上司が知りたい伝え方の工夫とは

ハラスメントの本質は「言葉の暴力」ではなく「関係性の崩壊」(2025.4.8)

ハラスメントの本質は「言葉の暴力」ではなく「関係性の崩壊」

「若いんだから、飛び込み営業に行ってきて」——この言葉が“エイジハラスメント(年齢差別)”として問題視される時代になりました。
しかし、問題なのは言葉そのものではありません。**問題は“意図と受け取りのズレ”**です。

現代の職場では、「言葉の設計」そのものがマネジメント能力として問われる時代に突入しました。
本稿では、単なるハラスメント対策にとどまらず、

  • 言葉の構造と伝達のギャップ
  • 褒め言葉が地雷になる時代背景
  • 職場デザインとコミュニケーションの整合性
  • 言葉を盾にする部下のリスクと判断軸

といった広範な視点から、現代型マネジメントと職場環境の本質的な変化を読み解きます。


1. ハラスメントに変わる「褒め言葉」と「正当な業務指示」

■ 一見ポジティブな言葉が、なぜ地雷になるのか

以下はすべて「良かれと思って」発した言葉です。しかし、現代ではハラスメントと捉えられる可能性があります。

  • 「若いのにしっかりしてるね」
  • 「女性だけどリーダー向きだね」
  • 「男にしては優しいね」
  • 「最近の子にしては礼儀正しい」

これらは 褒めているようで、“属性”を前提にしたラベリングを行っており、受け手には「自分を見てくれていない」と感じさせてしまう危険があります。

■ 正当な指示が“言い方一つ”で不信を招く

たとえば、「飛び込み営業に行ってきて」は業務上適切な指示です。しかしそれに「若いんだから」という枕詞をつけた瞬間、指示の論拠が業務上の必要性ではなく属性(年齢)にあると受け取られてしまう。


✅ 意図と表現のギャップを埋める「言葉の再設計」が必要

NG:

「若いんだから、まずは飛び込み営業ね」

OK:

「経験を積むには、まず現場に触れるのが一番。今日は飛び込み営業から始めよう」


2. 「何でもハラスメント化」の落とし穴と適性問題

■ ハラスメントを“盾”にしてはいけない

最近では、本来正当な指導や業務命令に対しても、「ハラスメントだ」と反発する例が散見されます。

  • 嫌な仕事を避けるために“被害者ポジション”を取る
  • 言葉尻を取って、指示の正当性ごと否定する
  • 自己成長の責任を“伝え方の問題”にすり替える

このような態度は、本人の職務適性組織適応力の欠如を意味します。


✅ 本来必要なのは、「言葉の配慮」と「職務遂行責任」の切り分け

  • 上司には、感情を乗せずに構造的に伝える責任
  • 部下には、伝え方と業務内容を分けて受け止める責任
  • 組織には、「これはハラスメントではない」と毅然と判断できる体制

3. 「家庭的な職場」から「合理的な職場」への移行

■ 日本型職場は“曖昧さ”と“空気”に支えられてきた

  • 島型デスクで「常に誰かに見られている」
  • 表情と空気を読んで意思疎通
  • 飲みにケーションで関係を補強
  • 年功序列と社歴で上下関係が自然に成立

これらは、曖昧さを前提にした「日本らしい職場」でした。

■ しかし今、価値観は欧米型に近づいている

  • 言葉で明示的に伝える
  • 評価は成果とスキルベース
  • 属性や私生活への言及はNG
  • “組織の顔色”ではなく“業務の要否”で判断

✅ 職場環境・人間関係・オフィス設計も変える必要がある

旧来型:

  • 島型デスク、固定席
  • 「空気を読む」が文化
  • 上司=親代わり

新型:

  • パーテーションやフリーアドレス
  • 明確な役割分担と成果評価
  • 上司=支援者・評価者

4. 管理職に求められる「言葉のミニマリズム」と「評価の構造化」

■ これからの上司に必要なのは、“しゃべる力”ではなく“設計する力”

「余計なことは言わない」+「必要なことだけを伝える」
このバランスが取れなければ、信頼も、育成も、成り立たなくなります。


✔️ 実務で使える「枕詞」NG例と改善例

NG枕詞なぜ問題か改善例
若いんだから~年齢ベースの押し付け経験を積むには、まず~
女の子だけど~性別に基づく偏見この業務にはあなたの丁寧さが活きる
この年でそれは~人生観の押し付けこれまでの経験をどう活かせるか考えよう
最近の子は~世代ラベリングあなた自身はどう考える?

5. ハラスメント対策を“機能不全”にしないために

■ 組織として明確な「線引き」が必要

  • ハラスメントとは何か
  • 業務命令の正当性とは何か
  • 教育と強制の境界とは何か

これらを“感情論”ではなく“制度と規律”で運用できるかが鍵です。


✔️ 実務レベルで整備すべき項目

  • ハラスメント相談の窓口を独立させる
  • 調査フローと記録を透明化する
  • 部下による“指摘”の正当性を冷静に精査
  • 「これは業務であり、ハラスメントではない」と明示するガイドライン整備

6. まとめ:職場の信頼を再構築する「言葉と構造」の改革

現代のハラスメント問題は、単なる“悪意の暴走”ではなく、
「伝え方の未熟さ」と「受け取り方の混乱」が生んだ構造的問題です。

だからこそ、必要なのは次のような複眼的アプローチです:


✅ 上司側がやるべきこと

  • 言葉の選び方をアップデートする
  • 指示の根拠を属性ではなく業務に置く
  • 成果と評価の可視化に努める

✅ 部下側が意識すべきこと

  • 感情と業務内容を切り分けて受け取る
  • 違和感を伝える際にも根拠と論理を持つ
  • 守られるだけでなく、自ら育つ姿勢を持つ

✅ 組織が整備すべきこと

  • 線引きを明確にするガイドライン整備
  • 管理職向けの“言葉の設計”研修の導入
  • 相談と判断が混同されない体制の構築

人が育ち、信頼が循環する組織とは、互いの意図を汲み取り、言葉を信頼できる環境です。
そのためには、ハラスメントだけに焦点を当てるのではなく、職場構造・人間関係・業務制度の三位一体の改革が不可欠です。

いま求められているのは、「優しさ」だけではありません。
伝える覚悟と、受け止める成熟、そして制度として支える組織の冷静さ
この3つをそろえることで、ハラスメントという“関係性の崩壊”を越えた、生産性と人間性が共存する職場が生まれるのではないでしょうか。

「若いんだから飛び込み営業行ってきて」新卒社員に言ったら“エイハラ”で通報された 上司が知りたい「伝え方の工夫」とは【社労士が解説】|まいどなニュース

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