

人材不足という言い訳が許されない時代へ
「人が足りない」。 このフレーズは、あらゆる業界・地域で共通する企業の嘆きとなって久しい。建設、介護、運輸、飲食、小売──どこもかしこも「求人を出しても人が来ない」「応募がゼロだった」という声であふれている。
だが、それは本当に「人が足りない」からなのだろうか?
結論から言えば、人が足りないのではない。人が来たくなるような職場を作れていないだけである。

「3Kでも来てほしい」はもはや通用しない
特に深刻なのは、いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」業種だ。これらの職場に人が集まりにくいことは、30年以上前からわかっていた。それにもかかわらず、多くの企業は“3Kのまま”変わろうとしなかった。
給料を上げればいい?
人間関係をよくすればいい?
そんな小手先の改善では限界がある。 なぜなら、現代の労働者は「環境の悪い場所で高給を得る」よりも、「心身が健康に保てる場所で適正な対価を得る」ことを重視しているからだ。
「人材確保」とは、報酬だけの話ではない
人が集まらない最大の理由は、「自分が大切にされない」と感じる職場が多すぎるからだ。
- 消耗品の購入が自己負担
- 残業が常態化
- 教育制度が整っていない
- 評価が曖昧
- 危険を放置したままの現場
このような環境では、たとえ給料が少し上がっても、「行きたい」と思える職場にはならない。
一方で、「新しい福利厚生」「成長を実感できる仕組み」「仲間としての信頼」が感じられる職場には、自然と人が集まる。 労働者は報酬だけで動く“労働力”ではなく、自分の人生を託す“キャリアの主人公”なのだ。
新潟に見る好例:「マッチョ採用」は何がすごいのか
例えば、新潟のある建設会社では、若者の心を動かす工夫が行われている。 「マッチョ採用」と名付けられた施策では、体を鍛えるトレーニングルームの設置やプロテインの支給など、職場を“かっこよくて前向きな場”として再設計している。
- トレーニングルーム → ケガ予防・健康維持
- プロテイン支給 → 福利厚生の一環として「筋トレ文化」を肯定
- 工具・安全靴支給 → 自己負担軽減による心理的安心
これは単なるユニーク施策ではない。 3Kの職場を、「身体を活かすポジティブな場」として再定義した本質的な取り組みだ。
こうした企業は、「待遇で釣る」のではなく、「理念で共感を得る」ことに成功している。
外国人を“代替労働力”として使うという間違い
では、なぜここまで“日本人が来ない”という現象が蔓延しているのか? その裏で取られてきた対応が、「外国人を入れる」という策である。
だが、これは完全に本末転倒だ。 外国人労働者は“埋め合わせ”ではなく、“活用”されるべき存在であり、そもそも“安く・過酷に・文句を言わず働いてくれる存在”として扱うのは、搾取に他ならない。
プロスポーツを見れば分かる。 Jリーグやプロ野球で外国人選手を入れるのは、「足りないから」ではない。「そのポジションに彼しかいない能力があるから」だ。
つまり、外国人活用の本来の目的は“補完”であり、“代替”ではない。
技能実習制度の限界──「育てる」と「使い潰す」の違い
これまで日本は、「技能実習制度」という名の下に、事実上の低賃金外国人労働力を使ってきた。しかし現場では、
- 長時間労働
- 本来の研修とは無関係の作業
- 劣悪な住環境
といった問題が多発し、人権問題として国際的に批判される事例も多い。 しかも、外国人は数年後には帰国してしまう。「育てる」ことも「定着させる」こともできない制度なのだ。
真の解決策は「人に頼らない仕組み」の構築
こうした行き詰まりの中で、本当に必要なのは「人手を増やす」ことではなく、「人に頼らずとも業務が回る仕組みを作ること」である。
その中心にあるのが、
- IT化
- 省力化
- 自動化
といった構造的改革である。
| 業務の性質 | 従来の発想 | これからの発想 |
|---|---|---|
| 誰でもできる単純労働 | 人海戦術・低賃金 | 自動化・省人化 |
| 熟練・専門スキルが必要 | とにかく我慢させる | 高待遇で選抜雇用 |
| 外国人労働 | 安く使える便利屋 | 専門性を評価した戦力 |
これにより「人を集める経営」から「人に依存しない設計」への移行が可能になる。
「補助金を活用して人材不足から脱却する」という選択肢
現在、日本政府や地方自治体は、人材不足対策としてIT化・業務効率化のための補助金制度を多数用意している。
たとえば:
- 勤怠管理や給与計算の自動化
- 在庫管理のIoT化
- 顧客対応のチャットボット化
- 遠隔監視やセンサーによる安全管理の導入
| 補助金制度の例 | 対象となる主な領域 |
| IT導入補助金 | 労務・勤怠・受発注・帳票などの自動化 |
| ものづくり補助金 | 生産性向上のための設備投資・プロセス改善 |
| 業務改善助成金 | 最低賃金引き上げに伴う生産性向上の取り組み |
| 小規模事業者持続化補助金 | 販路開拓や業務効率化への支援 |
これらを導入することで、人を増やさずに業務を回せる現場が確実に増えている。
しかも、導入時には公的支援が使える。にもかかわらず、「補助金は難しそう」「面倒だ」と敬遠して何もしない企業が後を絶たない。
企業の“本質”は、収益の使い方に表れる
ここで問われるのは、企業が利益をどう使うかという哲学だ。
単に報酬を分配するか
未来のために設備投資や人材投資をするか
経営者自身がリスクを取って変革を行うか
収益は「企業と従業員の報酬で按分するもの」ではあるが、その中で“職場の進化”に予算を振れるかどうかが、経営の優劣を分ける。
一方で、「利益は増やす」「人件費は抑える」「外国人を使えば安上がり」という旧来の発想では、確実に人も信頼も集まらなくなる。
経営者が変わらなければ、何も変わらない
ここまでの議論を総括すれば、問題の本質は「労働力が足りない」ことではない。 「経営者が変わろうとしていない」ことにある。
- 業務設計を見直す
- IT化を導入する
- 労働者の視点で現場を改善する
- 外国人労働者を適正に処遇する
- 「誰も来たくない仕事」を「誰かが選びたくなる仕事」にする
これらの責任はすべて、経営者にある。
結論:人材不足は構造の問題であり、解決の鍵は「変わる経営者」にある
いま、社会は確実に「見る目」を持ちはじめている。
- 労働搾取をする企業は、SNSで暴かれ、
- ハローワークでも求人が敬遠され、
- 若者からも「絶対に行きたくない」と言われ、
- 外国人からも「帰国後に悪評を広められる」ようになった
つまり、労働力を舐めた経営は、確実に滅びる時代になったということだ。
逆にいえば、人材を大切にし、構造を変える努力を続ける企業こそが、選ばれる時代でもある。
- 自動化できる業務は自動化する
- 必要な人材には誇りと報酬、環境を与える
- 補助金など制度を活用し、構造転換を行う
- 共に働くパートナーとして迎える
──それが、「人材不足時代」を生き延びる戦略である。
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