

序章|リーダー論では解けない──疲弊の原因は“会社の構造”にある
「多くのリーダーは”連絡がつくこと”を有能さと勘違いしている」──元記事はそう問題提起している。確かに、深い思考よりも即レス、即対応、即決を評価する企業文化が蔓延していることは否定できない。だが、ここで問うべきは別の点だ。
なぜ“即応するリーダー”が評価されるのか。
なぜ“常時接続”が正義になってしまうのか。
それはリーダー自身が望んでいるからではない。企業側がそれを求め、その行動を評価軸に組み込み、昇進・任命の基準として再生産しているからだ。つまり、リーダー個人がどれだけ意識改革をしようとも、会社が「余白のない働き方」を前提に構造化している限り、リーダーは疲弊し続ける。
本稿では、問題を“リーダーの努力”側からではなく、“企業構造の歪み”という根本原因 に視点を移し、なぜ余白が消え、管理職が罰ゲーム化するのか、その理由を紐解いていく。

第1章|事業計画は“下限”として扱われる──余白が潰れる必然
本来、事業計画にある形で事業が行われれば企業にとって問題がないはずだ。そして、リーダーはその事業計画を達成するために業務計画、人員計画等を行う。そこには休日、休憩等も含まれる。そうであれば、リーダーは計画通りに休むことが可能なはずなのだ。
しかし企業の多くは、事業計画を“達成すべきライン”ではなく、実質的には最低ライン=下限として扱う。計画より良い結果が出れば「もっとできるはずだ」となる。営利企業としては合理的な理屈だが、働く現場には大きな歪みが生じる。
●企業が余白を潰す構造的理由
- 計画達成に満足せず、余剰があればさらなる成果を要求する
- 成果を伸ばせるなら人的リソースは最大稼働が望ましいという発想
- 労働時間の余白は「無駄」「遊ばせている」と扱われがち
- 管理職が調整弁として扱われ、余力がゼロになる
ここに“ブラック化”の萌芽がある。企業からすれば合理的でも、そこで働く者にとっては、余白が制度上消滅する。
▼余白が失われるメカニズム(簡易図)
| 起点 | 企業の反応 | 結果 |
|---|---|---|
| 計画を上回る成果 | 「もっとできるだろう」 | 労働量増加 |
| リーダーや社員に余力 | 「余っているなら仕事を」 | 余白ゼロ化 |
| 残業削減の圧力 | 「管理職が対応すればいい」 | 管理職の疲弊 |
つまり、リーダーが余白を作れないのは、怠惰ではなく企業の要請によるものなのだ。
第2章|給与=24時間支配の権利という“企業の誤解”
本来、給与とは「契約で定めた時間」の対価でしかない。仮に就業規則に9時〜17時と記載されていれば、その時間だけに価値が発生し、その対価としての給料を支払う。
しかし日本企業の多くは、暗黙のうちにこう考えている。
●社員である限り24時間拘束できる
●連絡すれば応答は当然
●休日でも「会社の一部」
●仕事のための準備や学習は“業務外の努力”で当然
●働いていない時間にも忠誠が求められる
●「社員なら会社優先」がデフォルト
もちろん、このようなことはコンプライアンス的に問題がある。しかし、企業側には人件費・人員調整労力的にメリットが多い。また、雇われる側の立場の弱さもあり、「従業員の奴隷化」が進行しているのが実態だ。
その結果、何が起こっているのか。
●誤解が生む“時間支配”の文化
①「給料を払っている=生活時間全体を買っている」
→ 法律では“就業時間の労働”だけが給与対象。
→ 生活時間は会社が保有していない。
→ ただし日本企業は保有した気になっている。
②「緊急時に対応してくれた」ではなく「対応できて当然」と考える
→ 助けた社員ほど負担が増える“善意の罰”構造。
→ 即応性を評価し続けた結果、依存文化が完成する。
③“忠誠を要求する”文化的圧力
→ 企業は“昭和の家父長制モデル”で社員にフルコミットを要求する。
→ この文化が“奴隷的忠誠モデル”を強化し続けている。
●結果として広がる悪影響
| 企業側のメリット(短期) | 労働者側の負担(長期) |
| 追加コストなく対応力が上がる | 私生活侵食・疲弊 |
| 管理職の無償労働で現場を回せる | 思考力低下・創造性喪失 |
| トラブル対応が即時化 | 離職増加・人材枯渇 |
第3章|管理職区分の誤解と“名ばかり管理職”の実態──企業が最も得をする構造
リーダーというと管理職を真っ先に思いつくが、本来、管理職と一口に言っても、その法的位置づけは大きく3つに分かれる。
| 区分 | 法的位置づけ | 残業代 | 実態比率 |
| ① 真の管理監督者 | 経営と一体/人事権限あり | 出ない | 5〜10% |
| ② 裁量労働制管理職 | みなし労働/自主裁量扱い | 超過分は出ない | 約20% |
| ③ 一般管理職(名ばかり管理職) | 役職名のみ管理職 | 本来は出る | 70〜80% |
驚くべきは 管理職の大半(70〜80%)が③に該当し、本来は残業代請求権がある という点だ。ところが実態としては、彼らは“残業代ゼロ前提”で扱われる。
● なぜ本来残業代が出る人たちが、黙って無償労働を受け入れてしまうのか
- 役職を理由に労働時間管理を外される
- 「管理職ならやって当然」という文化的圧力
- 「言えば評価が下がる」構造的恐怖
- 裁判すれば勝てるが、在職中は動けない心理的障壁
- さらには、労働者本人も「管理職は残業代が出ない」と刷り込まれている
結果、企業は 本来残業代を払うべき人に払わずに済む構造 を維持し続けている。
まさに、企業が最もコストをかけずに労働力を得られる層が「名ばかり管理職」 であり、ここが搾取の温床となる。
労働者側の無知もこのことを促進していて問題だが、企業側がそれを利用していることはもっと悪質だ。
第4章|管理職は“調整弁”──罰ゲーム化の理由
”管理職には残業代が発生しない”、これが企業にとって何を意味するか。
管理職は「追加コストゼロで働かせ放題の労働力」 という認識だ。
一般社員の残業を削れば削るほど、その歪みは管理職に転嫁される。休日対応、夜間の電話、突発案件の押し付け──これらが“当然の義務”として扱われる。そして、それに対応できることが、企業から評価されることとなっている。
●管理職が罰ゲーム化するメカニズム
- 一般社員に残業させると残業代増加+ブラック認定
- 残業代ゼロ → 最も安い追加リソース
- 現場の穴埋め役として無限にタスクが流れ込む
- 即応が“評価”として正当化される
- 部下が休めば休むほど、管理職の負担が増加
- 本来の業務(設計・最適化)に時間が回らない
こうして、管理職は「責任だけ重く、自由度がなく、成果も出しにくい」という、典型的な罰ゲーム職になる。その姿を見て、優秀かつ合理的な考え方をする若手ほど管理職を避けるのは当然の帰結だ。
第5章|余白ゼロが企業を弱くする──コンプラが壊れ、生産性が落ちる必然
そうして評価されて昇進した管理職が、また社員を評価する際に”同じ価値観”で行うために、同じく”いつでもつながる、奉仕できる”社員を昇進させる。これが罰ゲーム管理職の再生産の仕組みだ。
このように、上から下まで余白を許さない職場が構築されていく。
●余白ゼロがもたらす副作用
余白がなければ、判断は鈍り、創造性は枯れ、組織は硬直化する。
ルールに基づいた余白とは、ただの休憩時間ではない。思考・改善・学習・再設計のための“戦略資源”だ。
- 法令遵守の意識が低下し、ミスが常態化する
- トラブル対応が場当たり的になり、再発防止策が作れない
- 現場が疲弊しているため、改善案を検討する余力がない
- 生産性は「短時間での成果」なのに、評価は「多く働いたか」で決まる
●余白の効果を示す主な研究・実験
| 研究・実験 | 内容 | 主な結果 |
| Microsoft Japan「15分ごとの離席ルール」実証実験(2022-2023) | 1日6時間労働の中で「50分仕事+10分完全離席」を強制導入(2,000人規模) | 集中力スコア +41%、会議中の発言創造性 +33%、翌日の疲労感 -38% |
| BBC「90分サイクル+18分休憩」実験(2019-2023追跡) | 英国BBC社員1,200人にウルトラディアンリズム(90分集中+18分休憩)を義務化 | 生産性 +23%、創造的アイデア提出数 +65%、欠勤率 -45% |
| NASA+米国空軍 26分仮眠研究(1990年代→2024再検証) | パイロット・管制官に26分仮眠を義務化 | 注意力 +34%、パフォーマンス +54%(現在Google、Nike、PwCなどで仮眠室導入) |
これらのデータは、「休む=サボり」ではなく「余白=性能向上装置」 であることを示している。にもかかわらず、日本企業の多くはこの事実を“知っていても活かしていない”か、そもそも“知ろうとすらしていない”。
日本企業の生産性の低さは、ここにも一因がある。がむしゃらに休まず働き続ける美徳はすでに非現実的なのだ。
▼余白の有無と企業の状態(比較表)
| 状態 | 余白がある組織 | 余白がない組織 |
| 判断 | 正確・冷静 | 感情的・短絡的 |
| 生産性 | 向上する | 低下する |
| 人材 | 成長し、定着する | 離職し、枯渇する |
| 組織文化 | 改善が回る | 悪習が固定化 |
つまり、企業がルールに基づいた余白を軽視し続けるほど、未来は細っていく。
一方で、これらの余白=休みとはルールに基づいた平等なものでなければならない。「喫煙のための自主休憩」といった、一部の対象者に限定されるものは、それを利用しない他の社員の反発を招く。法律で定められた育休などとは話が違うのだ。
第6章|解決のためにはどうすべきか
必要な解決策は、元記事にあるようなリーダーの意識改革ではない。企業構造の再設計だ。
以下は方向性の提示にとどめるが、これだけでも組織は大きく変わる。
●① 管理職の役割を“都合よい穴埋め役”から“設計者”へ
- トラブルの穴埋め係 → ×
- 業務フローの最適化・平準化の設計者 → ○
管理職の役割を変えない限り、残業ゼロ文化は永遠に訪れない。
そして、業務フローの最適化、設計能力を評価して管理職に任命することが重要となる。
●② 評価軸を“即応性”から“再現性”へ
- 即レス・夜間対応・必要以上の献身を部下に求めること → 評価しない
- 再発防止・仕組み化・負荷削減 → 加点
本来、管理職は即レス・夜間対応などを求める必要が無い状況を作るのが主な役割だ。そのうえで、売り上げ増や効率化促進を行うことは管理職が評価されるべき基準となる。
評価を変えれば、行動が変わる。行動が変われば、文化も変わる。
●③ 労働契約の正常化──給与=24時間支配の誤解を捨てる
- 時間外連絡のログ化
- 緊急案件の定義と承認フローの明確化
労働契約の本来あるべき姿を活かすだけで良い。
“契約にない支配”を企業がやめなければ、その時点でマネジメントの正常化は無い=コンプライアンス違反の誹りを免れないということを、社会での共通認識とする必要がある。日本社会全体からの厳しい要請が必要だ。
●④ 余白を“業務”として制度化する
- 週2〜3時間の「設計タイム」を義務化
- 割り込み禁止の遮断時間を確保
余白は贅沢品ではなく、競争力の源泉である。余白を設けることで生産性が向上するのは先述の通り実証されている。
先入観だけで余白をコストと考えるのは愚かで時代遅れだ。
終章|余白を敵視する企業に未来はない
管理職が罰ゲーム化している企業には、優秀な人材は集まらない。また、若手の離脱も著しくなる。
なぜか?他社やベンチャー、外資などはすでに気づき始めているからだ。
今後は、長時間労働を美徳とする組織ほど、生産性は落ち、ブランド価値は毀損し、離職は止まらない。
逆に、余白を確保し、思考の時間を守り、構造として健全な働き方を作る企業こそ、最終的に人材から選ばれる。
余白はコストではない。余白こそが、企業の競争力である。それが、働き方をマネジメントするということだ。
真のリーダーシップの実現には、リーダーがいない時間が不可欠(Forbes JAPAN)