

女性管理職は“無理やり”登用すべきか?
――ジョブ型社会に求められる“評価の公平性”とは
「女性管理職を無理やりにでもつくるべきだ」という主張について、私は根本的な違和感を覚えます。
管理職は“適性”と“意思”で選ばれるべきであり、性別を理由とした登用は逆差別ですらあると考えるからです。
もちろん、これまでの日本社会が女性にとって平等な環境だったとは言いません。制度や風土の不備、固定観念、出産育児とキャリアの両立など、障壁があったのは事実です。しかし、その問題意識が「女性に枠を与える」という方向へと行きすぎていないか——その問いを、いま改めて投げかけたいと思います。
🔹かつての日本社会は女性にとって不利だった
昭和から平成初期にかけて、女性の就業機会は限定的で、特に正社員としての継続就労や昇進の機会は著しく限られていました。結婚・出産を機に退職する「寿退社」が当たり前とされ、キャリア形成を重ねること自体が困難だった時代背景があります。
- 長時間労働・転勤前提の働き方
- 育児支援制度の不備
- 家庭役割の固定観念(家事・育児=女性)
こうした環境の中で、能力ある女性が管理職を目指すという選択自体が“異端”とされていたのです。
🔹制度は整ってきた――今の時代は「やりたい人はやれる」
一方で、男女雇用機会均等法の整備や、働き方改革、育休制度の充実などにより、現代は「やろうと思えばできる」社会に変わってきました。
実際に、
- 管理職として活躍する女性は増加傾向にあり、
- 企業によっては管理職比率の目標値を達成しているケースもあります。
もちろん、環境面で完全に整っているとは言えません。しかし、登用される“道”自体は制度的にはすでに開かれている。
つまり、「女性だから登用されない社会」はすでに過去のものになりつつあるということです。
🔹それでも「女性をもっと登用せよ」と求められる背景
それにもかかわらず、政府や企業、メディアの一部からは、いまだに「女性の管理職比率を上げるべきだ」「無理やりにでも登用すべきだ」といった主張が聞かれます。そこには以下のような理由があると考えられます。
- 同質性のリスク(男性ばかりの意思決定)
- 多様性による創造性向上
- 国際的な評価基準(SDGs・ESG投資対応)
- 見える形での改革を急ぐプレッシャー
しかし、比率を追うあまりに“評価の公平性”を損ねては本末転倒です。
🔹ジョブ型雇用の視点から見るべき登用の原則
ジョブ型雇用とは、「ポジションに必要な要件」を基に、「最も適任な人材を選抜する」仕組みです。
アメリカなどの欧米社会ではこの方式が基本であり、
- 管理職になりたい人は手を挙げる(内部公募)
- 該当者がいなければ外部から募集をかける
- 経験・実績・知識・特性で判断し、性別は加味しない
このシンプルで透明なプロセスこそが、「誰でもチャンスがある」社会の基盤であり、まさに“機会の平等”が成立している状態なのです。
🔹「やりたくない人にやらせる」のは組織にとってマイナス
男女を問わず、「管理職になりたくない」と考える人は一定数います。
これは性差の問題ではなく、適性・人生観・ライフステージによる選択です。
やりたくない人材に、数合わせのために登用することは、本人にとっても、組織にとっても大きな損失です。
- 意欲がないまま任命されることで本人が疲弊する
- 周囲も納得せず、協働に支障を来す
- 評価制度全体の信頼性が揺らぐ
だからこそ、「やりたい人間が、適性を持って、フェアに選ばれる」環境を整えることこそが、企業の成長に直結するのです。
🔹“最初の一人”の意義は否定しない
このような立場からも、私は「象徴的に女性を登用すること」の意義を全否定するつもりはありません。
- モデルケースとして「私にもできる」と思わせる効果
- 企業文化を変える突破口になる可能性
- 世代を超えたキャリア観の多様化
ただし、それは“女性だから登用する”のではなく、“適性ある個人が女性だった”という構図であるべきです。そして、その登用には十分な説明責任が伴い、周囲からも納得される形でなければなりません。
🔹日本社会の課題:評価と登用の“透明性”の欠如
日本企業が女性登用で本当に改善すべきなのは、次のような点です。
✅ 問題点
- 評価基準が曖昧
- 管理職になる道筋が不透明
- 社内公募や打診の文化が未整備
- 「手を挙げると浮く」空気がある
✅ 解決の方向性
- 職務定義の明確化(ジョブディスクリプション)
- 社内外公募のルール整備
- 評価基準と昇進要件の明示
- 管理職としての役割期待と支援制度の整備
こうした整備が進めば、「女性だから管理職にしよう」ではなく、「誰であれ、適性ある人が管理職になる」自然な仕組みが生まれます。
🔹本当の「女性活用」とは何か?
「女性活用」とは、“特別扱い”することではありません。
それは、女性を一括りにした“活用対象”として見る時点で、むしろ差別的な見方すら含んでいます。
本来の「女性活用」とは、以下のような環境のことです:
- やりたいと意思表示できる空気がある
- 性別に関係なく職務に挑戦できる
- 公平なプロセスで登用され、評価される
- 必要な支援が整っている(育児・介護等)
そしてその環境は、“女性のため”に限らず、すべての働く人にとって健全な職場の条件となるはずです。
🔹結論:「評価の公平性」こそが、社会と企業の土台
現在の日本では、女性が管理職になることは“できる”環境が整いつつあります。
それでもなお、女性管理職比率という「数字」だけを追いかけてしまうと、個人の意志や適性、評価の妥当性といった重要な軸が見失われかねません。
求められるのは、「性別による優遇」ではなく、「評価の公平性と登用の透明性」です。
それこそが、ジョブ型社会における真の意味での“多様性”であり、“女性活用”の本質だと私は考えます。