

ハラスメントの本質は「言葉の暴力」ではなく「関係性の崩壊」
「若いんだから、飛び込み営業に行ってきて」——この言葉が“エイジハラスメント(年齢差別)”として問題視される時代になりました。
しかし、問題なのは言葉そのものではありません。**問題は“意図と受け取りのズレ”**です。
現代の職場では、「言葉の設計」そのものがマネジメント能力として問われる時代に突入しました。
本稿では、単なるハラスメント対策にとどまらず、
- 言葉の構造と伝達のギャップ
- 褒め言葉が地雷になる時代背景
- 職場デザインとコミュニケーションの整合性
- 言葉を盾にする部下のリスクと判断軸
といった広範な視点から、現代型マネジメントと職場環境の本質的な変化を読み解きます。
1. ハラスメントに変わる「褒め言葉」と「正当な業務指示」
■ 一見ポジティブな言葉が、なぜ地雷になるのか
以下はすべて「良かれと思って」発した言葉です。しかし、現代ではハラスメントと捉えられる可能性があります。
- 「若いのにしっかりしてるね」
- 「女性だけどリーダー向きだね」
- 「男にしては優しいね」
- 「最近の子にしては礼儀正しい」
これらは 褒めているようで、“属性”を前提にしたラベリングを行っており、受け手には「自分を見てくれていない」と感じさせてしまう危険があります。
■ 正当な指示が“言い方一つ”で不信を招く
たとえば、「飛び込み営業に行ってきて」は業務上適切な指示です。しかしそれに「若いんだから」という枕詞をつけた瞬間、指示の論拠が業務上の必要性ではなく属性(年齢)にあると受け取られてしまう。
✅ 意図と表現のギャップを埋める「言葉の再設計」が必要
NG:
「若いんだから、まずは飛び込み営業ね」
OK:
「経験を積むには、まず現場に触れるのが一番。今日は飛び込み営業から始めよう」
2. 「何でもハラスメント化」の落とし穴と適性問題
■ ハラスメントを“盾”にしてはいけない
最近では、本来正当な指導や業務命令に対しても、「ハラスメントだ」と反発する例が散見されます。
- 嫌な仕事を避けるために“被害者ポジション”を取る
- 言葉尻を取って、指示の正当性ごと否定する
- 自己成長の責任を“伝え方の問題”にすり替える
このような態度は、本人の職務適性や組織適応力の欠如を意味します。
✅ 本来必要なのは、「言葉の配慮」と「職務遂行責任」の切り分け
- 上司には、感情を乗せずに構造的に伝える責任
- 部下には、伝え方と業務内容を分けて受け止める責任
- 組織には、「これはハラスメントではない」と毅然と判断できる体制
3. 「家庭的な職場」から「合理的な職場」への移行
■ 日本型職場は“曖昧さ”と“空気”に支えられてきた
- 島型デスクで「常に誰かに見られている」
- 表情と空気を読んで意思疎通
- 飲みにケーションで関係を補強
- 年功序列と社歴で上下関係が自然に成立
これらは、曖昧さを前提にした「日本らしい職場」でした。
■ しかし今、価値観は欧米型に近づいている
- 言葉で明示的に伝える
- 評価は成果とスキルベース
- 属性や私生活への言及はNG
- “組織の顔色”ではなく“業務の要否”で判断
✅ 職場環境・人間関係・オフィス設計も変える必要がある
旧来型:
- 島型デスク、固定席
- 「空気を読む」が文化
- 上司=親代わり
新型:
- パーテーションやフリーアドレス
- 明確な役割分担と成果評価
- 上司=支援者・評価者
4. 管理職に求められる「言葉のミニマリズム」と「評価の構造化」
■ これからの上司に必要なのは、“しゃべる力”ではなく“設計する力”
「余計なことは言わない」+「必要なことだけを伝える」
このバランスが取れなければ、信頼も、育成も、成り立たなくなります。
✔️ 実務で使える「枕詞」NG例と改善例
NG枕詞 | なぜ問題か | 改善例 |
---|---|---|
若いんだから~ | 年齢ベースの押し付け | 経験を積むには、まず~ |
女の子だけど~ | 性別に基づく偏見 | この業務にはあなたの丁寧さが活きる |
この年でそれは~ | 人生観の押し付け | これまでの経験をどう活かせるか考えよう |
最近の子は~ | 世代ラベリング | あなた自身はどう考える? |
5. ハラスメント対策を“機能不全”にしないために
■ 組織として明確な「線引き」が必要
- ハラスメントとは何か
- 業務命令の正当性とは何か
- 教育と強制の境界とは何か
これらを“感情論”ではなく“制度と規律”で運用できるかが鍵です。
✔️ 実務レベルで整備すべき項目
- ハラスメント相談の窓口を独立させる
- 調査フローと記録を透明化する
- 部下による“指摘”の正当性を冷静に精査
- 「これは業務であり、ハラスメントではない」と明示するガイドライン整備
6. まとめ:職場の信頼を再構築する「言葉と構造」の改革
現代のハラスメント問題は、単なる“悪意の暴走”ではなく、
「伝え方の未熟さ」と「受け取り方の混乱」が生んだ構造的問題です。
だからこそ、必要なのは次のような複眼的アプローチです:
✅ 上司側がやるべきこと
- 言葉の選び方をアップデートする
- 指示の根拠を属性ではなく業務に置く
- 成果と評価の可視化に努める
✅ 部下側が意識すべきこと
- 感情と業務内容を切り分けて受け取る
- 違和感を伝える際にも根拠と論理を持つ
- 守られるだけでなく、自ら育つ姿勢を持つ
✅ 組織が整備すべきこと
- 線引きを明確にするガイドライン整備
- 管理職向けの“言葉の設計”研修の導入
- 相談と判断が混同されない体制の構築
人が育ち、信頼が循環する組織とは、互いの意図を汲み取り、言葉を信頼できる環境です。
そのためには、ハラスメントだけに焦点を当てるのではなく、職場構造・人間関係・業務制度の三位一体の改革が不可欠です。
いま求められているのは、「優しさ」だけではありません。
伝える覚悟と、受け止める成熟、そして制度として支える組織の冷静さ。
この3つをそろえることで、ハラスメントという“関係性の崩壊”を越えた、生産性と人間性が共存する職場が生まれるのではないでしょうか。
「若いんだから飛び込み営業行ってきて」新卒社員に言ったら“エイハラ”で通報された 上司が知りたい「伝え方の工夫」とは【社労士が解説】|まいどなニュース