”ノウハウ勝者”を集めた組織では勝てない|低生産性は採用から(2025.12.16)

序章|「メモを取るべきか」論争の虚しさ──そこに潜む本質

「面接の逆質問でメモを取ったほうがいいですか?」
元記事に示されているこの問いは、就職活動がいかに“儀式化”しているかを端的に示している。

本来、メモを取る・取らないは応募者の戦術にすぎない。必要なら取ればいいし、会話が止まるなら無理に取る必要はない。だが、日本ではこの行為にさえ「正解」があり、そしてその“正解らしさ”が評価されるという奇妙な構図が続いている。

重要なのは、応募者がメモを取るかどうかではない。
そんなものを評価基準にしてしまう企業の側が、採用の本質を見失っているという事実だ。

採用とは、企業の未来をつくる“戦略行為”である。
だが現実には「正しく座る」「ノックの回数」「逆質問の巧拙」「ガクチカのテンプレ」といった儀式が幅を利かせ、企業側も学生側も、互いに形式をなぞり続けている。

この状況を生み出している根本は、『行為の目的化』──つまり目的が手段にすり替わる現象である。本来は「適材を採ること」が目的であったはずが、「形式をこなせる人を採ること」に変質してしまう。

そしてこの構造は、日本企業の生産性の低さと密接に連動している。
形式にばかりリソースを割き、本質を見抜く力を失い、就職活動のノウハウ化を許し、凡庸な人材ばかりを集め続ける。
その最初の入り口こそ、採用なのである。

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第1章|面接儀式の正体──行為が目的化した採用文化の病理

◆ 日本に残る“儀式の山”

日本の採用は、ある意味で宗教儀式に近い。
ノック回数、入室の角度、鞄の置き方、髪色の基準、スーツの色──どれも事業成果には1ミリも影響しないのに、このような”ノウハウ”があたかも重要な要素のように語られる。元記事を引用すれば、「スマホでメモを取るほうが効率が良くて便利」なのにも関わらず、”書いている”ポーズ=形式を重要視している。

逆質問の仕方、ガクチカの型、志望動機のテンプレもそうだ。
その場の“挙動の美しさ”を測るための儀式であり、仕事の能力とは無関係、むしろ非効率である。
だが、こうした儀式はなぜこれほど強固に残り続けるのか。
理由は単純だ。評価できない人事ほど、形式にすがる。


◆ なぜ“行為の目的化”が起きるのか

人材評価には本来、深い洞察が必要だ。
応募者がどんな論理構造で考えるか、何に価値を置くか、どのようにチームに関与するか──こうした本質を見抜くには、質問設計と対話力が欠かせない。

しかし、多くの企業はその努力を放棄してしまう。
理由は3つある。

  1. 求める人物像が定義されていない
  2. 業務理解が浅く、能力要件を説明できない
  3. 深い議論を行う面接スキルがない

このような状態では、“誰でも判断できる形式”に逃げざるを得ない。
礼儀、作法、テンプレ回答──これらなら判断基準として扱いやすい。
だがそれは、採用の本質からの逃避である。

形式をきちんとこなした人=優秀な人材

という完全な誤解が組織に蔓延し、結果として凡庸な人材が集まり続ける。
行為が目的化した採用は、将来の組織力まで蝕む。採用で見抜かれたのは、能力ではなく“儀式に従順な人材”だからだ。
その結果、”就職活動のノウハウ化”をまんまと許してしまっている。


第2章|戦術が進化する世界で、日本の採用だけが止まっている

◆ サッカーの世界では「2年前のやり方」は古い

サッカーをはじめとするスポーツの世界では、戦術は激しく進化する。
イングランドのプレミアリーグでは、2年前に旋風を起こした戦術は、翌年には完全に攻略され、もう通用しない。
また、2002年の日本代表で話題になった「3バック」もその象徴だ。一時は死語になり、時代を経てまた復活する──

戦術とは、時代によって生まれ変わる。環境が変われば勝ち筋も変わり、それに対応する必要がある。
勝つためには、考え方・手法・選手配置を絶えずアップデートするしかない。

◆ ビジネスの変化速度は、スポーツより速い

・ネットの普及
・ECの一般化
・スマホ革命
・SNSの登場と浸透
・AIの爆発的発展

この20年だけでも世界の常識は何度も書き換えられてきた。
なのに──日本企業の採用だけは、平成初期からほとんど変わっていない。

・逆質問
・ガクチカ
・スーツの色
・お辞儀の角度
・面接官の機嫌を読む文化

企業が変わらなければ、採用が変わる理由がない。採用を変えても評価制度が変わらなければ成果は出ない。
こうして日本企業は“変わらないことが正義”という空気を生き続けさせてしまう。
採用が古いままなら、組織も古いまま。当たり前の話だが、多くの企業はその関係性に気づいていない。


第3章|企業には“ストロングスタイル”があるのに、儀式を重視してしまう矛盾

どんな組織にも、成果を出せる“勝ち筋”がある。
サッカーなら、日本代表は連動性、ブラジルは個の力、ドイツは規律。
企業も同じで、どのような企業にもストロングスタイルが見つかるはずなのだ。

ところが──
日本の採用儀式は、どのストロングスタイルとも無関係である。

ノック回数を揃えても売上は伸びない。
逆質問が滑らかでも、企業課題は解決しない。
ガクチカのテンプレが完璧でも、実務力にはつながらない。
メモの取り方が丁寧でも、価値創造能力とは無関係だ。

ではなぜ、就活生たちにそんな無関係の所作が残り続けるのか。
理由はひとつ。

勝ち筋を理解していない企業ほど、形式に逃げる。だから、就活生にとっては形式を押さえることが勝ち筋となる。

ストロングスタイルを理解していれば、採用評価も自然と本質に向かう。
だが理解できていなければ、“みんながやっている形式”に寄せるしかない。
こうして日本企業は、凡庸さを自ら育て続けてしまう。


第4章|企業は学生を馬鹿にし過ぎだ

端的に言えば、企業は「学生を馬鹿にしすぎ」だ。何もできないと思っているから、希薄化した質問ばかりを量産する。

元記事にあるように、応募者が本当に自社に興味があるのかを知りたいのであれば、自社の課題について、あなたならどう解決するかと問えば良いのだ。仮にその答えが稚拙なものであっても、自社の現状を把握していて、見どころがあれば良いではないか。少なくとも本人の能力、またはやる気の一端を見ることはできる。
それをやらないのは、「どのような人材が欲しいか」「学生などどれも大して変わらないから真面目な人だけ欲しい」といったように、人材採用の目的が明確でないからだ。
または、質問者側が自社の課題、および業務を把握できていないのだ。

本来、最後の逆質問は、応募者が企業理解を深めるための機会である。企業が応募者を測る材料ではない。
だが元記事にあるように、日本企業では逆質問を評価の軸として扱うケースも少なくない。
その背景には、人事側の機能不全がある。

◆ 逆質問を評価に使う企業の特徴

  • 採用要件を言語化できない
  • 仕事の本質を説明できない
  • 面接官の力量が足りず、深い議論ができない
  • 学生を能力的に低く見積もっている
  • 本質質問を避け、儀式で判断したがる

面接官が自社の課題や仕事の難しさを語れない会社は、応募者の本質を測れるわけがない。
だから形式に逃げる。そして逆質問の巧拙を評価してしまう。これは企業の力量不足である。

だからこそ、逆質問で落ちても気にする必要はない。むしろ避けたほうがいい企業である。「縁が無かった」とはよく言ったものだ。
採用が儀式依存なら、仕事も儀式依存だ。思考や改善よりも“空気”が優先される文化が根づいている証拠である。


第5章|マニュアル採用が企業、そして日本の生産性を奪う

採用文化は、そのまま企業文化に反映される。採用活動を通じて集められた集団だからだ。
儀式的採用は、組織そのものを古く弱いものにしてしまう。

◆ 儀式採用がつくる悪循環

  1. 儀式をこなす人材を採る
  2. 挙動の美しさばかりが評価される
  3. 本質議論が弱くなる
  4. 形式だけが残る
  5. 革新が起こらない
  6. 生産性が下がる
  7. さらに儀式へ回帰する

これは組織の内部から活力を奪い、外部環境の変化にも対応できない体質を招く。

◆ 学生側の努力も報われない

学生だって真剣だ。特に優秀層や真面目に勉強してきた学生ほど、大学・大学院で学んだことが企業でどう役立つかを話したいし、知りたいと考えている。
だが、“儀式優先”の採用では、その努力は測られない。テンプレ化されたガクチカのほうが評価され、本質的能力は軽視される。
これは学生への侮辱でもあり、企業自身への損失でもある。

◆ 減点主義が企業を弱くする

儀式採用は、「粗を探す採用」になりやすい。
ノックが違う、態度が違う、逆質問が弱い──こうしたどうでもいい理由で減点される。

だが能力を見る採用は、本来加点主義だ。
強みが見えたか。伸びる余地があるか。価値観が組織に合うか。

能力を見る採用なら、新卒偏重にもならず、多様な背景の人材を評価できるはずだ。
だが、日本は「落とす理由」ばかりを探していて、”従来”や”慣習”から抜け出すことができない。
結果として、新しい時代の潮流に遅れて、生産性が下がっていく。


第6章|企業は“ストロングスタイル”に沿って採用を再設計せよ

採用を儀式から解放し、企業が本当に求める人材を獲得するためには、ストロングスタイルの定義が不可欠だ。
企業はまず、自社の“勝ち筋”を理解すべきである。

  • 課題設定能力が必要なのか
  • チームでの連動性が成長要因なのか
  • 構造化のスキルが競争力を生むのか
  • 顧客価値をつくる発想力が重要なのか

こうした要件は、儀式とは無関係である。むしろ、儀式的要素は“ノイズ”ですらある。
だから企業は、成果につながる指標にもとづいて採用を組み直す必要がある。

◆ これからの採用で見るべきもの

  • 思考の深さ
  • 論理の構造
  • チームに与える影響力
  • 課題探索力
  • 実務に近いシミュレーションでの判断力
  • 価値観の相性

これらは形式では測れない。面接官の力量と、企業の覚悟が問われる。
採用が変われば企業は変わる。採用の質は、組織の未来そのものだ。


結章|人事、まじめにやれ

採用は、企業の未来を決める行為である。
しかし現状では、その重大な場面が、形式的な儀式に支配されている。
適性の見極めではなく、“ノウハウを覚えてきた学生”を選ぶ競技になっている。
そんな採用では強い組織など生まれない。

儀式的な企業は、内側から弱くなる。
思考が停止し、形式に依存し、アップデートできず、世界の変化から取り残されている。
だからこそ、最後に強く言いたい。

人事、まじめにやれ。就活生にラクをさせるな。
”ノウハウ化”されるなど恥ずかしいと思え。

採用を変えれば企業は変わる。企業が変われば、日本の生産性も変わる。
儀式に頼らず、ストロングスタイルに沿った採用を行う企業こそ、これからの時代の勝者になる。


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