においては超攻撃型マネージャーとして、精鋭をまとめさせることも選択肢のひとつとして有効だ。


第6章|組織は「②を厚くし、①へ育てる」ことで強くなる

最終的に、安定的かつ持続可能性を持つ強い組織をつくるための鉄則は次の通りである:

  • ② チームビルダー型マネージャーを厚く採用・育成する
  • ① 還元型マネージャーへと成長させる
  • ③ 単独強者型マネージャーは適所に配置する
  • ④ 不適任マネージャーは絶対に登用しない

これが組織カルチャー設計の基盤である。

区分核となる力生み出す組織文化
① 還元型マネージャー経験 × 包容力 × 言語化成長・再現性・強さ
② チームビルダー型マネージャー人間的魅力 × 信頼安定・安全性・持続性
③ 単独強者型マネージャー才能 × 圧力高速・高負荷・不均衡
④ 不適任マネージャー無理解 × 感情的支配崩壊・疲弊・退職連鎖

結語|マネジメントとは、チーム力の最大化である

組織での仕事において、個人が強いことに価値があるのではない。その強さを分配し、全体の基準値を引き上げられることに価値がある。

組織が生き残るのは、“強い個”がいるからではない。
“強いチーム”があるからだ。
── だからこそ、マネジメントはプレーヤーとは「別の仕事」なのだ。


社員として超優秀でも、管理職には向かない人の特徴とは?(ダイヤモンド・オンライン