

定時退社する人は出世できないのか?
日本企業の評価制度に潜む思考停止の構造
はじめに:まだこんな時代錯誤が記事になるのか?
「定時で帰る人は出世しにくい」
こんなフレーズを、現役の“エリートメガバンク行員”が書き、それをメディアが堂々と記事にする。
これは笑い話ではなく、日本企業の根深い“構造的な問題”をあらわにしている。
本記事ではこの考え方に真っ向から異を唱え、「評価とは何か」「働くとは何か」を問い直したい。
1. 定時退社=出世できないは“評価の不在”を意味する
まず押さえておきたいのは、評価とは「同じ条件下で競うこと」によって成り立つという大前提だ。
- 同じ業務時間で
- 同じ職責のもと
- 同じリソースを用いて
この条件でこそ、成果の違いが「能力」として浮かび上がる。
定時退社する社員と、毎日2時間残業する社員を並べて“結果”だけで比較するのは公平ではない。
これはまさに、サッカーで90分と100分の試合時間で得点数を比べているようなものだ。
同じ土俵で評価されなければ、公平な競争など存在しない。
2. 長時間労働を「美徳」とする価値観がもたらした歪み
日本企業には、「長く働くことが偉い」という根深い文化がある。
その背景にあるのは以下のような価値観だ:
- 時間をかけた仕事=頑張っている
- 上司との雑談も“勤務のうち”
- 残っている人は頼りにされやすい
- 会議に多く出席している人は貢献している
これらはどれも“成果ではなく、姿勢や印象で評価する”文化である。
これは、企業が「明確な評価軸を持っていない」証拠でもある。
3. 「勢いで何とかなる時代」はもう終わった
戦後復興期、高度経済成長期、バブル期、日本には“勢い”があった。
- 多少評価が曖昧でも組織全体が伸びていた
- 効率が悪くても売上が上がった
- 無駄があっても会社が潰れることはなかった
しかし今は違う。
成長は鈍化し、競争は激化し、人口は減り、コストは上がり、リソースは限られている。
もはや「勢い」ではカバーできないのだ。
この状況下で、なおも「頑張っている風の人」を評価するような文化は、
結局のところ自らの首を絞めるような愚行である。
4. メガバンクをはじめとする大企業の“思考停止”構造
今回のような価値観が出てくる背景には、大企業に蔓延する思考停止構造がある。
特に日本のメガバンクに見られる傾向:
- 年功序列と序列意識
- 成果の見えにくい業務構造
- 効率よりも安定を優先するカルチャー
- 「前例踏襲」が重視される風土
結果として、「残っている」「呼ばれたらすぐ動ける」「上司と接点が多い」という
“使いやすさ”が評価にすり替わる。
だが、これは評価ではない。ただの“都合の良い駒”として扱われているにすぎない。
5. 人員削減・効率化が進む中での矛盾
メガバンクは2017年以降、数万人規模の人員削減を発表してきた。
- 三菱UFJ:10,000人相当
- みずほ:19,000人規模
- 三井住友:4,000人以上
これらはすべて「収益性の悪化」「業務効率化」「デジタル化推進」によるものだ。
それにもかかわらず、未だに“長く会社にいる人間を評価する”文化を肯定するのは、
完全な経営思想と現場文化のねじれである。
6. 評価制度の問題は、経営そのものの問題
この問題は単なる「人事評価のミス」ではない。
経営の本質的な失敗である。
- 成果とは何かを定義できていない
- 評価指標が時間や印象に偏っている
- 評価者が育っていない
- 数値と感情の混在した評価基準
これでは優秀な人材が離れ、組織の生産性は下がり、再生のチャンスすら失われる。
7. 新時代に求められる「評価の原則」
これからの時代に必要な評価制度とは何か?
以下のポイントが基本になる:
✅ 新しい評価の原則
- 時間ではなく成果で評価する
- 業務範囲・リソース・就業時間を揃えて比較する
- プロセスよりもアウトプットを重視する
- 「姿勢」ではなく「実績」に基づく昇進制度
- 上司の“感覚評価”を制度的に排除する
- フィードバックは可視化・定量化されるべき
これが実現できる企業こそが、これからの「生き残る組織」となる。
8. しがらみに縛られない新しい企業への期待
古い企業文化を守り続ける組織に、もはや未来はない。
頼るべきは、過去に縛られない柔軟な企業、新興勢力、変化を恐れない組織である。
期待されるのはこうした企業:
- 社歴や学歴にこだわらず成果で評価する
- ワークライフバランスと収益性を両立する
- 管理職が常に学び、変化に対応している
- 社員の自律性を尊重し、過剰な監視をしない
そういった企業こそ、これからの時代を牽引していく存在となるだろう。
9. メディアの責任:もう“古い働き方”を称えるな
最後に忘れてはならないのが、こうした価値観を“垂れ流している”メディアの責任だ。
- 読者に寄り添うふりをして、思考停止を肯定する
- 古い働き方を“リアル”として再生産する
- 若者や改革派の足を引っ張る
こうしたメディアこそが「仕事ができない」存在である。
時代が変わった今こそ、メディアには新しい価値観を提示する責任がある。
安易な“エリート”礼賛や“残業信仰”に加担してはならない。
結論:今こそ評価制度を“設計”し直すとき
- 定時退社する人間が不当に評価されない組織へ
- 限られた時間で成果を出す人材が真に報われる組織へ
- 働く時間ではなく、価値で競う時代へ
そして何より、「古い価値観を当然とする人間」が出世する社会ではなく、
“変化を自覚し、思考し、構造を変えようとする人間”がリーダーとなる社会へと舵を切らなければならない。
評価制度とは、企業の哲学そのものである。
未来を選ぶのは、働く一人ひとり、そしてそれを支える仕組みである。
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