面接官ガチャで学生呼び込む企業も

採用で企業は衰退する──「くじ引き型」ではない、日本に必要な人材戦略とは(2025.3.25)

採用で企業は衰退する──「くじ引き型」ではない、日本に必要な人材戦略とは

「面接官を学生が選ぶ時代」の虚構

“学生が面接官を選ぶ”という一見ユニークな採用スタイルが話題を集めていますが、そうした表面的な取り組みの裏で、日本の採用の本質は何も変わっていません。

依然として日本企業の多くは、「雰囲気」「印象」「フィーリング」に頼る**“くじ引き型採用”**を続けています。企業は大量に学生を集め、「何となく優秀そう」「感じがいい」といった曖昧な判断で採用する。これはまさに、鉱山で砂金をふるうような“採掘的発想”に過ぎません。

だが、対象は砂利ではなく“人”です。自分が「とりあえずの一人」として選ばれたと感じれば、誇りも責任感も持ちづらくなります。そして結果として、志のある人材ほど離れ、残るのは“会社に合わせるだけの人”ばかりになっていきます。


日本型採用の何が問題なのか?

多くの日本企業では、以下のような構造的課題が存在します。

1.職務内容が曖昧なまま採用

  • 配属先や仕事内容は入社後に決まることが多く、スキルマッチの概念がない。
  • 学生は「頑張ります」としか言えず、企業は「ポテンシャルで見ている」と曖昧に濁す。

2.採用=人集め、成長設計なし

  • 「入ってから育てればよい」と言いつつ、育成計画や配置戦略は曖昧。
  • 結果的に育成責任を放棄した“放任状態”となり、早期離職につながる。

3.成果や能力よりも“空気を読む力”が重視されがち

  • 面接は“同調圧力”の場となり、個性や専門性が見られない。
  • 採用者自身が「自分がなぜ選ばれたのか」を理解できず、モチベーションを持ちにくい。

欧米の採用文化はどう違うのか?

欧米、とりわけアメリカやドイツ、北欧諸国の採用は、構造そのものが異なります。「誰を採るか」は戦略的意思決定であり、**採用とは“精密なマッチング行為”**なのです。


◆ アメリカ:ジョブディスクリプション(職務記述書)ベースの採用

アメリカでは「このポジションで、何を、どのレベルで、どれだけ達成すべきか」が明文化されたジョブディスクリプション(JD)に基づき、採用が行われます。たとえ新卒であっても、「ビジネスアナリスト」や「マーケティング・アシスタント」など職種単位での採用が前提です。

👉 結果として:

  • 学生は「自分がこのポジションにどう貢献できるか」を具体的に準備
  • 企業は「その職務に合うかどうか」で合理的に判断
  • 入社後のミスマッチが少なく、早期から即戦力化が可能

◆ ドイツ:デュアルシステム(職業教育と実務の融合)

ドイツでは、高校卒業後に企業と職業学校を併用する**「デュアルシステム」**が普及。若者は早くから実務に関わり、企業は必要な人材像を明確にした上で受け入れます。

👉 結果として:

  • 学生時代から「社会人としての責任感」が醸成される
  • 企業は“磨く”のではなく“すでに磨かれた人材”を活かす段階に入れる
  • 採用時点で即戦力性が高い

◆ スウェーデン・オランダ:対話重視のカルチャーフィット採用

北欧諸国では、「カルチャーや価値観の共有」が重視されます。企業と応募者が対話を通じて、「互いに育ち合える関係かどうか」を時間をかけて見極めます。

👉 結果として:

  • 応募者は「自分がどこで価値を出せるか」を明確に表現
  • 企業も「この人にどう成長してもらいたいか」を伝える
  • 双方の納得感が高く、離職率が低い

◆ 共通して言えるのは…

欧米では、採用とは「運」や「印象」ではなく、明確な戦略と設計に基づく行為であること。
企業が「どんな人材が、どの仕事で、どんな成果を出すべきか」を描いた上で、個々の応募者と向き合っている点が決定的に違います。


なぜこの差が“国家レベルの生産性の違い”を生むのか?

採用とは、企業にとっての“未来への投資”です。にもかかわらず、日本ではその投資判断が曖昧で、期待値も明確でないため、育成の設計も曖昧になります。こうした採用の積み重ねが、結果として以下のような問題を引き起こします。

  • 成果主義が根付かない
  • 成長の手応えが得られない
  • 人が辞めやすく、残る人材の質が下がる
  • 組織の生産性が低迷する

人材活用の非効率が、企業力の低下を招き、それが国家の競争力を直接下げていくのです。


採用とは“信頼の契約”であるべき

これからの日本に必要なのは、「ポテンシャル採用」という名の曖昧さではなく、役割と責任の明示された採用です。企業は学生に対して、以下のような姿勢を示す必要があります。

  • あなたをなぜ採りたいのか
  • どんな仕事で、どのように力を発揮してほしいのか
  • そのために、どのように成長してもらうのか

学生もまた、「自分はなぜその企業を選ぶのか」「何を提供できるのか」を明確に考える。
採用とは“選考”ではなく、“信頼の交換”であるべきです。


結論:変わるべきは、企業の構造そのもの

「最近の若者はやる気がない」
それは本当に若者の問題でしょうか?
自分が必要とされている理由が不明確な企業に、本気になれる若者は少ないだけです。

採用とは、単なる入口ではなく、組織全体の戦略と人材観の象徴です。
ここが変わらなければ、どれだけ施策を重ねても“人が活きる社会”にはなりません。

変わるべきは学生ではない。
企業の採用構造と、人への向き合い方そのものです。

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