

■ はじめに:合理的な問いと、ただの甘えは違う
「創業119年やってて社員が50人くらいしかいないって結構不思議なんですけど、なんでもっと大きい会社にならなかったんですか?」
この質問は、ある就活生が老舗缶メーカーの面接で発したものだ。SNSでは「失礼すぎる」という批判もあったが、問いの内容自体には一理ある。企業規模とビジネスモデルの関係、成長志向の有無に関心を持つこと自体はむしろ健全であり、経営者側も「的を射ている部分はある」と冷静に受け止めている。
問題は、この就活生ではない。
別の企業で行われた面接の場において、次のような言葉が就活生の口から発せられたという。
「会社は僕のために何をしてくれるんでしょうか?」
これは明確に線を越えている。質問の体をなしてはいても、その背景にあるのは自己中心的な姿勢と、労働を一方的な「サービス提供」だと捉える消費者的メンタリティだ。企業と従業員は等価な契約関係にあるが、それは「相互に価値を提供する」からこそ成立する。
自分が何を与えるのかを語らず、もらう話しかしない時点で、その人物は対等なパートナーではない。
さらに衝撃的なのは、その就活生が実際に採用されたという事実である。理由は「定年退職が近いから20代を確保したかった」。この判断は、採用の失敗ではない。企業としての戦略思考が崩壊している証拠だ。

■ 「入社させること」が目的になった採用
現代の日本企業において、採用の目的がすり替わっている。
本来、採用とは「組織の未来を共に築く人材を選ぶ行為」だが、いつの間にか「若手を確保すること」「とにかく人数を揃えること」が目的化している。
特に少子化と売り手市場の進行によって、「とにかく入ってもらうこと」に焦点を置く企業が増えた。そこには次のような傾向がある:
- 面接では好印象を重視
- 礼儀や姿勢よりも“元気さ”や“キャラ”を評価
- 入社後の貢献よりも“若さ”と“ポテンシャル”を期待
だがその“ポテンシャル”は、ただの願望でしかない。育つかどうかの見通しもなく、他に選択肢がないからといって、明らかに適さない人物を迎え入れる判断は、もはや賭けですらなく、損失確定のようなものだ。
■ 若さ=価値 ではない
企業が若手を採用したがる気持ちは分かる。体力、将来性、給与水準の低さ。だが、若さそれ自体は何の価値でもない。
- 若くても無礼な人材は組織を壊す
- 若くても貢献意識がなければ学ばない
- 若くても社会常識がなければ顧客との関係を破壊する
つまり、「若いから採る」は、「安いから粗悪品を買う」に等しい。
若さとは単なる属性であって、スキルでも人格でもない。採用基準として機能させるには、その若さがどう活かせるのか、という文脈が必要だ。
■ 実力も姿勢もない人材が社内外にもたらす「毒」
「会社は僕のために~」という人物が採用されたとき、企業は何を引き込んだのか? それは“若手”ではなく、“毒”である。
社内への影響:
- 不満をストレートにぶつけてくる
- 上司・先輩を「サポート要員」としてしか見ない
- 成長の機会を「面倒くさい」「やりたくない」と拒否
社外への影響:
- 顧客に対しても「納得できない」「合わない」と態度を出す
- 取引先とのトラブルをSNSで暴露
- 悪評が会社ブランドを傷つける
一人の採用ミスは、一部署を壊す。
そしてその部署は、企業の信頼と利益を蝕んでいく。
■ 「定年退職が近いから20代を確保する」の欺瞞
この発言は一見、理にかなっているようで、実は論理破綻している。
- 定年退職の穴 → 戦力としての空白
- 若手採用 → 長期的な育成が前提
つまり、即戦力が必要な状況で、未熟な人材を入れている矛盾がある。本気で戦力補充が必要なら、30代・40代の実務経験者を採用する方が理にかなっている。だが、企業はそれをせず、年齢だけで判断する。
そこにあるのは、戦略ではなく思考停止。採用の根本を履き違えた結果である。
■ 入社が目的 vs 定着が目的
| 項目 | 入社させることが目的 | 定着させることが目的 |
|---|---|---|
| 評価軸 | 年齢・印象・元気さ | スキル・価値観・関係性 |
| 面接重視点 | 好印象・話しやすさ | 誠実さ・思考の深さ |
| 採用基準 | 若いから採る | この人だから採る |
| リスク | 早期離職・社内崩壊・SNS炎上 | 配属調整や文化的すり合わせ |
| 成果 | 採用数のノルマ達成 | 定着・貢献・育成の成功 |
スキルや実力を軽視した“ポテンシャル採用”は、組織の時間とコストを浪費する。
一方、定着・貢献を前提とした採用では、現時点のスキルだけでなく「応用力」「他者との連携力」などが重視される。
採用は「育てる前提」ではなく、「育てる価値があるかどうか」を見極める行為なのだ。
■ 転職組のほうが“企業を大切にする”
転職者は「採用されたこと」に意味を見出している。
彼らは苦労して職を探し、自分を売り込み、ようやく選ばれた。だからこそ──
- 入社できたことに感謝がある
- 周囲と協調する意識が強い
- 離職リスクが低く、貢献意識が高い
就活生とは違い、「企業に選ばれる」という現実の重みを理解している。
彼らの帰属意識は、“若いから選ばれた”と錯覚している学生よりはるかに強い。
■ 採用とは、「誰を入れるか」よりも「誰を落とせるか」で決まる
採用は選抜だ。選別だ。
「うちに合わない」と思えば、どれだけ若くても、学歴が高くても、即戦力でも、毅然と断る覚悟が企業に必要である。
- 自社文化に合わない
- 顧客対応に不安がある
- 成長よりも不満を優先している
こうした人物は、採らない。
その明確な“線引き”があってこそ、本当に必要な人材が残る。
■ 結論:「甘え」を採った企業に未来はない
「会社は僕のために~」という発言を容認し、採用までした企業がある。
その企業は、将来「なぜ辞めたのか」「なぜ現場が荒れているのか」に頭を抱えるだろう。
だがそれは、採用の時点で始まっていた崩壊のプロローグである。
採用とは、「入口を開けること」ではない。
その人を受け入れたとき、組織がどう変わるかを予測し、責任を取る覚悟で行うべきなのだ。
見るべきは年齢ではなく、姿勢と関係性と未来への責任である。
老舗企業に「なぜもっと大きい会社にならなかった?」就活生の質問がSNSで賛否…「会社は僕に何をしてくれるのか?」令和の“モンスター就活生”に採用担当者の嘆き | 集英社オンライン |