企業は「人事」と「採用」の効率化幻想を棄てるべきだ(2026.6.9)

序章|5秒で読んで捨てる傲慢

元記事の中で、元リクルート人事の丸山貴宏氏が語っている。

「人事が1通の職務経歴書を見る時間はわずか5〜10秒。1週間で500通が届く中で、ぱっと見ただけで終わるものも多い」
「人事に「会いたい」と思わせる職務経歴書は「数字」による表現に尽きる

この話は求職者へのアドバイスとして書かれている。
しかし本質はそこではない。
これは採用テクニックの問題ではなく、採用を軽視する会社側の根本的な姿勢の問題である。

当時のリクルートであれば或いはまかり通っていたのかもしれないが、現在は忙しいから、効率が大事だから、という言い訳で人事や採用をインスタントに済ませる時代ではない。
採用こそが組織の最重要ミッションであり、他の業務からリソースを割いてでも手間暇を尽くすべきものである。
現在において、丸山氏の言葉に違和感を覚えた人は少なくないはずだ。

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第1章当時の採用は乱痴気パーティー

当の丸山氏は1963年生まれ、1986年にリクルートに入社し、1993年に独立しているそうだ。
リクルートにおいて、人事採用の実務を担い、「5秒で職務経歴書で落として」いたのは、バブル最盛期ということになる。

バブル時代、採用現場はまさに乱痴気パーティーだった。
内定者には海外旅行や豪華国内旅行をプレゼントし、車を贈る企業も珍しくなく、高級レストランでの接待が日常茶飯事。
とにかく人数さえ揃えば誰でも良いという、浮かれた狂乱の環境だった。

そんな時代に闊歩していた「5秒ジャッジ+数字重視」の手法が、現代において通用するだろうか?
そのような採用活動の元、バブル期に大量採用された世代が現在、お荷物化して問題視されている現実を見れば、当時の手法の限界は明白だ。
或いは、職務経歴書という点からも、その当時の中途採用についての論かもしれない。しかしそうだとしても、現在では通用しないことには変わりはない。

AIが活用され、人手不足が叫ばれる現代とはそもそも環境が根本的に異なっているのだ。
そのような極めて「古臭い」成功体験を、メディアで「正しい採用論」として世間に振りまく行為は、無責任極まりない。
もちろん、メディア側の同罪だ。

企業はこうした「いにしえの話」を真に受けてはいけない。


第2章現リクルートの採用を「数字」で見てみる

現在のリクルートの採用活動はどうなのだろうか。公式サイトに以下のようなデータが掲載されていた。

FY2024 採用活動規模

項目実績
従業員総数20,212人
平均年齢34歳
採用活動に関わる社員数約1,830人
従業員に占める採用関与率約9.1%
部長級の採用関与者数約390人
課長級の採用関与者数約980人
役員級の採用関与者数約10人
面接以外の候補者接点時間約4,900時間

現リクルートは採用活動に関わる社員数を約2000人の規模で投入している。従業員に占める採用関与率は9%。
これは丸山氏が経験した「5秒ジャッジ」時代とは異なるのだろう。

次に、日本の代表的企業の社員データを見てみよう。

主要企業の平均年齢・平均勤続年数比較(2025年時点)

企業平均年齢採用姿勢の特徴
リクルート34歳流動型・新陳代謝前提
トヨタ自動車40.7歳長期雇用・安定型
ソニーグループ42〜43歳技術系定着志向
パナソニックHD44歳伝統的長期雇用
キーエンス35〜36歳若手成果主義

リクルートの社員平均年齢は34歳ということからも、「人が残らない組織」であることが見て取れる。
公式サイトにおいても、「卒業者(退職者)の独立・起業比率」として、例年15%前後の推移をしているデータを敢えて掲載している。つまり、人を入れ替える新陳代謝で成り立っている会社だと言えよう。
また、求職者側も、退職後を見据えて就職しているということだろう。

伝統的大企業が長期雇用を前提に「人は城」を目指す姿勢と比べると、採用に対する企業哲学の違いがはっきりと浮かび上がる。
しかしそのリクルートですら、過去とは違う採用アプローチを取っている今、40年前の「5秒ジャッジ」自慢はますます時代遅れと言わざるを得ない。


第3章採用は組織の最重要ミッション

採用を「コストセンター」「単なる効率化対象」と見なす企業は、根本から間違っている。
秒で判断するという行為そのものが、稚拙で不真面目なのだ。

武田信玄の言葉 「人は城、人は石垣、人は堀」は、現代でも極めて重い意味を持つ。
組織の強さは人で決まる。
優秀な人材は効率だけでは出会うことができないのだ。

劉備玄徳諸葛亮孔明を迎えるために三度も草庵を訪れた三顧の礼。
豊臣秀吉が軍師 竹中半兵衛に尽くした三顧の礼。
石田三成島左近を迎え入れるために自身の所領の半分を譲った逸話――これらは「手間と条件を惜しまない姿勢」を示すものである。

「この会社は本気で自分を大事にしてくれる」と感じて初めて、優秀な人材のエンゲージメントを生むことができる。そして、そのような人材はそれこそ一騎当千の働きをすることもある。
逆に10秒判断の会社に集まる人材は、条件だけで動く層が中心となり、真の忠誠心や創造性は期待しにくい。

つまり、採用に手間暇を惜しむ企業は、結局自らの競争力を削いでいるということだ。
他の業務にリソースを割く余裕はあるのに、採用だけケチる姿勢は、組織として本末転倒であると指摘しておこう。


第4章数字は学歴と同じだ

誤解のないように言及しておきたいが、実績の数字が無駄だと言っているのではない。
数字はあるに越したことはない。一定の能力を担保している。それは学歴と同じだ。
しかし万能ではない。あくまで一情報に過ぎないものだ。

達成率や売上数字は、主観的であり、属性や環境に大きく左右される。
所属していた会社ブランド、市場環境、チーム規模、与えられたリソースによって、同じ数字の意味は全く変わる。
例えば、キーエンスで入社2年目に売上1億円を達成した人と、起業して5年目に1億円を達成した人では、バックグラウンドも強みも全く異なる。
キーエンスというブランドや、すでに切り開かれている販路において1億円を稼ぎ出すのと、起業をして全く何も信用が無い状態から1億円を売り上げることでは、難易度において比べるまでもない。
また、特にスタッフ職や専門職、クリエイティブ職では、数字に表れにくい貢献こそが本質である場合が多い。

「数字の記載が無ければ5秒で落とす」などという判断基準は、まるで【インスタ映え】を競うような浅はかさそのものだ。
プロセスでの工夫、組織への影響力、人間性、価値観の適合――こうした要素を無視した採用は、組織の多様性と潜在力を自ら殺す行為である。
数字の主張ばかりを過信する採用は、結局薄っぺらい人材ばかりを集め、長期的な組織力の低下を招いていく。


第5章AI時代にこそ問われる企業側の「採用の哲学」

AIは採用においても強力なツールだ。人力の数千分の一の手間で、応募者から最大限の情報を集め、多角的に分析・スクリーニングできる。
AI面接やAIチャット面接を活用すれば24時間365日、職務経歴書だけでは見えない価値観の深掘りや具体的なエピソードを引き出すことができる。

しかしプロンプトに「数字が〜」などと浅はかな基準を設定すれば、すべてが台無しになる。
せっかく優秀なAIを単なる「高速版5秒判断機」に堕とす企業は、過去の愚かさをデジタル化しているだけだ。

AIを使って効率化が進んだ分、人事担当者はより多くの人材の情報に目を通すことができるようになる。
人事においてのAI利用の意味は、工数を減らしてその分精度を上げることが目的でなければならない。
採用担当者はまず自社が求める人材像を明確に言語化し、それを基にしたソート基準で大量のデータを整理し、該当する人材をピックアップする。
AIスクリーニングの有効性は正にここにある。
少なくとも5秒ジャッジなどよりも、応募者側も「しっかり見てくれた」と納得し、企業側もより精度の高い判断が可能になる。
つまり5秒判断信奉の人事担当者よりも、AIで丁寧に見極める企業のほうがよほど有意義であり、応募者からも信頼されるということだ。


第6章AIはあくまでツール、人事は人で為す

あくまでAIは材料を集めるためのツールに過ぎない。
最終的な採用可否は、人間が責任を持って行うべきだ。
AIで一次情報を厚く集めた上で、人間が深く掘り下げ、説明可能な判断を下す――これが理想の採用プロセスである。

履歴書や職務経歴書には、応募者のキャリア情報と「自社への就職したいメッセージ」が詰まっている。
それらを「書いてる/書いてない」といった上っ面な情報だけで切り捨てるなど勿体ない。

多くは、それまでに成したことが記載されているだろう。それがゼロイチであれば、数字に表せるようなことではないかもしれない。
むしろ、数字的には失敗の類の可能性もある。或いは会社都合でストップになった事業かもしれない。
そのような試行錯誤を聞き、自社にフィットするかどうかを見極めることこそが採用の面白さであり、組織の新たな成長の源泉である。
他社の失敗=自社の失敗ではないからだ。

AI時代になっても、最後は「人で為す」姿勢が問われる。
少なくとも「人を見る努力」を放棄しない企業こそが、優秀な人材を引き寄せる。


終章手間暇を惜しまない企業だけが生き残る

最後にもう一度言う。企業の採用担当者は、「5秒判断論」を真に受けてはならない。
それは表面的で、そして古臭い方法論だ。現代においては、効率を求めるだけでは人事は行えない。

しかしそれでも可能な限りは効率化を利用する。それがAIだ。
但し、AI時代になっても、採用の質を決めるのは道具ではなく企業側の哲学である。

手間暇を惜しまず、三顧の礼の精神で人材を採用する企業が、本物のエンゲージメントと競争力を手に入れることができる。
インスタントでは無い、人に重きを置く会社だけが、真に強い組織になる。
採用に本気で投資する姿勢こそが、現代の経営における最大の差別化要因なのだ。

企業は今の時代でこそ、古い効率化の幻想を捨て、手間暇を尽くす採用の本道に戻るべきだ。


元記事:そりゃ不採用になるわ…人事が5秒で読むのをやめる職務経歴書に〈書かれていない〉こと(ダイヤモンド・オンライン