経営者の危機感とアイデアが変わらなければ給料を上げても人材は集まらない(2025.7.28)

人材不足という言い訳が許されない時代へ

「人が足りない」。 このフレーズは、あらゆる業界・地域で共通する企業の嘆きとなって久しい。建設、介護、運輸、飲食、小売──どこもかしこも「求人を出しても人が来ない」「応募がゼロだった」という声であふれている。

だが、それは本当に「人が足りない」からなのだろうか?

結論から言えば、人が足りないのではない。人が来たくなるような職場を作れていないだけである。

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「3Kでも来てほしい」はもはや通用しない

特に深刻なのは、いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」業種だ。これらの職場に人が集まりにくいことは、30年以上前からわかっていた。それにもかかわらず、多くの企業は“3Kのまま”変わろうとしなかった。

給料を上げればいい?
人間関係をよくすればいい?

そんな小手先の改善では限界がある。 なぜなら、現代の労働者は「環境の悪い場所で高給を得る」よりも、「心身が健康に保てる場所で適正な対価を得る」ことを重視しているからだ。


「人材確保」とは、報酬だけの話ではない

人が集まらない最大の理由は、「自分が大切にされない」と感じる職場が多すぎるからだ。

  • 消耗品の購入が自己負担
  • 残業が常態化
  • 教育制度が整っていない
  • 評価が曖昧
  • 危険を放置したままの現場

このような環境では、たとえ給料が少し上がっても、「行きたい」と思える職場にはならない。

一方で、「新しい福利厚生」「成長を実感できる仕組み」「仲間としての信頼」が感じられる職場には、自然と人が集まる。 労働者は報酬だけで動く“労働力”ではなく、自分の人生を託す“キャリアの主人公”なのだ。


新潟に見る好例:「マッチョ採用」は何がすごいのか

例えば、新潟のある建設会社では、若者の心を動かす工夫が行われている。 「マッチョ採用」と名付けられた施策では、体を鍛えるトレーニングルームの設置やプロテインの支給など、職場を“かっこよくて前向きな場”として再設計している。

  • トレーニングルーム → ケガ予防・健康維持
  • プロテイン支給 → 福利厚生の一環として「筋トレ文化」を肯定
  • 工具・安全靴支給 → 自己負担軽減による心理的安心

これは単なるユニーク施策ではない。 3Kの職場を、「身体を活かすポジティブな場」として再定義した本質的な取り組みだ。

こうした企業は、「待遇で釣る」のではなく、「理念で共感を得る」ことに成功している。


外国人を“代替労働力”として使うという間違い

では、なぜここまで“日本人が来ない”という現象が蔓延しているのか? その裏で取られてきた対応が、「外国人を入れる」という策である。

だが、これは完全に本末転倒だ。 外国人労働者は“埋め合わせ”ではなく、“活用”されるべき存在であり、そもそも“安く・過酷に・文句を言わず働いてくれる存在”として扱うのは、搾取に他ならない。

プロスポーツを見れば分かる。 Jリーグやプロ野球で外国人選手を入れるのは、「足りないから」ではない。「そのポジションに彼しかいない能力があるから」だ。

つまり、外国人活用の本来の目的は“補完”であり、“代替”ではない。


技能実習制度の限界──「育てる」と「使い潰す」の違い

これまで日本は、「技能実習制度」という名の下に、事実上の低賃金外国人労働力を使ってきた。しかし現場では、

  • 長時間労働
  • 本来の研修とは無関係の作業
  • 劣悪な住環境

といった問題が多発し、人権問題として国際的に批判される事例も多い。 しかも、外国人は数年後には帰国してしまう。「育てる」ことも「定着させる」こともできない制度なのだ。


真の解決策は「人に頼らない仕組み」の構築

こうした行き詰まりの中で、本当に必要なのは「人手を増やす」ことではなく、「人に頼らずとも業務が回る仕組みを作ること」である。

その中心にあるのが、

  • IT化
  • 省力化
  • 自動化

といった構造的改革である。

業務の性質従来の発想これからの発想
誰でもできる単純労働人海戦術・低賃金自動化・省人化
熟練・専門スキルが必要とにかく我慢させる高待遇で選抜雇用
外国人労働安く使える便利屋専門性を評価した戦力

これにより「人を集める経営」から「人に依存しない設計」への移行が可能になる。


「補助金を活用して人材不足から脱却する」という選択肢

現在、日本政府や地方自治体は、人材不足対策としてIT化・業務効率化のための補助金制度を多数用意している。

たとえば:

  • 勤怠管理や給与計算の自動化
  • 在庫管理のIoT化
  • 顧客対応のチャットボット化
  • 遠隔監視やセンサーによる安全管理の導入
補助金制度の例対象となる主な領域
IT導入補助金労務・勤怠・受発注・帳票などの自動化
ものづくり補助金生産性向上のための設備投資・プロセス改善
業務改善助成金最低賃金引き上げに伴う生産性向上の取り組み
小規模事業者持続化補助金販路開拓や業務効率化への支援

これらを導入することで、人を増やさずに業務を回せる現場が確実に増えている。

しかも、導入時には公的支援が使える。にもかかわらず、「補助金は難しそう」「面倒だ」と敬遠して何もしない企業が後を絶たない。


企業の“本質”は、収益の使い方に表れる

ここで問われるのは、企業が利益をどう使うかという哲学だ。

単に報酬を分配するか
未来のために設備投資や人材投資をするか
経営者自身がリスクを取って変革を行うか

収益は「企業と従業員の報酬で按分するもの」ではあるが、その中で“職場の進化”に予算を振れるかどうかが、経営の優劣を分ける。

一方で、「利益は増やす」「人件費は抑える」「外国人を使えば安上がり」という旧来の発想では、確実に人も信頼も集まらなくなる。


経営者が変わらなければ、何も変わらない

ここまでの議論を総括すれば、問題の本質は「労働力が足りない」ことではない。 「経営者が変わろうとしていない」ことにある。

  • 業務設計を見直す
  • IT化を導入する
  • 労働者の視点で現場を改善する
  • 外国人労働者を適正に処遇する
  • 「誰も来たくない仕事」を「誰かが選びたくなる仕事」にする

これらの責任はすべて、経営者にある。


結論:人材不足は構造の問題であり、解決の鍵は「変わる経営者」にある

いま、社会は確実に「見る目」を持ちはじめている。

  • 労働搾取をする企業は、SNSで暴かれ、
  • ハローワークでも求人が敬遠され、
  • 若者からも「絶対に行きたくない」と言われ、
  • 外国人からも「帰国後に悪評を広められる」ようになった

つまり、労働力を舐めた経営は、確実に滅びる時代になったということだ。
逆にいえば、人材を大切にし、構造を変える努力を続ける企業こそが、選ばれる時代でもある。

  • 自動化できる業務は自動化する
  • 必要な人材には誇りと報酬、環境を与える
  • 補助金など制度を活用し、構造転換を行う
  • 共に働くパートナーとして迎える

──それが、「人材不足時代」を生き延びる戦略である。


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