

AI就活で露呈する「企業の採用力の劣化」──学生を責める資格は誰にあるのか
AI時代における企業の採用力が、今、劣化している。
この事実をまず導入で明言しておこう。にもかかわらず、多くの企業はその事実を直視することなく、就活生の「AI活用」や「テンプレ回答」ばかりを批判している。自らの非を棚に上げて、学生の姿勢だけを責める姿勢こそ、ちゃんちゃらおかしい。
学生がAIでガクチカを作った? MBTIで自己分析した? ──だから何なのだ。AIというツールがここまで浸透しているのだから、それを想定し準備できていないほうが愚かなのである。
では、いったい何が問題なのか。本質をひとつずつ明らかにしていこう。
学生の「AI活用」はむしろ合理的な適応である
まず、学生側の行動を正しく捉えておく必要がある。
- エントリーシートをChatGPTで作成する
- 自己分析をMBTIや診断ツールで行う
- 想定問答をAIにシミュレートさせて練習する
──これらはすべて、情報時代における“最適化行動”である。
そもそも就活とは、「内定を取る」ことが最大の目的であり、それはつまり“通過”が正義のゲームである。だからこそ、準備で使える手段は使い尽くして当然であり、ツールを駆使するのはむしろ知的な姿勢ですらある。
「AIで用意された文章を話している」「浅い」といった批判が生まれるが、それは“AIでも通る面接”をしている側にこそ責任があるのではないか。
企業側は何をしてきた?──テンプレ質問を繰り返すだけ
一方、企業側の採用活動はどうか。
2025年にもなってなお、
- 「学生時代に力を入れたことは?」
- 「あなたの強み・弱みは?」
- 「なぜ当社を志望したのですか?」
といったテンプレ質問を繰り返し、それに対して「個性がない」「オリジナリティが足りない」と文句を言っている。どの口が言っているのか、である。
生成AIが存在する時代に、その程度の問いで何が見抜けるというのか。
むしろ、個性を押しつぶしているのは企業側の“画一的な質問設計”のほうである。
学生と企業の構造的比較
以下は、就活における学生と企業の立場・行動・課題をまとめた表である。両者が“効率”という名のもとに動いていることがよくわかる。
項目 | 学生 | 企業 |
---|---|---|
目的 | 内定を取ること | 組織に合う人材を選ぶこと |
行動原理 | AIやMBTIで準備を最適化 | 質問テンプレを流用し効率優先 |
問題点 | AIによる回答で個性が薄れると批判される | そもそも質問が没個性、深掘り不足 |
あるべき対応 | ツールを使いつつ、自分の言葉も準備 | AI時代を前提に、問いの再設計を行う |
ここで分かるのは、学生側が批判されている構図がそのまま企業にも当てはまるということだ。
にもかかわらず、自分たちは棚上げして「最近の若者は…」などと愚痴をこぼしているようでは、もはや論外である。
面接が「模範解答コンテスト」になっている現実
現在の面接は、“答え合わせの場”に堕している。
- 想定問答に近いか
- ロジックが通っているか
- 声が大きいか、笑顔か、明るいか
──そんな表層的な評価で「合否」が分かれているのであれば、AIに喋らせたって同じである。
採用とは、本来「人を見抜く」行為である。にもかかわらず、実際に行われているのは「作り込まれた受け答えをどれだけ自然に演じられるか」のコンテストなのだ。
求められるのは、“考えさせる問い”へのシフト
では、企業が採用力を取り戻すためには何をすべきか。
第一に必要なのは、AIでは準備できない問いを設計することである。
以下はその一例である。
- 「最近、自分の考えが否定された経験と、あなたの反応を教えてください」
- 「あなたが“努力しても報われなかった”と感じた体験は?」
- 「“人と違う”と感じた瞬間と、それをどう捉えたか」
これらの問いは、その場で思考し、自分の価値観を言語化しなければならない。テンプレ化しにくく、答えにも個性が出る。つまり「対話」が生まれる。
採用担当に必要な“プロ意識”とは何か
採用担当とは、企業の未来を左右する“責任ある職務”であるべきだ。だが現実には、以下のような状況が散見される。
- ローテーションで回ってきただけの担当が面接官
- 評価基準は属人化し、印象頼み
- フィードバックはなく、選考理由もブラックボックス
──こんな体制で「人を見抜く」などというのは笑止千万だ。
採用を「誰でもできる業務」にした瞬間から、人材の質は“運”頼みになる。
それでいて「最近の若者は使えない」などと嘆くなど、恥の上塗りである。
なぜ企業は「問いの設計」を怠るのか?
理由は明白だ。非効率だからである。
- 応募者ごとに質問を変えるのは手間
- 面接官に訓練を施すのもコストがかかる
- 対話による評価は数値化しづらい
だからこそ、多くの企業は「横一列・短時間・型通り」の選考に逃げている。
その“逃げ”が、AIでも通る就活を生み出し、結果的に「学生の質が…」と嘆くブーメランを突き刺しているのだ。
結論:変わるべきは学生ではない。企業こそが変わる必要に迫られている
AIによって、就活の構造は変わった。
- 「準備」はプロ並みに整えられる
- 「模範解答」はAIが量産する
- 「浅い」かどうかは、問いの深さによって決まる
だからこそ今、問われるのは企業である。
問いを工夫しているか?
本当に人を見ているか?
評価の根拠はあるのか?
答えられない企業は、はっきり言おう。人を評価する資格などない。
最後に──これが「企業の知性」の試金石だ
採用は、企業の知性を試される場である。
にもかかわらず、その“問いの力”すら磨こうとしない企業が、人材不足を嘆き、若者を批判するなど片腹痛い。
そんな姿勢だからこそ、日本企業は世界の成長市場から取り残されているのだ。
就活生が変わったのではない。時代が変わったのだ。
それに対応できない企業が、取り残されていく──それだけの話である。
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