人材はまず内から探せ──企業が整えるべき『社内スカウト制度』という発想(2025.8.1)

【序章】採用という言葉に埋め込まれた「外向き」の常識

「採用」と聞いて、まずどこに目が向くだろうか。
多くの企業では、人材が必要になったとき、すぐに求人票を出し、エージェントに依頼し、外部の応募者に目を向ける──という行動がごく自然に行われている。

だが本当にそれが、企業にとって最善の順序だろうか。

近年、変化の兆しは確かに表れている。たとえば中外製薬のように、従来の会社主導の異動からジョブポスティング制度へと舵を切る企業も出てきた。社員が手を挙げ、自らの意思でキャリアを形成していく動きは、年功序列に支配されてきた日本型人事の転換として高く評価されるべきだ。

しかし、これはまだ「入口」にすぎない。

本稿で取り上げたいのは、さらに一歩進んだ形──
社員を“指名”して口説く、「社内スカウト制度」である。

具体的には、会社として、スカウト用の人材データベースを整えた上で、自部署にフィットする人材を積極的にスカウトしていく、という制度となる。
現在、一部の企業では既に導入が始まっているが、制度として確立・一般化しているとは言い難い。しかし、実はこの制度こそが、企業の人材活用における“抜け落ちたピース”を埋める存在となる可能性を秘めている。

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【第1章】組織はチームだ──スポーツに学ぶ配置戦略

人材活用のヒントは、意外にもスポーツの世界にある。

試合で必要なポジションが生じたとき、まず監督が考えるのは「いまのチーム内で誰が埋められるか」だ。
既存の選手のコンバート(ポジション変更)、役割の再定義、戦術調整、セカンドチームからの昇格──そうした“内からの工夫”を経てなお補えないとき、ようやく外部補強が選択肢となる。

これこそが人材戦略の本質的な順序原理である。

企業も同じだ。まずは今いる社員の中で埋められないかを考え、適任者がいればスカウトする。そこから足りない部分を外部採用で補う。「まず社内」こそが原則であり、「外部」は最後の手段であるべきだ。

バルセロナ型フィロソフィーと“内製主義”

この構造を象徴するのが、かつてのFCバルセロナである。

彼らの特徴は、独特な戦術スタイル──「ティキタカ」にあった。
このスタイルに染まり、理解し、身体化できる選手は、外から連れてくることが極めて困難だった。だからこそ、彼らはカンテラ(下部組織)で若手を育て、内部から登用していく構造を築き上げていた。

外から補強した選手が馴染めないことも多かった。
それは単に技術の問題ではなく、「文脈の理解」の欠如──すなわち組織文化と戦術哲学の違和感に起因していた。

企業にも、同じような現象はないだろうか。

  • 優秀な人材を外から採ったはずが、なぜか活躍できない
  • 前職では高評価だったのに、社内では浮いてしまう
  • 周囲との連携がうまく取れない

そうした“カルチャー・アンマッチ”こそが、内部人材の有効活用が最も合理的である理由のひとつなのである。


【第2章】社内スカウト制度の本質的なメリット

では、「社内スカウト制度」は具体的にどのような価値をもたらすのか。

① カルチャーフィットの確実性

  • すでに会社の文化や空気を理解している人材だから、馴染むまでの“立ち上げコスト”が不要。

② 即戦力かつ低リスク

  • 社内ルール、業務フロー、情報インフラに精通しているため、業務立ち上げが早い。
  • 履歴書や面接では見えない実績や性格も社内なら共有されている。

③ 離職回避──「辞めたいわけじゃない、合わないだけ」

  • 部署の雰囲気や上司との相性が合わないだけで辞めてしまう“惜しい離職”を回避できる。

④ 組織の流動性と活性化

  • 成熟部門から成長部門へ、緩慢な人材移動ではなく、戦略的スライドが可能になる。

⑤ 公平な競争と条件改善

  • 「社内でも条件交渉はありえる」という認識が生まれれば、社員のモチベーションが飛躍的に高まる。

【第3章】ただの理想論ではない──社内スカウト制度の課題

とはいえ、制度の導入には当然リスクもある。以下に、代表的な懸念を挙げておこう。

リスク説明
人材偏在人気部署ばかりに応募・スカウトが集中し、地味な基幹業務が人手不足になる
不透明感スカウトは恣意的な性格を持つため、「えこひいき」や「出来レース」と受け取られがち
引き留め干渉現場の上司が、優秀な部下の異動に反対・妨害するケース
評価制度との摩擦スカウトでの条件交渉が現行人事制度と整合しないと、不満が噴出する
孤立・期待過多異動後、周囲との関係構築ができず孤立したり、過剰な期待で苦しむ人もいる

【第4章】社内にこそ“競争”を──不人気部門は条件で報いよ

「人気部署ばかり人が集まるのは不公平だ」──そう感じる向きもあるかもしれない。だが本質はそこではない。
むしろ、企業は人気のない仕事・部署に対して、報酬や裁量といった条件で“報いる構造”を持つべきだ。

現在の構造:

「全体で我慢しよう」「昇給は横並び」「上に行かないと報われない」

あるべき構造:

「必要な仕事に、相応の条件を」
「責任・困難性に応じて報酬が変わる」
「社内でも条件交渉がある」

これが実現すれば、部署間に健全な競争が生まれ、自然と社内インフレが起こる。
企業が一方的に利益を溜め込む構造から、社員に適切に分配される構造へのシフトだ。


【第5章】それでも足りないなら──外部採用は“最後の一手”

社内であらゆる手を尽くしたが、それでも戦力が足りない。
そんなときこそ、初めて「外部採用」が選択肢として浮上する

  • 外部人材にはリスクがある。文化の違い、定着の難しさ、期待との乖離…
  • だからこそ、本当に必要な役割にのみ、慎重かつ大胆に迎え入れるべき

「まず内から探せ」──この順番を守るだけで、人材活用の質は大きく変わる。


【結語】人材戦略に“順番”を取り戻せ

人材活用の問題は、しばしば「制度がないから」ではなく、「順番を間違えるから」失敗する。

社内に人がいるのに外から採る
人が余っているのに活かさない
辞める理由を聞かず、また同じような人を募集する

企業が、人材を本当に“戦略資源”として扱うならば、最初にやるべきことはひとつだ。

社内を見よ。探せ。口説け。動かせ。

社内スカウト制度──
それは制度の名前ではなく、企業の“姿勢”そのものなのかもしれない。


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