

退職代行の裏にある「虚飾の採用」問題──企業文化の惰性が若者の即時離職を生む理由
はじめに:退職代行が動く入社式当日という現実
2025年新卒社員の入社式当日に、退職代行サービスが複数の依頼を受けた――。このニュースは、SNSを中心に大きな注目を集めました。
「甘い」「根性がない」と片づけられる声も多い一方で、その背景には見逃せない構造的な問題が潜んでいます。
それは、企業側の「虚飾の採用」体質、つまり実態とかけ離れた演出や情報操作を含んだ採用活動です。そしてその源泉には、いまだに根強く残る時代遅れの企業文化があります。
本記事では、なぜこうした虚飾の採用が今も残り、若者の即時離職を招くのか。さらに、それが企業にとってどれほどの損失となり、最終的に日本経済にまで影響するのかを、以下の観点から掘り下げていきます。
1. 虚飾の採用とは何か?
「虚飾の採用」とは、以下のような特徴を持つ採用活動の総称です。
- 実際の業務内容や人間関係、働き方の厳しさを伏せる
- 魅力的なビジョンやキャッチコピーを前面に出し、課題を隠す
- 採用パンフレットや説明会では「会社のよい面」のみを強調
- 面接でも“聞きたいこと”だけを尋ね、現場のリアルを伝えない
- 入社後の部署や役割が不透明なまま「内定」を出す
こうした採用は、企業にとっては“効率よく人を集める手段”かもしれませんが、求職者にとっては誤解と期待外れの温床になります。
2. 「だまし討ち」の構造と、古い成功体験の呪縛
多くの企業がこのような採用慣習から脱却できない背景には、以下のような歴史的・文化的構造があります。
● バブル期~終身雇用時代の成功体験
- 一括採用 → 長期育成 → 社員の忠誠 → 経営の安定
このモデルに最適化された採用は、とにかく若者を囲い込むことが目的でした。
その結果、「とりあえず内定を出して、あとは現場で鍛えればいい」という発想が広がり、採用の質より量が重視されるようになったのです。
● 惰性による文化の継続
- 制度は変われど、価値観は変わらず
いくら世の中が「ジョブ型」「リモート」「ワークライフバランス」と叫んでも、現場の上司や採用担当者の頭の中は昭和のまま、というケースも少なくありません。
3. 入社初日退職は「異常」ではなく「必然」
入社して即座に辞める――確かにインパクトは強いですが、これは突発的な現象ではなく、企業の虚飾と求職者の現実がズレた結果です。
たとえば、退職代行サービス「モームリ」に寄せられた退職理由には以下のようなものがあります:
- 入社式で社長が怒鳴りつけるなど、人格否定レベルの対応
- 研修で脅しのような言葉を浴び、自信を喪失
- 想像と現実の乖離から鬱状態になる
- 聞いていた仕事とまるで違い、やりがいが見出せない
これらの多くは、「聞いていた話と違った」というギャップの爆発に過ぎません。
問題の根は、企業側の誠実さの欠如にあるのです。
4. なぜ企業は変わらないのか?
多くの企業が「このままではダメ」と内心思いながらも、採用手法を変えられない理由には、以下のような現実があります。
Ⅰ.採用担当者の評価が“数”に偏っている
- 何人採ったか、有名大学出身者が何人か
- 現場が求めているスキルとの一致より、「母集団の確保」が重視
Ⅱ.採用を“広報活動”と誤認している
- 採用ページはキラキラ、会社説明会はエンタメ化
- 実態を知った現場社員との落差が、入社後の離職を招く
Ⅲ.採用を「片務的契約」と見なしている
- 入社=勝ち、辞めたら自己責任という発想
- この考え方では、信頼関係のある長期雇用は成立しない
5. 変革に成功している企業の実例
一方で、誠実な採用に転換し、成果を上げている企業も着実に現れています。
サイボウズ
- 課題や合わない人の特徴まで開示
- 離職率が28%→4%へ大幅改善
メルカリ
- 価値観の一致を重視し、スキルよりカルチャーフィットを優先
- 現場社員との1on1面談などでリアルな情報を共有
ココナラ
- 現場主導の採用体制
- 面接は「飾らない本音」が最重要評価軸
6. 虚飾なき採用が企業と日本を変える
採用において最も重要なのは、ミスマッチを減らし、共に働く覚悟と期待を共有することです。
● 虚飾なき採用のメリット
- 定着率の向上(教育コストの削減)
- エンゲージメントの向上(モチベーションと生産性の向上)
- 企業イメージの向上(学生・転職者からの信頼獲得)
● 社員の力が最大化されると…
- 売上や事業成長が安定
- 若手の離職が減り、次世代育成のスピードが上がる
- 結果として、企業体力がつき、日本経済全体が活性化
まとめ:採用とは経営そのもの
今後、企業が持続的に成長するためには、「採用を単なる事務作業や広報活動と見なす時代」は終わらせなければなりません。
採用とは、企業の未来をつくる“戦略的経営行為”です。
虚飾を脱ぎ捨て、誠実に人と向き合い、「この会社で働く意味」を共に語れる採用こそが、企業の力を根底から引き出します。そして、それは巡り巡って、日本全体の活力と再生に結びついていくのです。
今こそ、惰性から脱却し、“本気の採用”へと舵を切るべきときではないでしょうか。
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202504020000035.html