人事軽視によって、会社はハラスメントやコンプラ違反で衰退する(2025.10.22)

序章|ハラスメントは「文化として継承される現象」である

ある会社での出来事──退勤後に上司から送られた深夜メールに即座に対応できなかった若手社員が、翌朝「社会人失格」と叱責されたという。
この会社では、深夜にメールを受信したら即開封・返信するのが当たり前になっていた。業務時間外であるにもかかわらず、それを怠れば評価が下がる、叱責されるといった“空気”がまかり通っていたという。

この上司も、過去に同じように対応してきた経緯があるようだ。つまりこれは、“ハラスメント上司”の暴走ではない。構造として定着した企業文化の再生産である。
法的には、次のような問題を含む。

  • 就業時間外(例:18時以降)に業務指示や対応が義務化されていれば、それは時間外労働に該当する
  • 深夜(22時~翌5時)の労働には深夜割増(25%以上)が必要
  • 36協定に基づかない時間外命令は違法
  • 「従わなければ叱責や不利益がある」状況は“黙示の指揮命令”と評価されうる

つまり、これは単なる不適切対応ではない。会社が違法状態を常態化させていた可能性があるのだ。
問題は、違法だとすら思っていない上司の“無知”と、それを正さない企業の仕組みにある。
そしてこの“無知な上司”を管理職に据え、教育もせず放置していた企業には、明らかに構造的な任命責任がある。
ハラスメントは、こうした知識欠如・任命放任・文化継承の連鎖によって組織内に根を張る、極めてロジカルなものなのだ。

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第1章|無知が生む“疑似支配社会” — 加害者と被害者の共通点

ハラスメントが起こると、加害者とされる人物の“人格”に焦点が当たる。短気だった、無神経だった、思い込みが激しかった──メディアや社内の反応はそうした個人属性に集約されがちだ。

だが、もう一つの問いがある。
なぜ、その加害者の言動が止められなかったのか?

被害者が声を上げられなかったのは、「上司だから」「評価が下がるかもしれない」「空気が怖い」といった不安があるからだ。これらはすべて、法的には理由にならない。だが現実には、職場で声を上げるには“知識”が必要になる。

一方、加害者側も多くの場合、自身の行為がハラスメントに該当するという認識を持っていない。深夜にメールを見るのは当然、叱責は指導の一環──その程度の認識しかない。
例えば、日本において、拳銃を所持している人間は少ない。または、シートベルトをせずに車に乗る人間も少ない。セルフレジで代金を支払わずに帰る人間も少ない。
なぜ、労働法を守らない人間は多いのか。同じ違法なのにも関わらず。

ここに共通するのが「無知」だ。

  • ハラスメントの定義を知らない
  • 労働時間の概念を知らない
  • 法的責任と職務権限の境界を知らない
  • 自身の言動が違法性を帯びる可能性を知らない

そしてこの無知は、加害者だけでなく被害者側にも存在する。だから、被害が起きても止まらない。誰も明確に「おかしい」と言語化できず、“なんとなく従う”ことが支配構造を温存してしまう。
このように、ハラスメントは「加害者の支配欲」ではなく「職場の無知構造」から発生する、とすら言える。


第2章|悪いのは人格“だけ”ではない — 行為責任と環境責任の分離

たしかに、ハラスメントの行為自体をしたのは、上司本人だ。その点に異論はない。
だが、それだけで議論を終わらせてしまっては、本質は見えてこない。

ここで大事なのは、「行為責任」と「環境責任」を分けて考えることである。

  • 行為責任・・・個人が負うべき直接の責任(暴言、指示、命令)
  • 環境責任・・・会社が負うべき構造的責任(任命、教育、ルール、慣習)

多くの企業は、行為責任だけを問題にし、「本人が悪かった」と結論づけて幕を引こうとする。だが、それは再発を容認しているのと同じである。
「なぜそのような人物が管理職になっていたのか」 「なぜ教育されていなかったのか」 「なぜそのような価値観が“正しいもの”として残っていたのか」
──企業としてこのような疑問を持たなければ、根本の解決にはならない。


第3章|人事を軽く扱う企業が、ハラスメントを量産する

ここで最も問題なのは、会社の任命姿勢そのものである。
多くの企業は、年功序列や営業成績といった“結果”だけで管理職を任命している。適性や人格、法的な知識の有無、マネジメント経験などを一切確認しない。つまり、「管理職は誰でもできるもの」という、誤った前提に立っている。

もっとはっきり言えば「人事」を軽視しているのだ。
これは”人が集まって出来上がっている”組織としての重大な過失だ。

必要な任命基準現実にありがちな任命理由
マネジメント適性年次が来たから
法知識の理解営業数字が良いから
判断力と冷静さ前任が抜けたから
組織的視点と説明責任部内の雰囲気で推された

こうして、任命という組織権限を“ご褒美ポスト”と勘違いして与えた結果が、労働法違反とハラスメントの温床を生んでいる。

本来は労働法規をはじめとした法規理解やコンプライアンス意識を含め、管理職適正のある人物を選定、任命しなければならない。仕事ができたからといって管理職はできない。
現役時代に点取り屋だったからといって、コーチとして自チームの選手に得点を量産させられるようになるわけではないし、ましてや監督としてチームを優勝させられるわけではないのだ。


第4章|解決策は、性格矯正ではなく“任命と教育の制度化”

多くの会社が誤るのは、「ハラスメントは個人の資質の問題だから、仕方がない」「怒りやすい性格だから指導が難しい」といった、性格論への逃避である。実際、この元記事でも加害者類型についての考察がある。

だが、人格は個人の問題であり、会社としては避けられる話なのだ。その人材を管理職にしなければ良いだけだ。
しかし、それを実際に任命しているのは会社の責任であり、更には管理職として必要な教育も行っていない。
そもそも、そのような意識が低い人間を選定、任命している。その時点で、会社に遵法意識が足らないと言える。

解決策は明確だ。

  • 任命前に、管理職適性の評価(行動特性、対人関係、冷静さ)
  • 任命時に、労働法・労務管理・コンプライアンスの初期教育を義務化
  • 任命後にも、定期的なアップデートと振り返り制度
  • ハラスメントリスクを可視化し、周囲からのフィードバックも制度化

つまり、「任命」=「権限付与」ではなく、「法的責任を伴う任務」として定義し直す必要がある。

欧州やアメリカでは、管理職になるためには以下のようなステップがスタンダードだ。

項目欧米日本
労務・労働法教育受講必須(最低限の法律理解が条件)知ってる人は稀
役職は「権限+責任」契約で明確化精神論と空気
違法行為のリスク個人責任が重い(訴訟社会)会社に隠れられる

つまり海外は 知識が伴っていないとマネジメント職に就けない構造 になっているのだ。
それは企業のリスクヘッジとしても機能をしている。日本の企業はリスクヘッジの意識が低いと言わざるを得ない。


終章|ハラスメントは“引き寄せた結果”である — 企業が生む自業自得

不祥事やハラスメントは、企業にとって“突然の災害”のように語られがちだ。
だが現実は違う。
それは、日々の任命判断、教育放棄、人事の軽視、無知の温存といった“会社の日常”が呼び込んだ、自業自得の結果に過ぎない。

  • 管理職任命に慎重さがなかった
  • 教育や研修を「コスト」としか見てこなかった
  • 無知でも任せられると甘く見ていた

これらすべてが積み重なって、ある日突然、事件として表面化する。
ハラスメントは偶然ではない。会社の体質が引き寄せた必然である。

だからこそ、本気で変えるなら「人事」というものを根本から見直さなければならない。
それができない会社は、また同じような事件を引き寄せ、優秀な人材の流出を促進し、企業の評判と価値を毀損し続けるのだ。


夜遅くのメールに気づかなかった部下に「社会人失格」と叱責。社内文化が絶対の“過去”にとらわれた上司のハラスメントと解決策(FNNプライムオンライン