天然鉱山型から都市鉱山型採用に切り替えて、筋肉質企業になれ(2026.1.20)

序章|「フィットする人材」を採ろうとする企業が、ようやく現れた

日本企業の採用現場に、これまでとは明らかに質の異なる変化が現れている。
内定辞退者を「縁がなかった人」として切り捨てず、将来の採用候補として管理する。選考途中で離脱した人材を、失敗ではなく「資産」と捉え直す。
これを元記事では「タレントプール採用」と名付けられている。

一見すれば、新しい採用テクニックの話に見えるかもしれない。
だが本質は、もっと深いところにある。

これは 採用文化の転換 だ。しかも、それは突然の革命ではない。
長年、日本企業が抱えてきた歪みが限界に達し、ようやく現実を見るようになってきた。

これまでの日本の採用は、どこかで「人は余るもの」「多めに採っておく方が安全だ」という発想に支配されてきた。
それが新卒一括採用というポテンシャル採用であり、実績の無い若い人材を採れるだけ採る、という手法が正義だった。
しかし労働人口は減り、仕事は高度化し、「余り」を前提にした設計が人的コストと捉えられ、収益性において組織全体をむしばむようになった。

「自社にフィットする人材を、必要な分だけ採る」
この、本来は当たり前すぎる考え方が、ようやく正面から語られ始めた。
それ自体が、時代が大きく動いている証拠なのである。

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第1章|新卒一括大量採用という「天然鉱山モデル」

新卒一括大量採用は、日本の高度成長とともに完成した制度だ。
労働人口は増え続け、企業は拡大を前提に組織を設計していた。

当時の論理は明快だった。

  • とにかく多く採る
  • あとは育てる
  • 伸びる人材が出てくれば成功

この採用は同時に運用されていた「終身雇用」とセットで一見、人を大切にする制度にも見える。
だが構造的に見れば、これは金やダイヤモンドなどを採掘する 「天然鉱山モデル」 に近い。
大量の岩石を掘り続け、その中からほんのごく一部の金属や宝石を取り出す。
残りは廃棄物として積み上げられ、捨てられる。

天然鉱山の特徴採用に当てはめると
とにかく大量に掘る毎年何百人・何千人と採る
ほとんどは石・土・不純物ほとんどは「平均化された労働力」
鉱石採掘があるのはごく一部毎年次ごく一部だけの幹部候補
掘削コスト・環境負荷が極めて高い採用後の摩耗・停滞・切り捨てが前提
大量の残土処理が必要パワハラ・肩たたき・出向という“余剰人員処理”

新卒一括大量採用も同じである。
活躍する人材が出るまで、とにかく数を採る。
伸びなかった人、組織に合わなかった人は、後から調整すればいい。

このモデルは、人口増加期には機能した。
だが、人口減少と成熟社会に入った今では、無駄・摩耗・不健全さを量産する構造に変わっている。


第2章|切り捨てが前提だったから、パワハラが生まれた

天然鉱山モデルの最大の問題は、採用時点ではなく「採用後」に現れる。
具体的には、中高年に差し掛かった頃だ。

組織は本質的にピラミッド構造だ。どれほど裾野を広げても、上に行ける席の数は限られている。
結果として、以下のようなことが構造上必ず起きる。

  • 能力以前に「席」が足りなくなる
  • 人を評価で序列化する必要が生じる
  • 余剰人材を排除する圧力が働く

つまり、大量採用を行った時点で、企業は「余剰を処理する仕組み」を内部に必要とする のだ。
とくに、今よりも解雇が難しく、人の流動性も無かった時代だ。
その余剰を処理する仕組みが、必ずしも明文化されているとは限らない。
むしろ、多くの場合は暗黙の形で行われる。

評価を下げる。
責任だけ重い仕事を与える。
居心地を悪くする。
肩をたたく。
片道切符の出向。

そして、その過程で パワハラが「手段として機能してしまう」
上司側も、余剰人員の排除を為さなければ自分の評定に関わるのだ。
これは一部の上司の人格の問題ではない。
切り捨てを前提とした採用設計が、生んだ帰結 である。


第3章|本来のリストラとは「人減らし」ではない

この文脈で、もう一つ大きく歪められた言葉がある。
それが「リストラ」だ。
本来のリストラとは、リストラクチャー(再構築) である。

  • 仕事は本当に必要か
  • この役割は今も有効か
  • 優先順位は正しいか

これらを問い直して、今ある構造を組み替える、具体的には組織の形を変えたり、
人員配置を移動させて担当業務の適正化を図る行為が、リストラの本質だ。

しかし日本では、いつの間にか意味がすり替わった。
リストラ=人を減らすこと。
しかも仕事も構造も変えないまま、人数だけを削る。
これで生産性が上がるはずがない。
人が足りないのではない。不要な仕事、または非生産的な業務構造が温存されているだけなのだ。
本来、採用より先にやるべきことは、常に構造の見直しである。

このような言葉の意味のすり替えもまた、新卒一括採用が生んだ悪弊の一つと言えよう。
適切な人材移動や採用が行われていれば、余剰人員の削減機会は縮小するのだ。


第4章|最も確実な人材補充は「社内」にある

構造を見直し、それでも不足する人材があるなら、最初に探すべき場所は社内だ。

まず最大の理由は、自社との親和性。数年在籍しているのであれば、その時点で外部からの人材と比較してエンゲージメントが格段に高い。
また、本人としても、会社からの新しい要求とは言え、慣れた周辺環境で働くことができるということに加えて、
求められて働くことができるという自己肯定感の充足の中で仕事をすることができる。

さらに会社側から見た場合においても、社内人材については、
外部人材採用過程では決して得られない情報がある。

  • 実際の成果と過程
  • 失敗の仕方
  • 周辺他者との関係性
  • 学習スピード
  • ストレス耐性

これらは履歴書にも職務経歴書にも書かれない。専門エージェントのヒアリングを通したとしてもたかが知れている。
しかし、事業の成否にはこれらこそが重要だ。
だからこそ、社内スカウト制・社内公募は合理的なのである。

異動は命令ではなく、部署による条件提示と、本人の合意が最も望ましい。
事業部署として、出せる条件、引き留める条件を提示し、本人はその条件に基づいて受否諾を決定する。
但し、会社全体としての重要度、強化が必要な事業、人手が必要な部署の判断もある。
だからこそ、部署間の直接交渉では無く、人事の調整が必要となる。
人事の役割は単なる数の配置ではなく、経営者のパーパスを反映させた会社全体の視点を持った上での
社内での仲介と調整へと変わる。


第5章|タレントプールは「都市鉱山」である

社内で賄えない場合、次に検討すべきが、元記事で取り上げられている「タレントプール」である。
会社としてこれまでに一度内定を出した人材はすでに、

  • 書類選考
  • 面接
  • 現場評価

を通過している。
つまり 自社との適合性は一度、確認済みなのだ。
タイミング、家庭、地域、キャリア選択などの外部環境の問題であり、それらは時間の経過とともに変化する。
しかも彼らは、内定辞退後に、自社では得られない別の知見、別の能力やスキル、別の経験知を身につけており、より生産性の高い人材となっているのだ。

天然鉱山が運任せの採掘なら、タレントプールは、社内人材と共に、資源の所在が確実に分かっている都市鉱山だ。
都市鉱山とは、都市で廃棄される使用済み家電製品や携帯電話、パソコンなどに含まれる有用な金属資源を、鉱山に見立てて表現した言葉である。

都市鉱山の特徴採用に当てはめると
すでに精錬された金属が存在すでに選考済み(=精錬済み)
場所も性質も把握済み自社適合性が確認されている
必要なものだけを選択的に回収辞退理由や経緯が明確
環境負荷・コストが低い社外経験で“合金化”が進んでいる
再精錬で価値が上がることもある再投入時の成功確率が高い

リサイクル=中古と言えばその通りだが、確実に有用であることがわかっている。
これが新卒年次絶対という考え方の採用しか行わない会社なのであれば、何年か経った場合には採用対象にならない。
「タレントプール化」は、年次に捉われず自社にフィットした人材を採用するという、
暦ベースの採用からの明確な決別宣言なのだ。


第6章|外部採用は最後のピースを埋める手段

ここまで読み進めてきて、「では採用はもう外部に頼らなくていいのか」と感じた人もいるかもしれない。
結論から言えば、外部採用は必要である
ただし、それはあくまで「最後」の選択肢であるべきだ。

外部採用が失敗しやすい理由は明確だ。
外部人材には、企業側が本当に知りたい情報がほとんどない。

  • 実際にどこでつまずくのか
  • プレッシャーがかかったときにどう振る舞うのか
  • 人間関係の衝突をどう処理するのか
  • 成果が出ないとき、逃げるのか、立て直すのか

これらは履歴書にも職務経歴書にも書かれない。面接でも、ほぼ見抜けない。
内部人材に比べて確実性が格段に低いのだ。
さらには、採用や新規育成のコストも馬鹿にならない。
にもかかわらず、多くの企業は「人が足りない=すぐ外部採用」という短絡的な判断を繰り返してきた。

本来、採用には順序がある。

  1. 仕事や役割の構造は適切か(やり方を変えて対処できる場合がある)
  2. 社内で再配置に適した人材はいないか
  3. タレントプールに適合する人材はいないか

これらの手元にあるカードをすべて検討したうえで、
それでも足りない「機能」や「専門性」を埋めるため
に、確実性が低くても外部採用を使う。
その場合でも、スキルや経験が見える人材を選択採用すべきだ。経験知見はやる気や体力で補えるものではないのだ。

外部採用とは、「人を増やすための手段」ではない。
組織に足りない最後のピースを、限定的に補うための手段である。


第7章|筋肉質な組織をつくる

ここまで見てきた、
本来のリストラ、社内スカウト、タレントプール、外部採用の位置づけ。
これらはすべて、ある一点に集約される。

それが 「筋肉質な組織」 という考え方だ。

筋肉質な組織とは、人数が少ない組織のことではない。コストを切り詰めた組織でもない。
無駄な力を使わない組織である。

  • 人を余らせない
  • 余らせたうえで競わせない
  • 摩耗や脱落を前提にしない
  • 組み替えによって強くなる

これを実現するために必要なのは、才能の見極めではない。
モチベーション論でもない。

人材・パーソナルを把握し続けることだ。

誰が、何が得意で、どこで価値を発揮し、
どの環境では力が出ないのか。
この把握ができていれば、

  • 無理な配置は起きない
  • 余剰人員の確保と切り捨ては必要なくなる
  • 組織は「消耗」ではなく「更新」で強くなる

筋肉質な組織とは、「人を削って残る組織」ではない。
人を活かしきることで、無駄がそぎ落ちた組織である。

そして、そのような組織作りに必要な情報の集約こそが、
人事の仕事なのだ。


終章|時代の転換を止めるな

「フィットする人材を採る」という発想は、一部の先進企業だけの話ではない。
労働人口は減り、人材は希少になり、人は「合わない場所からは去る」という選択肢を、当たり前に持つようになった。

つまり、すでに時代は転換している
それでもなお、

  • 年齢という基準にしがみつく
  • 数を集めてから選別して生産性を落とす
  • 余剰を処理してリスキーな摩擦を生む

のか?という問いだ。

人材と市場は、変化から目を背ける企業から、とても静かに離れていく。
気が付いたときには、新たな人材応募は減り、収益は落ち、投資や融資は先細っていることだろう。

採用文化の転換とは、単なる人事施策の話ではない。
企業が、これからの時代に合わせて、どんな組織であり続けるかという意思表明である。

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