圧迫面接は、次の「組織的いじめのターゲット」を選別する装置である(25.11.11)

序章|「圧迫面接」という形に顕れる歪んだ認知

最終面接の場で役員が発する「君、うちで本当にやっていけるの?」。この台詞には違和感しかない。
面接は本来、お互いの考え方や希望、実態を明らかにしたうえで“落としどころ”を見つける対話だ。ところが現実には、候補者の人となりを発揮させない場を作り、実績をこき下ろす「圧迫面接」が今も残る。これでフィットが見えるはずがない。見えるのは「理不尽に耐えるか否か」だけだ。

明確に言う。圧迫面接は、組織を弱くする。
それは従順さを選別する装置にすぎず、結果として声を上げない人材を集め、改善も革新も生まれない低生産性の温床になる。そして、その結末として私たちはいま「人手不足倒産」という“静かな淘汰”を目の当たりにしている。

講座バナー

第1章|面接の目的は“相互理解”である

面接は「落とすために見極める試験」ではない。労働者と企業側双方の合意形成のための共同検討である。

  • 価値観:何を良しとし、何を避けたいのか。
  • 志向:どんな役割を担い、どう成長したいのか。
  • 実態:評価・報酬・働き方の現実はどうか。
  • 強み/弱み:得手不得手をどう補完し合えるか。

これらをニュートラルに開示し合い、良い面も悪い面もテーブルに出す。完璧な一致は不要だ。違いを前提に、すり合わせで“落としどころ”を見つける。この過程で成立した入社は、たとえ入社後に齟齬が生じても、話し合いで修正できる関係性が残る。結果として、定着率は自然に上がる

反対に、緊張を煽る演出や、上下を強いる態度は、候補者の本音を封じる。企業も候補者も、不完全な情報のまま握手する。結末は決まっている。ミスマッチと早期離職の再生産だ。

つまり採用とは、“相互に選ぶ”プロセスである。


第2章|圧迫面接は”組織的に虐めるターゲットの選別”だ

圧迫面接の擁護論は、いつも同じだ。「ストレス耐性を見たい」。だが実際に測っているのは、耐性ではない。反発せずに従うかどうかだ。言い換えれば、“虐めるターゲットの選別”に等しい。
その人材像は、短期は扱いやすく、長期は組織を腐らせる。

  • 問題を告げない
  • 不公平にも黙る
  • 改善も提案しない

やがて、不正は見逃され、改善の速度は落ち、優秀層から離職していく。圧迫面接に耐えた人ほど「自分もやってきた」として、次世代に圧迫面接をはじめとした慣習を再生産する。悪循環である。
つまり、圧迫面接は“人材を見抜く技術”ではない。組織衰退の思想そのものだ。


第3章|人手不足倒産は“偶然”ではなく“淘汰”である

この数年、「人手不足倒産」という見出しが増えた。だがこれは、労働者の怠慢でも、景気の気まぐれでもない。圧迫面接を良しとするような人を大切にしてこなかった企業が、人から選ばれなくなっただけだ。
”人を大切にしない”形には、他にも以下のようなものがある。そして、そのような企業は凡そ複数の問題を抱えている。

  • 評価が不透明
  • マネジメントが圧迫的
  • 長時間労働が常態
  • 対価が低い

つまり、圧迫面接というのは、これらの労働環境の入り口なのだ。就職する前から内情は伺い知ることができる。
そして、こうした企業の内情は口コミやレビュー、SNSで瞬時に可視化される。情報は隠せない。だから、選択肢のある人ほど応募しない。ミスマッチが増え、早期離職→採用難→現場崩壊のスパイラルへ落ちる。市場は静かに正常化しているだけだ。
国内企業の淘汰は国内経済にとって痛みだが、必要な正常化のプロセスでもある。


第4章|“安くこき使う”という経営モデルの終焉

国内の人手不足倒産の背景には、「人件費=コスト」という前提の考え方がある。賃金を抑え、従順さを重視し、長時間で埋め合わせる。しかし、欧米は「人材=資本/賃金=投資」として設計してきた。30年の差は、思想の差だ。

日本と主要国の平均賃金 推移比較(日本=100)
(OECD、2023年値は2022年PPP固定USD)

年代日本(基準)アメリカイギリスドイツフランス
1990年頃100 (27,826 USD)1258410598
2000年頃100 (35,456 USD)13495112107
2010年頃100 (36,789 USD)162108118113
2023年100 (46,792 USD)171123141126

日本だけがほぼ横ばい、米国は急伸、欧州は緩やかに上昇。賃金は国民感情ではなく、思想と設計の結果である。
日本は「賃金を上げられなかった」のではない。賃金を上げる前提で経営を設計してこなかっただけだ。そして、そのような労働環境、条件にも文句を言わない労働力≒壊れにくい部品を、「圧迫面接」というシステムで選別してきた。
そして、この古い思想は形を変えて繰り返される。たとえば――

「日本人が来ないから、外国人を安く雇いたい」

対象が変わっただけで、思想は何も変わっていない。このようなことを続けていては、これまで30年続いてきた低生産性が向上されることは今後も無いのだ。


第5章|では、どんな企業が説得力のある採用活動を行うのか

人が集まる企業は、奇抜でも豪華でもない。共通するのはシンプルで誠実な設計である。

人を惹きつける組織の最小要件

  1. 役割の明確化:ポジションの目的・責任・裁量・成果指標が言語化されている。
  2. 評価の透明性:何をどう評価し、昇給・昇格がどう決まるかを説明できる。
  3. 対価の説明責任:レンジの根拠、テーブルの思想、見直しの頻度が明快。
  4. 対話の仕組み:1on1/レビュー/レトロスペクティブが「圧」ではなく協働のための場として機能。
  5. 学習の提供:OJTとOFF-JTを回す設計。失敗は糾弾ではなく学習資産化

この土台の上で、面談(旧来の面接)を“相互理解の場”として設計し直してみよう。
以下は、導入とまとめを備えたテンプレの一例である。

相互理解型・面談テンプレ(実務用)

  • 導入:本日は合否ではなく相互理解のための面談であることを宣言。
  • 企業側の開示:事業の現実/守備範囲/チームの強み弱み/やらないこと。
  • 候補者の開示:強み・弱み/動機の源泉/避けたい条件/成功と失敗の具体例。
  • すり合わせ:初期3か月の成功状態、評価指標の仮設定、リスクと支援の合意。
  • 逆質問:候補者からの“企業の器”を測る質問に、正直に答える。
  • クロージング:相互の宿題、次のアクション、辞退自由の明言(強要しない)。

圧迫を排すことは甘やかしではない。むしろ、自社における厳しさを“明文化”で提供することだ。
応募者を騙そう、上手く誘い込もうといった思考での採用活動は、これからは上手くいかないだろう。


第6章|30年停滞の清算は、ここから始まる

「人を大切にする」とは、やさしさではない。説明責任である。制度・賃金・配属・評価の根拠を言葉にし、合意形成のプロセスを透明化することだ。清算のための最短ルートは、次の4点に尽きる。

  • 語彙の更新:「採用→マッチング」「面接→面談」。言葉が行動を作る。
  • 設計の更新:役割・評価・対価を文書化し、共有
  • 場の更新:圧迫を排し、ニュートラルを守る。
  • 思想の更新:人件費を投資と捉え直す。

“従順さ”ではなく“協働”を選ぶ。
“上下”ではなく“相互”を選ぶ。
“消耗”ではなく“成長”を選ぶ。

企業が持続的な成長を実現するには、このような思想での人材採用が必要なのだ。


結語|現代においては淘汰も止む無し

面接の目的がずれている限り、正しい人は採れない。人となりが発揮できない場で観測できるのは、せいぜい沈黙に耐える力だけだ。だが、これからの組織が必要とするのは、問い、提案し、共に成果を作る力である。

圧迫面接の終焉は、単なる採用手法の変更ではない。人をどう見るか、どう扱うかという、組織の思想の更新だ。
欧米が30年かけて実現してきた「人を資本とする設計」を、私たちも本気で学ぶ時がきた。“上から目線”から“相互理解”へ。 それが、人手不足時代を生き抜く唯一の方法であり、日本の賃金と生産性を押し上げる、最も確かな道である。

それができない企業ーーつまり、圧迫面接を行うような企業は、淘汰させる他選択肢はないのだ。

「君、うちで本当にやっていけるの?」ゴリゴリの圧迫面接を仕掛ける役員を黙らせた”痛快な逆質問”(プレジデントオンライン