

序章|アイデアレスのコンビニなら要らない
「排外主義は怖い」「外国人がいないと店が回らない」。最近のコンビニ業界の発信を見て、正直に言えば情けなくなる。
本来の論点は“排外か共生か”ではない。効率化のトップランナーであるべきコンビニエンスストアという業態が、最初に出してくる答えが「人を増やしてくれ」になっていることが問題なのだ。
コンビニは、本来「人をたくさん使う」ことで成立する業態ではない。小さな売場、少人数運営、高回転。効率が崩れた瞬間に利益が消える。だからこそ、かつてのコンビニは「現場に人を足す」ではなく、“仕組みを変えて人を減らす”アイデアで勝ってきた。
人手不足は、衰退の兆候ではない。設計を更新せよ、という合図だ。
にもかかわらず、現状維持を求めて、政府へ要請までして外国人労働力の確保へ短絡する——それはもう、挑戦者としてのコンビニではない。
アイデアを捨てたコンビニなら、我々消費者が求めるものでは無い。
第1章|コンビニは「新しい仕組み」を作ってきた業態だった
コンビニは“売っている商品”はもちろんのこと、その業務の“回し方”で革命を起こしてきた。
ここを忘れると議論は一気に浅くなる。象徴的な変化を、あえて一覧で可視化しておく。
コンビニが作ってきた「新しいこと」一覧
| 仕組み・施策 | 何が新しかったか | 効率面で何を解いたか |
|---|---|---|
| 24時間営業 | 小売の「営業時間」の常識を破壊 | 人員配置・物流を平準化し回転で稼ぐ |
| 少人数オペレーション | 大型店=多人数という固定観念を崩した | 属人性を排し、標準手順で回す |
| POS(販売データ活用) | 勘と経験の発注からの脱却 | 需要予測・補充判断を“仕組み化” |
| ドミナント戦略 | 店舗を点ではなく面で作る | 配送距離短縮、補充頻度最適化 |
| ATM設置 | 金融窓口を小売へ移植 | 銀行業務の一部を無人化・分散化 |
| 公共料金・チケット | 行政/娯楽の窓口を集約 | 「ついで処理」で時間コスト削減 |
| マルチコピー機高度化 | 印刷・証明書・各種手続きのセルフ化 | 事務作業を客参加型で省力化 |
要するにコンビニは、“人の手間を客商売から削る装置”として進化してきた。多くの業務を少ない人数で回す。スーパーなどと比べて多少の売価の高さも、消費者はコンビニのアイデアによる利便性を優先して受け入れてきた。
だからこそ、いまコンビニが人手不足を理由に、何のアイデアも無く「人を増やす」方向へ寄るのは、自己否定に見える。
第2章|なぜコンビニは「考えなくなった」のか
問題の芯は単純だ。コンビニは、ここ十数年で「増やしたもの」を減らせなくなった。
- 取扱サービスは増える一方(配送、決済、行政手続き、EC受取…)
- 例外処理が膨らむ(年齢確認、返品、クレーム、宅配のイレギュラー)
- しかし、客には負担を求めづらいという空気が残る
- 結果、“人を貼り付ける”以外に帳尻が合わない設計になる
ここで重要なのは、人手不足は原因ではなく結果だということだ。
店舗運営設計を更新しない限り、どれだけ人を入れても「足りない」は続く。むしろ、人が足りないほど「改善せずに人で埋めるクセ」が強化される。産業として最も悪い循環である。
そしてこの循環が、外国人労働力を“便利で安価な補填材”として扱う発想につながる。
だがそれは、社会にとっても業界にとっても長期的に損だ。安価な労働力で延命した産業は、必ず競争力を失う。
労働力が来ないなら、来ない前提で作り直す必要があるのだ。それが本来の合理であり、以前のコンビニ業界であれば、それを探求していたはずだ。
第3章|効率化は冷たいのか?──客はすでに順応している
自動化やセルフ化に対して「人との温かみが消える」という反論が出る。だが、これは価格帯と業態を無視した幻想だ。
温かみが欲しいなら、その体験に金を払えばいい。高級フレンチ店や、高級旅館などはその例だ。コンビニや外食チェーンに“手厚さ”を要求して、価格だけは据え置けと言うのは虫が良すぎる。
現に私たちは、セルフ化にもう十分順応している。古くからある食券文化、丸亀製麺の一方向動線、タブレット注文、セルフレジ。最初は驚くが、すぐに「そういう店だ」と理解し、むしろ快適だと感じ始める。
重要なのは温かみではなく、設計の一貫性だ。
- ルールが明確
- 動線が単純
- 例外が少ない
- 迷ったときの案内がある
この条件が揃えば、客は協力する。つまり「客に負担を求められない」のではなく、“求め方が下手”なだけだ。コンビニは、ここを再学習すべきである。
それと”選客”の覚悟を持つこと。「千客万来」といった言葉があるが、それとは真逆であり、「うちの店を使うには最低限効率化を受け入れてください」と宣言する覚悟だ。全員に受け入れてもらおうとする結果、全員が少しずつ不幸になる。それがいまのコンビニだ。
第4章|無人化は失敗したのか──Amazon Goの正しい教訓
「無人店はうまくいかなかった」という話がある。Amazonが実験的に展開していた店舗、Amazon Goだ。最盛期(2022〜2023年頃)ではアメリカ国内で約30店舗近くあったが、現在は約15〜17店舗程度まで減少(半分以下)している。
しかし、技術自体(Just Walk Out)はむしろ拡大している。Amazon Goのオリジナル店舗は縮小したものの、RFID(Radio Frequency Identification、無線周波数識別)版の簡易版レーン(カメラを減らしてポップアップやイベント向け)が、2025〜2026年に急速に増えている。
つまり「完全無人コンビニとしてのAmazon Goは大幅縮小」したが、「レジなし技術自体はライセンスビジネスとして生き残り・成長」している、という状況だ。
コンビニが学ぶべきは、全面無人を夢見ることではない。技術を活用した「省人化」だ。すでに技術はある。
人の仕事を「例外処理」と「監督」に集約し、標準処理を徹底的に機械へ渡すことだ。年齢確認、返品、宅配のイレギュラー、困っている客の救済。そこだけに人を置く。そのために、標準業務は容赦なく削る。省人化が現実解である。
第5章|イノベーションのために「政府を説得」しろ
ここで話は記事に合った政治への働きかけに接続する。ただし方向は逆だ。
政府に頼って“人を増やす”のではない。アイデアを社会実装するために、政府を説得して“人が要らない設計”を合法化する。これが本来のロビー活動である。
日本は、過去にそれを何度もやってきた。プレハブ住宅は工場生産で職人不足を埋めた。FeliCaは決済と改札を無人化した。HALは介護・作業の負担を機械で補助した。iPSは医療を工業化へ近づけた。そしてコンビニ自身も、酒・たばこの年齢確認をデジタル化する方向で制度運用を動かし始めている。
イノベーション実現のために「政府を動かした」例
| 事例 | 日本発イノベーション概要 | ロビー活動の詳細(変更された法律・規制の方向性) | 成果・影響(労働力不足解決) |
|---|---|---|---|
| プレハブ住宅 | 工場生産+現場組立で住宅供給を工業化 | 建築基準の認定運用・性能認定制度の整備 | 工期短縮、職人不足を構造で補完 |
| ロボットスーツHAL | 装着型支援で介護・作業を省力化 | 実証→安全基準整備→医療機器承認/保険適用 | 介護・重労働を機械で代替 |
| FeliCa | 高速非接触ICで決済・改札を自動化 | 標準化・制度対応で公共インフラ実装 | 窓口・改札の省人化を全国展開 |
| iPS再生医療 | 細胞から治療を“生産”する医療へ | 早期承認など制度枠組み整備 | 医療の工業化で人手依存を低減 |
| コンビニセルフレジ | 年齢確認のデジタル化でセルフ化 | ガイドライン整備・運用緩和 | レジ業務を削り省人化を前進 |
結論は明快だ。政府が後押しすべきなのは「労働力の調達」ではない。社会実装のための制度更新である。
民間が発明し、政府がルールを整える。これを国家戦略として磨き直せば、日本はこれから勝てるのだ。
第6章|人手不足は、日本の次の基幹産業を生む
世界に先駆けての日本の人手不足は、悲劇ではない。むしろ、今後輸出可能な産業モデルを生む“実証フィールド”である。カギは技術単品ではなく、組み合わせだ。
- 自動化(標準作業の機械化)
- ロボティクス(搬送・補助・代替)
- IT(認証・決済・在庫・需給最適化)
- 人的効率化(例外処理の設計、マニュアル、改善文化)
- そして、客側の効率化許容(ルールへの順応、セルフ参加)
この五つを束ねたものは、単なる“省人化”ではない。省人社会の運用モデルだ。新幹線が車両だけでなく「運行・保守・安全・教育」をパッケージで売るのと同じ。日本が売るべきは、ロボット単体ではない。人が減っても回る社会のOSである。
つまり、日本は世界に先駆けて「省人社会オペレーティングシステム」の実証国家になれるのだ。
第7章|だからこそ、コンビニが先陣を切れ
コンビニには他業態にない武器がある。全国数万店舗という実証フィールドだ。国民生活に最も近いインフラであり、毎日、膨大なトランザクションが流れる。そして何より、これまで50年間に渡り省人化の蓄積がある。
ここで成功した省人モデルは、そのまま社会標準になる。
だから言いたい。人が足りないから人を呼ぶなどという安易な解決策を求めるべきでは無いのだ。
店舗に人が要らなくなる未来を作る、それがコンビニが背負っている使命である。
具体的には、次の順番でいい。
- 標準業務を“徹底的に”セルフ化・自動化(渡し口、決済、受取)
- 人の仕事を例外処理へ集約(困りごと、イレギュラー)
- 例外を減らすために、サービスとルールを再設計(客の参加を前提化)
- それでも残る部分だけ、人を適正条件で配置(国籍ではなく条件で選ぶ)
これが“効率業態としてのコンビニの矜持”だ。
外国人労働力は否定しない。外国人労働力だからこそ示せる、日本国内に無い価値を導入することは大いに歓迎だ。
だが、安価な補填材として依存するのは拒否する。来ないなら、技術、機械でやれば良い。または人が来たくなる環境に作り直すべきだ。コンビニがそれをやらずに、誰がやるのか。
終章|人が減って勝つ国になれ
日本は人口が減る。これは変えられない。変えられるのは、設計だ。
人が減るのに、昔と同じ回し方で回そうとするから破綻する。人が減るなら、減る前提で勝ち方を作り直せば良いのだ。
コンビニは、かつてそれをやった。社会の“不便”を見つけ、仕組みで塗り替えた。
ならば今度は、社会の“人手不足”を、仕組みで塗り替えればいい。
日本は、人が減るから負ける国ではない。
人が減っても勝てる国になれる。
コンビニはその担い手として、大きな使命を背負っているのだ。
元記事:移民と社会:「排外主義は怖い」 外国人規制強化、コンビニ大手首脳が抱く危機感 | 毎日新聞